【短編小説】 九死で一生を得た話。 前編
「時間が時間だし、真っ暗で月明かりだけじゃん。
やっぱそれだけで怖いわけ、なんもなくても。
自分の足音だけで、小枝踏んでペキって鳴らして、ヒャーって」
急に幼馴染のよっちゃんが帰って来た。
あんなに「こんな田舎にはいつまでもいられねぇ!!」って
「オレは音楽で食って行く、ニ度と帰らねぇ」って言って出て行って13年。
野球部やりながらアコースティックギターを練習していた、よっちゃん。
部活もちゃんと最後まで続けて、ちゃんと高校も卒業して、
丸坊主から伸びた髪が坊ちゃん刈りで、憧れの東京へ行った、よっちゃん。
目の前のよっちゃんは長ロングヘアーでごっついサングラス。
デスメタルをやっているそう。
色々あったんだろうな。。。
「それでもやっぱ来たんだし、見てやろうって思ったんだよね。
夜中の1時半過ぎに車で乗り付けてさ。
山の中腹くらいにそれで有名な神社があるんだよ。
車降りて懐中電灯を点けたらさ、ぼんやりスーツケースが見えて・・
もう、いきなり雰囲気満点な訳よ。
ええ?
年季入ってるっぽいから、開けたりするわけねぇじゃん!」
見た目のゴリゴリ感とは違う慎重さは変わらない、よっちゃんらしい。
「でさ、山の中をペキっとか枯葉のガサっとかさぁ、
うひゃっ、怖ぇぇって思いながら登って行ったわけ、ひとりで。
オレの足音以外シーーンって。
だんだん中腹が近づいて来たら、何か聞こえて来ちゃって、
『かつーん、かつーん』って。
マジか? やべぇ、超怖ぇぇって。」
それを見に行っているくせに、自分で自分を抱きしめて語るよっちゃん。
本人は無意識らしいけど。
相当怖かったんだろう。
でも、語り口は妙にテンションが高い。。
「で、焦っちゃったのよ、ほんとにやってる!!って。
手汗で懐中電灯が滑っちゃって、運悪く石の上に落ちちゃって。
『かつーん』よりも、カッツーーーンって景気のイイ高音がさ。
バンドで使ってた演出用の極メタルの懐中電灯だったのよ。
やっぱ違うわ、メタルは。」
そんなところでメタルを発動させるなんて。。
一生懸命話してくれているよっちゃんの前で笑ったらマズイ。
「そしたら、ずっと聞こえてた『かつーん』が止んだのよ。
真夏だけど夜中で山の上だから涼しかったわけ。
急に、何か温い風が吹いた気がしてさ。
音を立てないように、懐中電灯を拾って。
幸い壊れなくて明かりは点いたの、メタルだから。」
メタル万能説。
「ちょっとひざに力が入らなくって、あれ? やべぇ震えてる?って。
そしたら、崖の上の方からシュシュシュって音がしたのよ、
衣擦れっていうの?
それで小さい明かりが見えたわけ、ゆら~って。
マズイ、見られた、見つかっちゃったって、焦ったよ、マジで。
ってか、マジのやつがいたわけじゃん、ガチで打ち込むやつがさ。
だってさ、知ってるだろ?
丑の刻参りしているヤツって、実行している時に見つかったら、
見た奴殺さないと、自分に呪いが返って来るのよ。
ってことはさ、来るわけよ、オレのこと殺しにさ、シュシュシュッと!」
何この話の展開。
それに、当たり前に「ご存じでしょ」って感じに言われても。。。
聞いているボクに呪いは来ないのだろうか・・?
まあ、よっちゃんは目の前にいるけど。。
あれ? ということは、よっちゃん???
あれ???
よっちゃん、何で急に帰って来たの???
・・・つづき
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