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『翠』 24

 ラフォーレ原宿の『マジュスティックレゴン』で、母におねだりをして冬物のコートと、膝上丈のスカート、それにアイボリーのショートニットまで買ってもらった。中五階にあるその店舗には、少し大人向けの女性服が売っている。背伸びをしたいときなどに、着たい服が売られているのだが、中学生が一人で来るには、ちょっと値の張る値段である。

 母に買ってもらったモノに関しても、コートは首元にファーのついた、白色のロングコートで、スカートはチェックの模様の入った黒のスカートだった。そしてニットは首丈まである如何にも温かそうなニットで、合わせて三万円くらいの値段がした。

 「ありがとう」とお礼を言ったら、「私は一緒に居てあげられないから、これくらいしかできることがないのよ」と、あっけらかんとしており、さすがに有名どころの企業に務めているだけあり、母にとっては大した値段ではないらしい。

 ほんとはベージュのショートブーツも欲しかったのだが、さすがに三万超えの買物をさせているだけあり、なんとなく遠慮してしまった。幾ら実の母とはいえ、そこまで甘えるのは、さすがに気が引ける。母にとっては大したことない額でも、わたしにとっては、あり得ない大金だった。

 母の務めている会社は道玄坂にあり、インターネット関係の広報として働いている。ふだんから帰りの遅い母にとっては、広さ的にも広すぎず狭すぎず、わたしがたまに泊まりに来ることを考えると、今の家が立地的にもちょうどいいらしく、それなりに値段は張ったらしいが、父と離婚してすぐに、思い切って購入してしまったらしい。

 父親とは仕事の繋がりで知り合い、結婚のきっかけはデキ婚だが、恋愛期間はそれなりに長く、あれでも一応、三年間の恋愛期間を経て結婚をしている。

 ちょうど結婚を考えていた時期に、妊娠が発覚したらしく、その流れで結婚することになったようなのだが、その時点では、お互いの両親への挨拶は済んでおらず、両親への挨拶の際に、それなりに猛反対されるのではないかと心配していたが、むしろ結婚が決まったことを喜んでくれていたようで、結婚と妊娠の報告の順序が逆だったことに関しては、とくに何もいわれなかったようだ。

 それよりも、何の相談もなしにとつぜん離婚を決めて、一時的にではあるが実家に出戻りしてきたことのほうが、猛反対というか、かなりバッシングを受けたようで、実際に離婚が成立するまで、それなりに時間がかかってしまったらしい。

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