あなたの愛したスパイ【ショートストーリー】
Wi-Fiのパスワードを尋ねると、フロントのおっさんは悪戯っぽく「Zero, zero, seven」と答えた。
「ジェームズ・ボンド?いいね。スカイフォールが好き」お愛想程度に答えるとおっさんは、「最高のボンドはショーン・コネリーだよ」と肩をすくめた。
ルームキーを受けとり立ち去ろうとすると、「これ」とDVDを手渡された。「3泊するんだろ?時間があるときに観るといい。名作だよ」
パッケージには、“From Rossia with Love”と書かれていた。
荷解きを終えベッドに寝転びDVDを再生すると、しばらくして画面に、今いる部屋と同じ壁紙が写された。
どうりで。狭い部屋に不釣り合いな高級感ある壁紙だと思った。
これを見せたかったんだな。眠気に片足をとられながら、ちょっとだけ笑う。旅先の緊張がほぐれていく。
壁紙同じだねって、明日おっさんにいってやろう。TVから流れる銃声は今夜の優しい子守唄だった。
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お読み頂き、ありがとうございました。
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