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雪景色のなかにあるものーカイユボット「屋根の眺め(雪の効果)」

こんにちは。パリ郊外在住の作者が、美術館で運命的な一期一会の出会いを遂げた作品について歴史や解説を踏まえつつ、自由に気軽に、時には脱線しながら綴る美術エッセイです。 マガジンのタイトル「カルト・ブランシュ(Carte blanche)」とはフランス語で「白紙(全権)委任」の意ですが、レストランの「おまかせメニュー」のように自由度の高いクリエイションなどの表現として使うことの多い言葉です。



パリの雪景色

肌に染みるような寒さの1月下旬、オルセー美術館5階の印象派絵画のコーナーをゆっくり歩き眺めていた。 このコーナーには風景画が多く、穏やかな春の優しい光に溢れたモネやマネ、ルノアールなどの作品を観て「まだこんな風景をみるのは先になりそうだ」と思いながら進んでゆく。そしてふと立ち止まった絵がギュスターヴ・カイユボット作「Vue de toits (Effet de neige) / 屋根の眺め(雪の効果)」(1878-1879年)だった。 パリのアパルトマンを覆う白い雪。青みがかった灰色の空。靄(もや)のかかり方からして、朝方ではないだろうか。煙突からあがった煙がさらに視界を霞ませているようだ。パリの朝の冷たい空気のなか、都会でも微かに感じられる冬の透明な空気。人の気配も日差しもない。今日はこのまま一日陽光はささなそうだ。フランスに住んでいると、よりこの空気のリアルさがわかる。こんな風に重く、薄暗く、どんよりとした冬がうんざりするほどに長く続くのだから。

Gusutave Caillebotte / Vue de toits (effet de neige) (1878-1879)


カイユボットとの出会い

オルセー美術館はメインフロアの絵画には一点ずつにライティングを施してある。そのためもあり、手前の屋根に厚く積もった雪が眩しいほどに白くみえる。奥の霞んだ空気と手前の真っ白で手付かずの雪。じっと眺めていると複雑な気持ちが湧き上がっていることに気づいた。何か包み隠されたような気持ち。雪の中に覆われてしまっているようだ。
すぐ隣にはモネの田園の雪景色の作品「Le Givre/霧氷」があるが、全く雰囲気の違う空気感だ。カイユボットの絵には明らかに一線を画す何か含みのある感情のようなものを感じる。
その日はそれ以外にも色々印象派の作品を観たのだが、終始この「屋根の眺め」が頭から離れずにいた。

それから数日、私はこの絵について色々考え、同時にギュスターヴ・カイユボットという画家の人生を紐解くことになった。

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