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最高の自分を生きるには、まず手放すこと。 Interview 四角大輔さん 前編

自分に合ったライフスタイルを実践する人、未来のくらし方を探究している人にn’estate(ネステート)プロジェクトメンバーが、すまいとくらしのこれからを伺うインタビュー連載。第12回目は、作家の四角大輔さん。

「美しい湖で大きなマスを釣ってくらしたい」という長年の夢を叶えるべく、音楽業界のヒットメーカーという輝かしいキャリアをリセットしてニュージーランドに移住。社会の古いルールや経済システムに縛られず「自分の心に従って生きてきた」という四角さんに、理想のくらしを実現するためにご自身が実践してきたメソッドを伺いました。  


四角大輔 | Daisuke Yosumi
1970年、大阪府生まれ。作家・森の生活者 ・Greenpeace Japan&環境省アンバサダー。レコード会社プロデューサー時代に10回のミリオンヒットを記録した後、ニュージーランドに移住。湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない働き方を構築。ポスト資本主義的な人生をデザインする会員制コミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。著書に『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『人生やらなくていいリスト』など。  

ニュージーランドの小さな田舎町から約20kmの距離にある、原生林に囲まれた湖のほとりで生活している四角さん。

― 「自分の好きなこと」を中心に据えた、軽やかなライフスタイルを身をもって示されている四角さん。まず、その考え方が生まれたきっかけを教えてください。

四角さん(以下、四角):小学生になった頃に「今生きていて、一番感動する瞬間は何だろう」と考えるようになったのが、そのきっかけなんです。
当時は病弱で気も弱かったから、いじめられっ子で「生きるってこんなに苦しいのか」と思っていました。それでも親は学校に行けと言う。それなら学校以外の時間を楽しい時間にすれば、心が軽くなるんじゃないかと考えはじめたのがきっかけです。

― そこで「楽しい時間を増やそう」と思い付くのが、四角少年のすごいところですね!

四角:でも学校って、一日でみても、一週間でみても、結構な時間を持っていかれるんですよね。つまり、量では勝負できない。ならば、質だと。圧倒的に感動できる瞬間をたくさん持てば毎日が楽しくなるはずだと考えました。

そんな僕が当時熱中していたことが、釣りと野球。釣竿にググッと魚がかかった瞬間や、野球のバットの芯でボールを打った瞬間。その数秒にも満たない一瞬が、最も楽しくて幸せな気分になれることに気付いたんです。

当然、その瞬間を手にするためには、それなりの準備と努力が必要。だから、その時間を確保することを最優先する。そう考えて行動できるようになってから、だんだんと生きるのが楽になっていきました。

― その後、学生生活を経てレコード会社に就職。音楽業界のお仕事は激務なイメージが強いですし、それこそ「好きなこと」のために時間を使うことは難しかったのでは?

四角:レコード会社での仕事は毎日忙しかったですが、徹底した時間術と高い集中力で仕事と向き合い、ダラダラと働かないようにしました。「オン/オフ」にメリハリを付け、誰よりも休んでいましたね(笑)。

オフの日は当然、魚を求めて自然の中へ。当時の僕は、魚がかかった瞬間の感動を味わうことを全てのモチベーションにしていました。30代の頃は、会社勤務と同時並行でフライフィッシングのセミプロ活動もしていたんですよ。

幸せの近道は、さらなる何かを「求める」のではなく「手放す」こと。

―著書『超ミニマル・ライフ』にも、「オフの時間を確保して夢中になって遊ぶことが、仕事の高いパフォーマンスにつながる」と書かれていますよね。そして2009年には、ニュージーランドの永住権を取得したことをきっかけに移住を決断。ヒットを連発する音楽プロデューサーとして、せっかく積み上げたキャリアを手放すことに未練はありませんでしたか?

四角:まわりからも「絶頂期になぜ?」と言われました。愛するアーティストと音楽を届けるために働いた15年間で、意図せず手にしていた安定や収入。さらには地位や名声も与えられていたけれど「もともと持っていたものじゃないし、夢中になって働いた結果、たまたま僕の元に巡ってきただけ。むしろ身の丈に合っていない」と思っていたんです。それを一度リセットすることで「ようやく本来の自分に戻れる。ここから本当の人生が始まるぞ!」という感覚でしたね。

― なぜ、ニュージーランドだったのですか?

