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内定もらって、志望企業じゃないけどもう就活したくないなあと思っている7年前の私へ

7年前の5月初旬、ちょうど1枚目の内定通知書が届いた頃でしょうか。

採否に関わらず郵送されてくるという書類を数日前から待ちきれず、部屋とポストを何度も往復し、震える手で封を破いたのをのを覚えています。


はじめて手にした”内定”の感触はどうですか?


前年の夏にインターンに参加し、秋には四季報と”就活手帳”なるスケジュール帳を片手に、説明会やら自己分析セミナーやらSPI対策やらES添削やらOB訪問やら……。12月に情報解禁されてからも20社近く落ち続け、ようやくご縁がつながったのです。

それは1等の番号が刻まれた宝くじのようにも、力を込めれば簡単に傷がつく高価な宝石のようにも思えるかもしれません。それをもうひとつゲットしに行くなんて、今はまだ考えたくもないでしょう。だってまた半年かけて論文と面接のスケジュールを管理し、劣等感に苛まれながら20社近くのお祈りメールに耐えなければいけないなんて。考えるだけで気が遠くなって、このままこの会社に決めてしまおうかなと、心が傾いているのではないでしょうか。


でも、本当にそれでいいですか?


その内定先はあなたが志望していた出版関係とは全く別の業界です。選考に進んでいる企業が少なくなり、焦って新たな求人を漁っていたとき、会社説明会のプログラムに『本社周辺の散策』が組み込まれているのを見つけ、気分転換のつもりでエントリーしたはずです。たしかに壮大な自然に囲まれたオフィスは気持ちがよかったですし、面接は終始なごやかな雰囲気で、日程変更の電話にも迅速に対応してくれました。だけど、最初に抱いていた”好きなことを仕事にしてみたい”という情熱は、もういいのでしょうか。


早々に大手から内定をもらって、ほとんど単位の取り終えた学生生活を謳歌している友人たち。顔も名前も知らないのをいいことに、不採用を嘲笑する就活掲示板の住人。なにを言っても否定する圧迫面接官。2通にわたって傷心を抉ってくるお祈りメール。減っていく貯金。あげく気晴らしにYシャツを新調しようとしたら、「今購入されるということは、来年就活ですか?」と声を掛けられる始末。

もうこれ以上頑張れない。自分もさっさと引き上げて、長めの春休みを満喫したいという気持ちはよくわかります。誰であろう私自身が7年前に体験したことなのですから。


それでもあなたに、もう一度向き合ってほしいのです。


あなたの手には内定通知書と一緒に10か月という時間が握られています。人生で一度きりの22歳としての10か月です。

今の私は、あのとき深く考えずに内定を受理したことを後悔しています。考えた末に今と同じ選択をしてもかまいません。ただ、自分が選んだ道に誇りを持って20代前半を過ごしてほしいのです。

私も多少なりとも社会のはしくれとして、企業側の視点も養ってきたつもりです。少しくらいは力になれる自信はあります。だからもう一度夢をかなえるための戦略を見つめ直してもらえませんか。



まず、これまでの就活を振り返ってみてください。そこで問いかけたいのが、志望する業界にきちんと応募してきたかということです。

「新しくやりたいことが見つかるかもしれないし、第一志望の面接対策にもなるから、志望業界以外も積極的に受けた方がいい」

就活セミナーや会社説明会で耳にたこができるほど聞ききました。もちろんそのアドバイスにはうなずける部分がたくさんあります。そしてその言葉通り、アパレル、金融、飲食、教育と幅広いジャンルの企業にエントリーしましたが、私は納得とは別の”心地よさ”を感じていたような気がします。今思えば、夢から逃げる口実に使っていたのかもしれません。

私は幼いころから絵を描くのが好きで、勉強も遊びもそこそこに美術部の活動に打ち込んでいました。ところがいざ受験となると、経済力も才能も足りない。美大への進学をあきらめ、流されるように文学の道に足を踏み入れました。夢が指の隙間から零れ落ちていくような無気力な日々の中、幸いにもこの場所で言葉を受け取り発信することのおもしろさを知りました。創作や表現の分野で働く自分を夢想するようになり、塾講師のアルバイト経験を活かして教育系の出版社をいくつか受けました。でも、それ以外のマスコミにはためらっていたような気がします。その根底には、ここでも才能がないことを突きつけられたらどうしよう、次は何を糧に生きていけばいいのだろう、という心許なさがあったと思います。


