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実は拾いたくなる「すてるデザイン」@GOOD DESIGN Marunouchi

東京・丸の内のGOOD DESIGN Marunouchiで、「すてるデザイン〜ゴミを価値に変える100のアイデア」 という企画展が開催されているというので、出かけてみた。筆者が教員として勤めている多摩美術大学のデザイン関係の学科と一般企業の協働による成果物の展示であることをお断りしておく(ただし、筆者の所属は芸術学科であり、出品者の中には直接教えている学生は多分いない)。企業との協働、すなわち産学連携の成果ということで、一定の水準以上のものばかりが展示されていた。

「すてるデザイン」という言葉は一種の反語というべきだろうか。時代が必要としているSDGsエコロジーの流れのうえにあるフレーズであることは間違いない。学生のアイデアとはいえ、なかなか刺激的で、心に残るものも多かった。一部の作品を紹介しておきたい。

前島正季「生花を持ち歩くバッグ」

「生花を持ち歩くバッグ」は何と、90年も前の蓄音機を再利用したものだという。細かいことは見ただけではわからなかったが、蓄音機のボディを再利用したということだろうか。近寄って見ると「VICTOR」というメーカー名が貼られていることがわかる。普通のカバンとしての再利用ではなく生花用にしたところが、心憎い。生花はいただくとうれしいものだが、確かに持ち歩きには不便を感じることがある。ケースの硬さと、立てられるという特性を生かしたわけだ。

堀田美凪「BRASS TOTE」

「BRASS TOTE」はコートやマフラーを再利用したバッグ。吹奏楽部員が使うという前提で制作されている。吹奏楽部員に限らず、楽器を演奏する人間は、譜面台と楽譜の持ち歩きには苦労を感じることも結構あるものである。

「BRASS TOTE」のサイドには譜面台の収納スペースがある

譜面台と楽譜を入れやすい作りにするというニッチな目的を追求した成果と言えそうだが、日本にはアマチュアの音楽家も多いので、実は膨大な需要がある可能性もあるのではないだろうか。

「コーヒータンブラー用トートバッグ」

「コーヒータンブラー用トートバッグ」は、白のボトムズの再利用なのだそうだ。特に気がきいているのは、わざわざコーヒーで染めているところだろう。タンブラー用のポケットの中で万が一、コーヒーがこぼれても、汚れたように見えない。汚れやすいものを最初から汚れてもいいようにしておくというのは、さらに物を長く使う気持ちをも呼び起こすかもしれない。

「Satto モノをサッと入れられるバッグ」

コンビニやスーパーのレジで袋に買った物を入れるのに手間取る経験を、少なくとも筆者はかなりしばしばする。リサイクルナイロン製のこのバッグ「Satto」は、四角い布として広げて台上に置くことができる。そして、その上に買った物すべてを載せて「サッと」持ち上げると、たちまちバッグになるのだ。

「Satto」の使い方

使い方は、映像でも展示されていた。本当に瞬時にバッグになる。「エコバッグ」としてかなり秀逸なのではないだろうか。


平面化した調味料

世の中でどのくらい調味料が無駄になって捨てられているかは不明だが、オブラートを媒体にして調味料を平面化することにより、使いたい分だけを購入して補充しようという発想が興味深い。中でも「過剰な包装を避ける」ところに注目すべきではないだろうか。調味料は、詰替え用パックにしても、どうしても包装用の袋を消費してしまう。何とかしてそうした事態を避けようという努力が大切なのである。昭和時代まではあった量り売りに近い考え方でもある。ほかの分野にも応用できないものだろうか。

「Halfn」

「Halfn」。スプーンで何かを食べる際に、スプーンの大きさを半分にすると食べる量が減るという、環境にも体にもよさそうな発想が興味深い。食べる量を減らしたいときには、料理を盛る皿や茶碗の大きさを小さくするという方法があり、実践している人も多いのではないかと思うが、スプーンでの実践は新しい考え方だ。しかも、「おいしく食べる」とは何か? について考え、時間をかけてよく噛んで食べることで食材そのものへの接し方も変わるのではないかという問題提起が含まれている。

「Eco Beauty Crayon」

「Eco Beauty Crayon」は、マスカラやアイシャドウなどの化粧品を再利用したクレヨン。化粧品にも消費期限があるので、再利用の素材になりうるわけだ。筆者は化粧をしないので、消費期限切れの化粧品がどのくらい捨てられているかということの実感が皆無だが、世の中のさまざまな物には消費期限や使用期限があることを再確認させてくれた。

上柳夏海「やる気のない犬」

「やる気のない犬」は、自転車のタイヤチューブを再利用したドアストッパー。自転車のタイヤの廃材がどう使われるかなどということは、考えたことがなかった。まずという非常に親しみのある動物を模したことには、猫派の筆者も大いに共感できる。ドアストッパーは、日常生活で必要な局面が頻繁に訪れる物である。タイヤチューブ製なので、多少の汚れも気にならないだろう。そして、感心したのは作り方だ。編み上げている。手作り感もあって素晴らしい。

というわけで、「実は拾いたくなる」という思いが伝わっただろうか。とても有意義な展覧会だった。

※筆者の確認不足で作者名がわからなかったものについては記しておりません。コメント等でご連絡をいただければ、追記いたします。

■企画展情報
企画展「すてるデザイン〜ゴミを価値に変える100のアイデア」
会 期:2023年1月20日(金)〜30日(月) 会期中無休 入場無料
時 間:11:00〜20:00(最終日のみ 18:00まで)
会 場:GOOD DESIGN Marunouchi(東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1F)
主 催:多摩美術⼤学 TUB、多摩美術大学プロダクトデザイン研究室Studio3
共 催:多摩美術大学統合デザイン研究室
協 力:伊藤忠リーテイルリンク株式会社、小田急電鉄株式会社、株式会社電通国際情報サービス、ブックオフコーポレーション株式会社、プラス株式会社、株式会社モノファクトリー、株式会社ロフト

TUBのウェブサイトより転載


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