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”何もない”は可能性


「ない」と言いがちな地域こそ可能性の宝庫

「何もない」と聞いて、どんなイメージを抱くだろうか? 便利な都市機能や賑やかな商業施設がない場所、そんな「何もない」地域には、実は大きな可能性が秘められている。
地方には資本、仕組み、消費力は弱いかもしれないが、資源、思想、生産力が豊かに存在する。私はこれを”都市と地方のもつ3S”と整理してみている。
今回は、私自身の体験と共に、地方の「何もない」が持つ本当の価値について考えてみたい。

都市と地方がもつ3S

「ない」ことが創造の源泉であり武器


私は幼少期から大学生まで福岡や大阪といった都市部で過ごしてきた。
7年前に長崎市に移住して、古き良き街並みの雰囲気を楽しんでいる中で周囲の方々に「風情があっていいですね」というと決まって市民は「長崎には何もない」という。確かに、都市部と比べると長崎には大規模な商業施設や便利な交通機関が不足しているかもしれない。私もそのことを物足りなく感じるシーンがなかったといえば嘘になる。

しかし、私は長崎市での暮らしが長くなるにつれて、もしかしたら何もなかったのは都市ではないかと思うようになった。
都市機能がないからこそ、地方には創造の余地が広がっている。都市の喧騒や競争から解放された環境は、新たなアイデアを生み出す温床となる。
コンパクトで都市機能が弱い地方ほど、自然と触れ合い、人々との距離が近くなる。このような環境は、都市部では得られない視点やアイデアを育む土壌となる。

時代やビジネスのテーマである「共創」の強さは地方の営みにある。
「ない」をなんとかしようという課題意識や「あるに変えていこう」という共通認識があるからこそ、共創はうまれる。時代の空気だから…という意識では真の共創はうまれない。私はそう思う。

以前取材させていただいた雲仙観光局様が行っている合同ワーキングの様子
業界を超えて同じ熱量・未来を描く人が集い地域価値向上に取り組んでいる。
https://unzenonsen.unzen.org/unzen_base/

↑こちらが私が記事制作させていただいたものです。

余談だが、都市と地方のこの関係は、大人と子供の関係にも通ずるのではないかと思うときがある。
経験が多くできることが多い大人は、そのスキルや経験やお金の力を活かしながら何者でもない子供を育てようとしがちだが、実は何者でもない子供こそ豊かなコミュニティが存在していて、クリエイティビティにあふれていて、これまで生きてきた世界を超えた気づきを与えてもらえるのは大人の方だったりする。

大人が何者でもないこどもの創造力を伸ばしていくサポーターであると気づいたときその姿勢や向き合い方が変わっていくように、都市が地方の創造力を伸ばすサポーターであるということに気づけたとき、見える景色やプロジェクトのありかたは変わっていくのではないか。

地方の強み:資源、思想、生産力


地方には、豊かな自然資源と独自の文化、そしてその土地ならではの生産力がある。たとえば長崎市には、日本西洋中国が共生してきた歴史と文化、美しい海や山々、新鮮な海産物など、他にはない資源が数多く存在する。
これらの資源を活かし、地元の思想や伝統を取り入れたプロジェクトをデザインしていくことで、新しい価値を生み出すことができると日々感じてきた。

長崎が舞台のドラマ「君が心をくれたから」のロケ地にもなった東山手甲十三番館。
近くには西欧文化がとりいれられる一方で
女性は低い地位のまま満足に教育を受けられない時代に
一人ひとりの女性が“幸せ”に生きていけるような女子教育に力を入れた活水の学校がある。
この場所を次代の女性の幸福を考え実践していく拠点としてリデザインしたら…
海をのぞむ 長崎温泉 喜道庵。
この地で長崎の海産物を楽しみながら、
昔海を眺めた先人たちのストーリーに触れる体験がデザインされたら…

また、地方の生産力は、大量生産とは異なる質の高いものづくりを可能にする。小規模だからこそ、手間をかけた丁寧な生産ができる。自給自足のエネルギーがある。これが都市にはない強みとなる。

ひとつ弱みがあるとすれば、その思想・資源・生産力からお金を稼げる仕組みをつくっていく力がまだまだ弱いということ。
先に述べた3Sを掛け算していくことがプロジェクトデザインにおいて非常に重要になると考えている。

イノベーションの起点は地方にあり


地方の資源、思想、生産力から生まれるアイデアは、イノベーションの起点となる。私は、長崎市の自然や文化・コミュニティに触れる中で、多くのインスピレーションを得ることができた。そして、地方にある課題を価値に変えるアイデアを具体的なプロジェクトとして形にすることで、新しい価値を生み出してきた。

例えば、長崎の新鮮な海産物を活かした新しい食のカルチャーづくり(#長崎カルパッチョ)や市内事業者の営みの背景にある歴史文化ストーリーを体験価値に変えるサステナブルツーリズムのコンテンツ造成など。https://www.at-nagasaki.jp/dmo/news/776

地方に眠る資源・思想・生産力をベースに小さなコミュニティが知恵をだしあって生み出されるアイデアは、都市起点ではうまれにくい。モノでもコトでもなくイミにフォーカスをあてて、地域コミュニティとつくりあげるプロジェクトは都市に気づきを与え、新たな価値を提供するものとなるだろう。

ストーリーと言語化、コミュニティ形成の重要性

地方の価値を最大限に引き出すためには、その地域のストーリーを言語化し、共有することが重要だ。地域の歴史や文化、風土に根ざしたストーリーは、人々の共感を呼び、地域の魅力を伝える力を持つ。そして、同じ思想を共有するコミュニティを形成することで、持続可能なプロジェクトが実現する。

私は、プロジェクトデザイナーとして活動を始めるにあたり、多くの地元の人々と交流し、彼らのストーリーを聞いてきた。その中で見えてきたのは、地域の人々が持つ深い愛情と誇りだった。これらのストーリーを言語化し、プロジェクトに組み込むことで、多くの人々に共感されるアイデアを生み出すことができると確信している。

まとめに入ると…
「何もない」と言われている・口にしている地方ほど、創造の可能性に満ちている。都市機能の欠如は、逆に新しい価値を生み出すための余地を提供してくれる。
地方の資源、思想、生産力を活かし、地域のストーリーを言語化し、コミュニティを形成することで、地方発のイノベーションが生まれる。私は、長崎市での経験を通じて、その可能性を実感し、これからも地方の価値を探求し続けたいと考えている。地方の「何もない」が持つ本当の価値を、多くの人々に伝えたい。

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