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【読書感想文】中日ドラゴンズが優勝できなくても愛される理由

先日光文社新書からこんなタイトルの本が発売されました。

「中日ドラゴンズが優勝できなくても愛される理由」

目下2年連続最下位に沈むドラゴンズ。それでも週末を中心に球場には毎試合3万人以上の観衆が詰めかけ、野球中継の視聴率も絶好調。
成績が伴わずとも、なぜここまで熱狂的に愛されるのか。その謎にスポーツライターの喜瀬雅則さんが迫ります。


・「ドラゴンズ論」を超えた「名古屋論」

現中日ドラゴンズ監督の立浪和義さん、ドラゴンズOBの福留孝介さん、田尾安志さん、更には地元放送局のアナウンサーや熱狂的ドラゴンズファンでも知られるサカナクションのボーカル山口一郎さんまで。
様々な形でドラゴンズに携わってきた方々を徹底的に取材して書き上げられたこの本は、ドラゴンズという一つの野球チームにとどまらず、ドラゴンズが本拠地とする名古屋の街がどういった県民性や風土を持っているか?という観点からドラゴンズがここまで愛されるワケを分析しています。

まさに、ドラゴンズ論を超えた「名古屋論」ともいえる一冊です。

詳しい内容はネタバレになってしまうので、ざっくり言えば名古屋の「ドラゴンズ愛」が凄まじいという点に尽きるでしょう。

東京・大阪に次ぐ第三都市として君臨する名古屋。
一つの特徴は、地元定着率がかなり高いこと。
県内には高校や大学、更にはトヨタをはじめとした愛知を地盤とする企業も多く、愛知で生まれ愛知で育つことは当たり前。
地元大学進学率も70%を超え、これは全国1位。

「おらが街」の意識も強く、地元のドラゴンズをファンだけでなく、メディア・財界など街全体で支え合う構図が自然と出来上がっているそうです。

例え、東海地方出身でなくてもドラゴンズで成績を残し、「ドラゴンズ愛」を感じた選手はファン全体が温かく見守る。
本書に登場する立浪監督も福留さんも出身は関西ながら、今やドラゴンズOBとして愛されています。

「名古屋」という街に、「ドラゴンズ」というチームに尽くしてくれる選手・監督はとことん愛される。
おらが街名古屋の誇り、ドラゴンズが愛される所以は名古屋独特の「地元愛」に支えられているものなのです。

・星野仙一と落合博満

本書の中で対照的に描かれているのが、星野仙一さんと落合博満さん。
星野さんは岡山、落合さんは秋田と共に出身は名古屋ではなく、現役時代にドラゴンズでプレー。引退後は監督も務め、共にチームを優勝に導いています。
ロッテでプレーしていた落合さんを大型トレードで中日に移籍をさせたのが、当時監督だった星野さんでした。ドラゴンズとも縁の深い二人。

しかし、星野さんが選手時代から「ドラゴンズの象徴」として愛された一方で、落合さんは監督としてチームを初の連覇に導くも観客動員数の伸び悩みなどを理由に、チームを去りました。

選手やコーチのみならず、裏方や記者などにも愛想を振る舞い、後援会行事などにも積極的に参加していたという星野さん。
おらが街のドラゴンズをとことん愛し、チームを指揮する星野監督の姿に名古屋のファン、球団関係者は虜になりました。

片や、時に冷徹なまでに勝利を追い求めた落合監督。
勝利を阻害するものは徹底的に排除。後援会活動なども選手の負担を考慮して参加を取りやめ、親会社が新聞社にも関わらず「マスコミに話すことはない」と監督コメントを出さないことも。

おらが街のチームゆえに、名古屋全体のドラゴンズへの温かさは、時に選手の甘えに繋がるものでもありました。

そうした甘えを徹底的に排除し、「勝つことが最大のファンサービス」とその方針を曲げなかった落合監督。
その先に待っていたのは、球団史上初の連覇達成後の半ば解任に近い監督退任でした。

・それぞれの温かさを持つ二人

持ち前の明るさで、常に周りには人が集った星野監督。
一方、一匹狼の雰囲気を漂わせる落合監督ですが、そこには言葉だけではない温かさも。落合監督時代の選手たちは一様に見守ってくれた温かさを語り、著者の喜瀬さんも新聞記者時代中日の担当を降りることを監督に伝えると、温かい言葉を掛けられたそうです。

名古屋の人々にとっては、分かりやすい愛を感じる星野監督が合ったのかもしれません。しかし、両者は方向性は違えどファンを、球団を、選手を思っていました。

不仲説がたびたび流れた二人ですが、落合さんはのちにこれを明確に否定しています。
中日を語るに欠かせない二人の「不仲説」は、二人の周りを囲む人たちがいたずらに作り上げてしまったものだと思えてなりません。

・「勝つだけ」ではダメなのか?

落合監督時代からドラゴンズファンになった僕にとって、永遠のテーマはこれです。
「勝つことが最大のファンサービス」といった落合監督。
派手さはなくとも、一つ一つの勝利を積み上げていくチームは見ていてワクワク感がありました。
小学生ながら熱狂的なドラゴンズファンになったのは、あの圧倒的な強さも大きな要因でした。

一方で、プロ野球が「興行」であり、あらゆる面でスポンサーなどに支えられていることもまた事実。確かに、自分がスポンサー企業だったとして、急に付き合いが悪くなれば寂しいと思ってしまうかもしれない。
プロ野球の監督とは一体何なのか。
ペナントレースを戦うチームのリーダーでありながら、球団という全体で見れば現場を預かっている中間管理職でもある。

プロ野球の監督はチームを勝たせるだけではダメなんでしょうか。

・立浪イズムに期待

本書の最後に登場するのは立浪監督のインタビュー。
星野・落合両監督の下で選手としてもプレーした立浪監督が目指すのは、星野式でも落合式でもない新たな立浪イズム。

「ミスタードラゴンズ」と呼ばれ、誰よりも名古屋に愛された男立浪和義。
だからこそ、下位に沈むチーム状況でも一つでも上を夢見てファンは見守っているのだと思います。

ただ、それは「勝たなくても良い」という甘えと紙一重なのもまた事実。
選手時代は主力選手にも物おじせず自分の考えを伝えてきたという立浪監督。
低迷が続くドラゴンズを、黄金期を知る男立浪和義がその手腕で一つでも上の順位にチームを導くことを願ってやみません。


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