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孤独の話をしよう

孤独の話をしよう。

目をつぶると、暗闇がわたしを支配する。穏やかな悲しみが全身を豊かに覆い尽くして、ただ溺れてゆく。目が慣れてくると、暗闇のなかで、微かに光る星屑がある。まぶたの裏でチカチカと。その光がとても希望だとは思えなくて、ただまぶしさだけが絶望を深くする。だれかの輝きが、わたしの影を色濃くするのだから。

毎日楽しい訳がないなんてこと、思春期の頃にはとっくに分かっていた。なのに、なぜわたしは今も生き続けているのだろう。この虚しさを永遠に抱えながら死んでゆくだけの"にんげん"という生き物。その可笑しさに笑える夜もあるけれど、今日は笑えないよ、と自嘲する。

いつか死んでしまうのに、頑張りながら泣きながら、時には怒られたり苦しんだりしながら。それでも明日を目指さなければいけないなんてどんな拷問だよ。そんな風に毒付いても"明けない夜はないんだよ"。絶望の響きを持って偉人たちの言葉を噛み締めるとき、ああわたしは人間に向いていないと心底思う。

孤独は絶望で、絶望は苦しみだ。

それでいて、孤独も絶望も、なによりも優しい。彼らは裏切ることがなく、わたしにいつだって寄り添ってくれるから。孤独と絶望だけが友達さ、なんてアンチヒーローのようなうたを口ずさむ。

神さまはたぶんとても忙しいのだ。戦争の足音、災害の涙、病に倒れるひとびと。きっと救うのに一生懸命で、片隅で泣くわたしのことまで面倒を見切れないのだろう。わたしが一人で泣かないために、神さまは地球を丸くしたんじゃなかったっけ。違うっけ。

孤独と絶望だけは揺るぎなく、信じることができる唯一のもの。まるで神さまは最初から君たちだったんじゃないか、なんて笑ってしまうほどに。恋人よりもやさしく、恋人よりも親密で。いつだって気づけば隣にいる。それが痛いほど苦しい。

永遠に明けてほしくない夜も、降りやむことがない雨もあるけれど。わたしはあなたを救うことはできない。あなたもわたしを救うことはできない。それでも、とお互い手を伸ばしてしまうわたしたちだから。何度傷ついたって、傷をつけあったって、側にいたくて、抱きしめたくて。ゾンビのように街を彷徨いながら、ようやく見つけたあなただから。

それを、わたしたちは今日から"愛"と呼ぼう。

あなたとわたしが同じ孤独を、同じ絶望を抱えていることを知れた今日を"誕生日"にしよう。

生まれてきたことを何度も呪い、愛に飢え苦しんできた今までを、すべてかき消すような光は持ち合わせていないけれど。同じ暗闇のなかで手を繋ごう。暗闇のなかではきっとあなたの顔もわたしの顔も見えないから。笑っていたって泣いていたって、どんな顔だっていいから。

孤独とは、香りだ。孤独の香りがすれば、わたしたちは万有引力のように惹かれあう。悲しみの色が同じだったことに笑いあおう。わたしたちが孤独であることを、だれにも否定させないでいよう。

あなたも孤独、わたしも孤独。お互いに孤独のまま、二人ぼっちでいよう。

わたしの明日は最低だろう。でもきっと、それと同じくらい美しい愛が、同じ空の下で存在しているから。

それを希望と呼ぼう。

あなたと出会えてよかったと叫び出したいほどに思う夏の夜に。蒸し暑さと早すぎる蝉の声が、わたしを蝕もうとも。それでもあなたに会えた今日がわたしの記念日だから。

生きててくれてありがとう。このどうしようもない世界で。今日を生き延びてくれてありがとう。わたしの元にたどり着いてくれてありがとう。あなたが生きていた今日は、どんな思い出よりも光り輝いてるよ。

おやすみなさい、明日はおはようを言い合おうね。

愛しているよ。

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