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毒に毒を合わせて昇華する。 ~ ふくすけ 2024 ー 歌舞伎町黙示録 ー ~

松尾スズキさん脚本、主演が阿部サダヲさん、黒木華さんで「狂気」の文字が踊っている案内メールにポチらないなんて意気地無しに違いありません。

ビシっとチケットをゲッツしまして、タイトルにも使われている「THEATER MILANO-Za」、まさに歌舞伎町へ向かいました。

ここからネタバレの感想を書きます。

これから観劇予定の方は後日お読み頂けましたら幸いです!


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コオロギこと阿部サダヲさんは訳ありの身の上ですが、著名で高齢な男性の舞踊の師匠に拾われ、後継者になるべく、その芸を学んでいます。
この踊りの団体で下働きをしているのが、赤ちゃんの頃に歌舞伎町に捨てられていたところを拾われた盲目のサカエこと黒木華さん。
阿部さんは師匠の芸を継承するために練習に励んでいるのですが、その師匠からある日“襲われ”もめていたところ、阿部さんに突き飛ばされてよろめいた師匠の胸に、師匠の好物の桃を運んでいた黒木さんの持っているナイフがブスリと刺さって殺してしまいます。
これをきっかけに阿部さんと黒木さんは逃亡し、阿部さんはとある病院の警備員として働くことにして黒木さんと同棲生活を始めます。
そして黒木さんの目が見えないことを良いことに、病院の看護師で愛人の内田慈さんを部屋にこっそり招き入れたりし、あげくに“いけないお薬”を融通させていたりで享楽に興じています。


歌舞伎町のホストに入れあげて、2000万円の売掛金を作ってしまったためホテトル嬢をしているフタバこと松本穂香さん。
九州からはるばる歌舞伎町にやってきた、零細メッキ工場を経営しているエスダヒデイチこと荒川良々さんは、14年前に蒸発した妻のマスこと秋山菜津子さんを探し続けています。
荒川さんと秋山さんの間には赤ちゃんがいたのですが、不幸な出来事により亡くしており、これがきっかけで秋山さんは精神のバランスを崩してしまいました。
そんなつもりはなく松本さんを“買ってしまった”荒川さんは、なぜ歌舞伎町にやって来たのか語り、松本さんの胸を見ただけで大慌てな、その真摯な純愛に心打たれた松本さんは妻探しに協力を申し出て、歌舞伎町で風俗ライターとして有名な“自称ルポライター”のタムラタモツこと皆川猿時さんを情報収集に巻き込みます。


その歌舞伎町で、食うや食わずの境遇から風俗業界で一発当て、裏社会で飛ぶ鳥を落とす勢いとなっていたのが、ヒロミこと伊勢志摩さん、エツこと猫背椿さん、ミツこと宍戸美和公さんのコズマ三姉妹。


ある日、阿部さんの勤務する病院へ、身体障がいを持った少年フクスケこと岸井ゆきのさんが収容されます。
岸井さんは薬剤被害で身体障がいとなってしまったのですが、その製薬会社の御曹司ミスミミツヒコこと身体に障がいを持つ人間に異常な執着を見せる松尾スズキさんに長い間監禁されていました。
松尾さんは捕まったのですが隙を見て逃走し、行方は分かっていません。


入院している岸井さんは身体障がいはありますが頭脳に問題は無く、演技で知的にも問題のあるフリをしているのですが、それを見抜いた阿部さんが病院から岸井さんを連れ出して見世物小屋に売り飛ばします。
しかし、見世物小屋でトラブルが発生し、岸井さんは阿部さんと黒木さんの住まいにやってきます。
しばらく留守にしていた阿部さんは、黒木さんと岸井さんが男女の関係になったと疑いますが、黒木さんは否定。
どうにか生活するために岸井さんをご神体とした“インチキ宗教”をでっち上げますが、これがあれよあれよで3000人規模の信者を抱える大人気宗教となり、聖なる地である歌舞伎町を汚す三姉妹に対して、信者たちは強い敵意を持ちます。


そのころ行方不明だったはずの秋山さんは歌舞伎町に流れ着いていて、体を売って凌いでいます。
安ホテルで客が若いと思ったら年増じゃないか!!と言いがかりを付け始めたことにキレた秋山さんは、客を固い灰皿で殴り殺します。
このことで秋山さんは三姉妹に拉致されますが、そんな中、秋山さんの生みだした風俗プレイが大ヒットを飛ばし、裏社会でさらに影響力を持ったことから、秋山さんを都知事選へ出馬させ、三姉妹は政界への進出を目論みます。


この二大勢力が一触即発となる頃、荒川さんと秋山さんの出身地の九州へ情報収集に飛んでいた皆川さんは、秋山さんの過去の秘密が荒川さんの悲しい過去と繋がっていることを突き止めます。
その過去には岸井さんも強く関係していて・・



のっけの集団舞踊シーンは生の三味線も相まって、迫力がありました。

登場人物がファンキーでヤバイ人ばかりの「まとも」な人がひとりもいない状態、怒涛の疾走感でストーリーが展開されます。

「ラフヘイト」程では無かったのですが、書き出したストーリーはふんわりと順不同でした。


回転する舞台で(ドリフのイメージ)、阿部さんたちの部屋や、病院、三姉妹のアジト、宗教団体のアジトなどがどんどこ展開します。

物凄く相思相愛なのに嚙み合わない阿部さんと黒木さん。

ホストにダマされていると分かっていながら、「これが生き甲斐」と自分に思い込ませている松本さん。

その昔、特ダネを掴んだことを忘れられず、久しぶりの特ダネの強いニオイに引き込まれ危ない状況に気付けない皆川さん。

歌舞伎町で風俗業界を牛耳りながらも、常に“不安”を抱えこむことでも喜びを見出す三姉妹。

子どもの頃に酷いいじめにあった過去、最愛の妻との間の赤ちゃんが不幸に見舞われた上に、その妻の行方が分からない荒川さんと、精神的に不安定なまま浮遊感の中で生きる秋山さん。

生まれたときから身体障がい者として生きることになり、過酷な環境ながらその場その場を必死で生きる岸井さんと、狂ったまま執拗に岸井さんを追う松尾さん。


えげつない状況を受け止めながら生き、最後に真実を知った時のそれぞれの示しの付け方が壮絶でしたし、ラストが悲し過ぎました。

昨今、そりゃねぇだろう!!な事件が多発していますが、真相は表に出せないほど深い事情があったりするのかしら?と思ってしまう、そんな物語でした。

いじめや風俗問題、政治や宗教、企業倫理、身体疾患など、タブーというタブーをごった煮にして、まき散らして昇華する凄まじいパワー!

壮絶な中に笑えるセリフやプチコントなシーンがあり、ガス抜きがあって良かったです。

一番まともで真摯な純愛に生きる荒川さんがコトの起点であり終点であるところに、「普通」や「真面目」って何だろうと思わされた気がします。

チラシにもありますが「毒と哀切にまみれ」た舞台。

ハートウォーミング★ゼロ、さあ、真面目に狂わされましょう☆


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