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オルタネートな平成


改元して今日でちょうど1年が経過したが、平成生まれ、平成育ちの自分としては、古さの代名詞としての昭和(すみません)と、新しさの代名詞としての令和のはざまで未だに宙ぶらりんな気分でいる。それはともかく、今回はジャニーズのアイドルグループ、Hey! Say! JUMPにまつわるタイポグラフィの話をしたい。

以前勤務していたデザイン事務所でテレビ情報誌の表紙デザインを担当していた頃、2、3号に一度はHey! Say! JUMPが誌面に登場していた。といっても、デザインするのは表紙だけだったので、デザイナーとしてHey! Say! JUMPと向き合うのは、この12文字のみ。正直どんなグループなのかもわからないが、ある出来事が強く印象に残っている。

表紙のデザインで使っていたフォントは、モリサワのMB101というありふれたゴシック体。これでHey! Say! JUMPと打つと、こうなる。

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いつものようにレイアウトを済ませ、編集部に提出したのだが、意外なところに修正が入った。Hey! Say! JUMPのaをセンチュリーゴシックに変更したいとのことだった。

小文字で表記していたものを大文字にしたいとか、文字を太くしたいとか、大きくしたいという修正はよくあるが、これはかなりめずらしい。aだけセンチュリーゴシックにするのは、こちらとしてはどうしても避けたいので、MB101のまま、aだけをセンチュリーゴシックスタイルに手直しすることで解決した(画像の赤いaはセンチュリーゴシック)。ちなみに、センチュリーゴシックのようなaを「Single story(1階建て)」、MB101のようなaを「Double story(2階建て)」と呼ぶらしい。

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最初は毎回文字をアウトライン化後、手直しをして対応していたのだけど、Hey! Say! JUMPの文字が頻繁に登場するものだから、Hey! Say! JUMPのために手直しした1階建てのaだけを入力できるフォントを作って、それをMB101と合成して使うようにした(MB101のフォントファイルを改造したほうが話が早いのだけど、それは法的に許されていない)。

この雑誌以外でHey! Say! JUMPの文字が扱われている様々な印刷物をみると、やはりどこもかしこもaがセンチュリーゴシックと同じスタイルになっている。それを発見するたび、顔も知らないデザイナーと戦友になった気分になるのだけど、この表記ルールは広告のプロに言わせると天才的なセンスらしい。Web記事を読んでなるほどと思った。

「知る人ぞ知るポイントを入れておくのは、とても重要です。自分だけが知っているとファンが満足感を得たり、豆知識をほかの人に披露できて優越感に浸れます。コアファンから情報は拡散していくので、コアファンを得るために、こだわりポイントを入れるのは、マーケティングでは王道の手法です」(NEWSポストセブン「ジャニー社長のネーミング力 広告のプロが『天才』と語る理由」より引用)

ここからがやっと本題なのだが、一部のフォントには「スタイリスティック・オルタネート」という機能がある。ひとつの文字にはひとつのデザイン、というのが通常だけど、この機能を持つフォントは、特定の文字に限り複数種類のデザインが用意されていて、自由に変更することができる(画像はGill Sans NovaでHey! Say! JUMPの曲名を組んだもの。赤い文字がオルタネート)。

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ペンギンブックスやミッフィーの絵本でおなじみの書体「Gill Sans」は、数字の1が単なる直線だ。そのため、タイプデザイナー小林章さんの著書『欧文書体 2 定番書体と演出法』には、1が大文字のI(アイ)や小文字のl(エル)と見分けがつきづらいので、一瞬の可読性が求められる標識などでGill Sansを使う場合は注意、というようなことが書かれている。この本が書かれた当時世に出ていたGill Sansの場合たしかにそうなのだが、2015年にリリースされた「Gill Sans Nova」には1のデザインにバリエーションがあるので、その心配はなくなった(エリック・ギルがデザインしたオリジナルのGill Sansにない形は邪道だという声はあるかもしれない)。

デザイナーがフォントを選ぶとき、見た目の雰囲気や印象で選ぶことが多いけれど、このような機能面に着目すると視野が広がるかもしれない。

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