ただ10年後、やっぱり転職してやりたいことに挑戦したいとなったとして、立ちはだかるのが年齢制限です。あなたの好きな出版社の求人をいくつか調べてみてください。『書籍編集の実務経験3年以上』『キャリア形成をはかるため30歳まで』など条件が付いて回ります。あなたが何気なく過ごしているその22歳は、あとからいくら大金を積んでも手に入らない”武器”なのです。せっかくあなたが欲しいという会社が見つかったのですから、焦らず落ち着いて一般常識と時事を勉強し直し、将来作ってみたい本の企画をじっくり練ってみるのもひとつの手です。


もし「新卒じゃ若さは有利にならない」と思ったのなら、中途採用の転職サイトや企業の個別HPを覗いてみてください。中には『社会人デビュー可』『学生さんは入社時期を考慮します』といった求人も意外とあります。特に条件が書かれていないけれど魅力を感じたのなら、電話で問い合わせてみてもいいかもしれません。たとえご縁がつながらなくても、興味を持たれて嬉しくない企業はないはずです。


ところで、どんな基準で会社を選んでいますか?もしかして”やりがい”と”人柄”だけで選んでいませんか。「面接での雰囲気がよかったなあ」という感触や、『アットホームな雰囲気』『早くからやりがいのある仕事を任せてもらえる!』という求人の文言を素直に信じていませんか?

少なくとも愛想の悪い会社より、面接で盛り上がった会社を選んだ方がいいとは思いますが、本当の相性は働いてみなきゃわからないものです。従業員全員が文句なしにいい人!なんてことはめったにないでしょうし、入社時はうまくいっていても異動や退職、後輩の入社など定期的に関係は移っていきます。物事には必ず両面性があることも忘れないで。『アットホーム』は仕事とプライベートがごちゃ混ぜになりがちなのかもしれないし、『早くからやりがいのある仕事を任せてもらえる』は人手が足りなくて教育制度が整っていないのかもしれません。

誤魔化しのきかない条件の部分も考慮してください。週休2日と完全週休2日は違います。アニバーサリー休暇って有休と別に取れるんですか。お給料は同業他社と比べてどう?残業代は出る?補助や手当は?賞与は年何回?副業は?

ちゃんと調べたつもりでしたが、入社してからこんなはずじゃなかったと何度同期と嘆いたことか。どういう仕事をしたいかだけでなく、プライベートな時間をどう過ごすかにも想像を巡らせてください。あなたにとって譲れないものを慎重にはかりにかけて、入社後のギャップを小さくしておきましょう。


長々と語ってきましたが最後にひとつだけ。

面接を楽しんでください。

私は、自分で思うより全然笑えていません。声だって暗くこもって聞こえています。何度も何度も同じ質問を繰り返して、あの頃の私は面接を業務のように感じていました。それは面接官も同じです。何十、何百の学生に同じ質問をして同じような答えを聞いているのです。どちらかが意識して予定調和を崩さなければ、儀式のように時間が過ぎていくだけです。

面接といえど、人生の貴重な時間を割いていることに変わりはありません。たとえ落ちたとしても、なにかひとつでも得て帰りましょう。面接の最後に「この辺でおいしいお店ってありますか?」と聞いてお気に入りのレパートリーを増やすもよし、好きなものについて語ってストレスを発散するもよし。なにがなんでも無駄にはしない。倒れるなら前にってやつです。自然と表情も声も明るくなるでしょう。



これまでの社会人生活を振り返ってみると、どこか頭の片隅に「妥協して入社したんだから」という言い訳があって、一生懸命になり切れなかったような気がします。思い切って転職をして、今は本づくりのできる環境で日々刺激を受けながら過ごしています。ですが、もし初めから覚悟を決めて社会に出ていたら、もっと積極的に実績を作りにいって、もっと早くやりたい仕事に就けていたのではないかとちょっぴり苦い気持ちになります。

でもね、前職で積んだ経験が私を助けてくれているのも事実です。ハードな接客業を乗り切った気力と丁寧な仕事ぶりを認められ、編集業務だけでなく事務も手伝うという条件で、この年齢でも出版業界に滑り込むことができました。結局、どんな選択をしても必ず今につながりますから。

あんまり思いつめず、自分の気持ちに素直になってください。

なによりあなたには”書く”という最大の武器があります。つらいことも苦しいことも、たいがいのことはネタにできるでしょう。あなたの中でひと段落着いたらぜひ物語にして、読ませてください。では、それが返事ということで楽しみにしています。



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