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スピッツとおやつで「3月のライオン」

この映画、皆んななんか食べてるな。
素朴な感想でした。

棋士(職業として、碁・将棋をする人)の話なのだが、対局のシーンを見ていると何か甘いものが欲しくなる。

「3月のライオン」
イギリスのことわざ“Marchi comes in like a lion and goes out like a lamb“からとっている。
3月の気候は獅子のように荒々しく始まり、羊のように穏やかに去っていくと言う意味。
騎士にとっては順位戦の出る時。進退がかかる時の棋士の荒々しさを獅子に喩えている。んじゃないかな?

このタイトルの秀逸さと発想だけでも5時間唸れる
もう4月だけど、何月に見ても良い映画

原作は「ハチミツとクローバー」でお馴染みの羽海野チカ先生。
映画は前後編に分かれるボリューム満点の内容とキャスト!

羽海野先生の漫画といえば、可愛い女の子と素朴な中にお茶目さがひかるネーミングの料理
少女漫画だが主人公は男性で、ヒロインの女の子がとにかくほんわりしていて可愛い。

と、書きつつ男子を載せる。
羽海野先生の描くやたら元気なでかい人と、おかっぱ男子が好き。映画では中村倫也さんが癖強めでやらかしてる。

映画の3月のライオンは、主人公の高校生棋士の桐山零(きりやま れい)を神木隆之介が演じている。
自分以外の家族を事故で亡くし、生きていく為に将棋をさす零は決して明るい性格ではない。賞金を稼いで一人で生計を立てているが、ご飯は基本カップ麺。

雨や夜のシーンが多く、始まりから約12分も主人公は一言も話さない、暗くてジメジメした始まりだが、ここに食べ物が色を添えていき、口数と目の光が少しずつ増してくるさまは、まさに餌付け。
倉科カナ演じるあかりさんの手料理で“ふくふく“とまではいかないが、目がきらきらになってくる。

家庭的でボリューミィ

食事シーンに関しては

佐々木蔵之介と伊藤英明の対局シーンのモグモグタイムが最高にいい。

私、おじさん大好きなんです。

将棋には持ち時間がある。
これは対局中に考察する時間で、名人戦にもなると持ち時間9時間で、2日制になる。
試合は大体が朝10時〜18時位まで、昼夜の休憩を挟むものもあるが、対局によるので無いものも多い(トイレは別)
もちろん、休憩時間は持ち時間には含まれないが、ざっと考えても16時間中に戦局を考える時間は9時間しかない。

と、書くと短く感じるが、実際は膨大な時間を戦局の考察時間に費やしている。

脳みそは甘党なので、考えすぎて頭が疲れてくると途中でおやつを挟む。
このシーン。
徐にタッパーからあんぽ柿を出して貪る佐々木蔵之介、盤を挟んだ向かいでは、それを鋭い眼光で睨め付けながら饅頭をバクバク食べる伊藤英明!

和菓子多め。やっぱりあんこなのだろうか。

いい。

そしてその2人の対局の中継を将棋会館で見ている棋士達も、茶を啜りながら皆んな口元がもぐもぐ。
きんつばも食べてるなぁ、と見ながら私もつられてエンゼルパイをもぐもぐ。

チョコパイよりエンゼルパイ派

対局のシーンなので、あくまでも「糖分補給」としての食事。
全く美味そうには食べないが、演技派俳優が揃いすぎてのめり込んでしまい、自分も将棋会館で一緒に中継を見ているような気分になる。
と、言い訳をしてお菓子をいつもより食べれる映画だ。

はっきり言って、将棋のルールはほとんど分からない。なのでどちらが有利なのかも盤上では分からないが、役者の凄さはそれをカバーしてくれる表情の演技。
極力セリフを無くした静かな演出の中の、棋士の目の色、指先一つのアップで勝敗を予想できてくる。

特に、山崎順慶・五段の役をした奥野瑛太さんの演技は息が詰まる。
この人見覚えあるな?と思ってたら「アルキメデスの大戦」でも蛇のようなねっとりしたスパイ役で、菅田将暉を苦しめていた人だ。
今回はねっとりとしたスキンヘッド。顔立ちがはっきりとしているのでエジプトの猫みたいだ、と意味の分からない理由で息をのむ。
見どころはこの人のたった一言。
じめっとした緊迫をが一瞬で消え入るような「負けました」の一言。この一言の為にどれだけの血圧を上げたんだろうか。
このたった一言の「負けました」が私の中では優勝だった。

将棋の勝敗は分かりづらいが、スポーツを観戦する人なら「あ、なるほど」と思うセリフも多い。
後編に収録されている、加瀬亮演じる宗谷冬司・名人との新人王記念対局前夜のシーン。
前夜祭の後に、零がホテルで明日の対局の対策をしていると、突然手が震えだし、
「自分は、宗谷名人と戦うことが怖いのだ」と気付いてしまい、1人でうずくまってしまう。
そこに、父親代わりに育ててくれた幸田柾近(豊川悦司)から電話がかかってきて、零にじっくりと言い聞かせる。

「零、よく聞きなさい。
明日お前の前に座るのはただの人間だ。
いいか、自分が作った化け物と戦うんじゃないぞ」

生きていく上で忘れがち

このセリフ、WBCで大谷翔平が言った「憧れるのをやめましょう」と同じ意味やな。

憧れや、崇拝、プレッシャーは人の目を眩ませて勝手に敵わない化け物を作り上げてしまう。だが、相手も同じ人間。
自分と同じように練習を重ね、もがいて焦り、緊張で腹の具合だって悪くなるするのだ。
敵は大体自分だぞ!と伝えてくれるのは、どんな勝ち方より頼もしい。

勝っている時はどこにも隙がないか気を張り、負けている時はどう終わらせるかを考える
将棋は自分で勝敗を決めるので、詰んだ時点でクロージングを考えだす。
逆に勝っている側は一切の付け入る隙がないか?に気を張り続けるので、勝っている場合の方が消耗する。
経験者にしか分からない表現や心情の言葉が、とてもシンプル。それは、表現をし慣れた人の常套句のない剥き出しの言葉。

騎士がすごいことを知れる以前に、この原作を描いた羽海野先生の勉強とインタビュー量を想像してしまい、脱帽どころか脱毛しそうになった。

残念なのは、後半が人情劇すぎて重量感と湿度が高すぎるのと、やはり羽海野先生の作品ならではの料理や食事シーン、可愛いふくふくのにゃー達のシーンを増やしてほしかった。
後は対局シーンは前半と同じくらいあっていい。

語彙が消失するかわいいしかない。

でも、ネットでの批評を読んでいると、対局より人情劇の方が支持されていて私はがっかり。
バトル漫画味があって良かったんやけどなぁ。

スピッツの曲がよく似合う羽海野チカ先生原作の「3月のライオン」は、何月に見ても面白いことに変わり無し!!

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