四角:学生時代、ニュージーランドに留学した親友から一枚の写真が届いたんです。そこに映る湖とマスの美しさに震えて、いつかニュージーランドに移住するんだと心に決めていました。まだ一度も行ったこともないのに(笑)。新入社員のときから同僚にも、担当するアーティストにも「僕、いつかニュージーランドに移住します」と言い続けていたので、呆れられていました。

自宅前の湖畔で大好きなフライフィッシングを楽しむ四角さん。「東京でどれだけ休みを取って釣りに行っても、巨大なマスが釣れるのは年に平均5〜6匹ほど。それが今では自宅前の湖で一日で釣れちゃうんです」。

― まさに長年の夢だったわけですね。いざ、移住をしてみてライフスタイルはどのように変わりましたか?

四角:まず、レコード会社を辞めてフリーランスになった時に仕事をする判断基準として「好きなことしかやらない」「好きな人としか仕事しない」「場所に縛られない」という3つのルールを決めました。
「このルールを崩してまで、お金を稼ぎたくない」「ダメなら自給自足で生きていこう」「衣食住を確保していれば死ぬことはない」と思ったんです。
辺境の湖畔に古い家を買えたので「住」はある。「衣」は当時から古着は有り余っていたし、契約したアウトドアブランドから生活に必要な服は提供されていましたから。

結果、移住初年度の年収は会社員時代の10分の1に減りました。収入はフライフィッシングや登山の専門誌やアウトドア雑誌での連載の原稿料と、アウトドアブランドからの契約金のみ。音楽の仕事は一切やめました。

― また随分と思い切りましたね!

四角:当時はちょうど、 Twitter(X)が普及し始めていて、それをフル活用したんです。ニュージーランドを拠点に年の半分は世界中を旅して働く生活をXで発信していたら注目されるように。気付けば(その数年後に到来する)“ノマド”ブームの先駆けとして取材が殺到。仕事のオファーが急増し、自著がヒット。2018年には知らぬ間にレコード会社時代の最高年収を超えていました。

― すごい! しかも「ノマドだから」と言う前提で仕事が入ってくるから、3つのルールを崩す必要もなかったわけですね。

四角:でも振り返ってみると、2016〜2018年はかなり忙しく過ごしていて。一番好きなことのために全てをリセットして移住してきたはずなのに、その時間を確保できていない。これは違うと思い、その時点で最も夢中になっていた作家業だけを残し、2019年に他の仕事を全て手放して再リセットしました。

仕事のリセットと同時に、世界中を旅してまわる移動生活もコロナ禍の半年前に中断を宣言。
大好きな仲間が集うオンラインコミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉の運営だけを残し、「本を書く」ことに集中することに決めた四角さん。

― 人生二度目のリセット。一度目も同様ですが、急に収入が減ることに対する恐怖はなかったのですか?

四角:年収は約半分になりましたが、前に「1/10」を経験しているので平気。さらに「自由に働くため、幸せに生きるため」の人生戦略として、生活費をミニマルにできる自給自足ライフを構築できていたので、不安はゼロでした。

自分にとって大切なものは、すでに「自分の中」に眠っている。

― 理屈としては理解できますが、なかなか踏み出すには勇気が要りますよね。

四角:「勇気があるから手放せた」と言われますが、違います。抱えられる荷物の量は限られていますから、大きなものを手放して初めて、大切なものや幸せを手にできるのです。なのに、人はつい「あれもこれも、もっともっと」と、余計なものごとを抱え込み、大切なものや幸せを見失ってしまう。

自分が何を愛しているか分かってない人ほど、余計なものごとを手放せない。「これが自分にとって一番大切」と分かっていれば、それ以外はいらないって割り切れるし、人に手渡せるはず。
それが何か分かっていないから、どうでもいいものごとに時間とお金とエネルギーを使っちゃう。結果、何も残らないんですよ。

― なんだか、耳が痛いです(笑)。その「自分にとって一番大切なもの」は、どのようにして見つけていくとよいのでしょうか。

四角:よく“自分探しの旅”などと言いますが、これは難易度が高いんです。自分探しという概念は「自分の中に自分がない」前提なので、あまりにも曖昧。だから世間や他人の動向といった外ばかりに目がいく。インドの聖地を旅しても、そこに自分はいない(笑)。結局、自分は自分の中にあるのですから。

それよりも、無駄なものごとを手放し、削ぎ落としていくほうがずっと簡単。そうやって、自分の中に眠る「本来の自分という、完全な作品」を削り出すことを、僕は“自分彫刻”と呼んでいます。

自宅前の湖で魚を捕り、庭ではオーガニック野菜やハーブを育てながら、自然と調和した生活を実践する四角さん。

― 具体的にはどのように?

四角:まずは、持ち物の最小単位である「財布」から不要物を出して軽くすることにはじまり、「カバン」「仕事机」「部屋」といった物質から、「情報データ」「タスク」「労働時間」「人付き合い」といった非物質まで。それらを削ぎ落としていくと、自分自身が彫刻作品のように現れてくる。すると、世間や他人の基準ではなく、自分の内なる声に従って行動できるようになるんです。

― そういった、四角さんご自身が実践されてきたノウハウが『超ミニマル主義』『超ミニマルライフ』には惜しげもなく詰め込まれているのですよね。

四角:
その二冊の本を通じて、僕が伝えたかったのは「余計なことをやらない。自分らしくないことをしない。自分らしいことをやり続ける」といった非常にシンプルなメッセージです。

「世間がどうであれ、自分はこれが好き」という、内なる声を貫こうとすると、周りと軋轢が生まれるのが日本社会。変わり者扱いをされたり、排除されたり。まさに、僕自身がそうでしたから。

そんな僕が、音楽でヒットを量産できたり、ベストセラー作家になれたのは「納得できない社会のルールや常識ではなく、自分の心に従って」行動してきたから。それが結果として、唯一無二のコンテンツを導き出すという最強の差別化戦略になっていた。その成功体験を「自分だけのものにしておいてはいけない」と思ったんです。

― コロナ禍をきっかけに働き方やくらし方が多様化してきて、自分を内省する人が増えているからこそ、四角さんのメッセージは多くの人に刺さるのだと思います。

四角:楽しいことや心地よさ、つまり「幸せ」を追求するのは人間の本能なんです。でも、多くの人が「幸せとは何か」が分からなくなっている。
それに「幸せ」って、人によってかたちが違うんですよ。だから、探すことが難しいし、正解なんてどこにもない。僕なんて「美しい湖で大きなマスを釣るため」に全てを捨てていますからね(笑)。

― まさに、ウェルビーイングの追求ですね。「n'estate」も、すまいの自由度を高めるというアプローチから自分の「好き」と向き合ってもらい、人生の選択肢を増やしていくお手伝いができたらという想いからはじまったサービスなんです。

四角:いいですね!「自由」こそが、自分を取り戻すための第一歩ですからね。近年、多拠点居住のサービスは多数ありますが、三井不動産グループが取り組むことに大きな意味があると思います。歴史と社会的な信頼から、間違いなく上質であることが分かる。次回、日本に戻ってくるときには僕も利用してみたいな。

じつは、世界で移動生活を送っていた頃、ドイツのビオホテルで4〜5泊の「リトリート企画」を毎年行い、大好評だったんです。今年は、その日本版ということで、夏の帰国時に「リトリート企画」を国内4か所で実施したのですが、想像以上に反響があって。ぜひ「n'estate」でも企画してみたいですね。自分を取り戻すために、多くの人が「滞在型の体験」というきっかけを求めていると確信しています。

― ぜひ、一緒に企画を練りたいですね!  後編では、自分らしく生きるための「すまい」のあり方や、ライフステージの変化に左右されない「自由」のかたちなど、お話を伺います。

>後編は、こちら。


Photo: Ayumi Yamamoto



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