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In a bar:the three dogs intro

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荒廃した近未来。 一人の男が酒場へやって来た。 犬達の宴、その序曲が流れ始めるーー。
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『酒場にて #1
薄暗い酒場に、一人の男がやって来た。
気だるい雰囲気を纏った、ヒスパニック系の男だ。
男は、射るような客達の視線を意に介さず、カウンターへ肘を付くとこう言った。
「ピスはあるかい? ぬるくてもいい」
店主は、男を一瞥すると、汚れたジョッキにビールを注いだーー。

『酒場にて #2
男は、それを一気に呑み干すと、店主にもう一杯オーダーする。
「ありがとよ。やっと一息つけたぜ」
そして、男は客達に振り返った。
「アンタらの中に、この手前にあるバッファロー・ビルって名前の酒場を知ってる奴はいるかい?」
しかし、客達に反応はない。

『酒場にて #3
「やっぱ、人気の店なんだねぇ」
男はわざとらしくそう言うと、再び店主へと振り返る。
ちょうど、店主は二杯目のビールを置いたところだった。
「で、だ」
男は、ビールを寄越す店主の腕を掴む。
「そこであった話しなんだが、聞いてくれるかい?」
店主は男を睨み付けた。

『酒場にて #4
「聞いてくれるか。ありがとよ」
男は、店主の腕を離し、ビールで舌を湿らせると、誰にともなく語り出した。
「その酒場でも、俺はピスを頼んだんだ。もっとも、ここのとは比べ物にならないほどマズかったけどな。下手したら、本当にピス(小便)だったのかもしれねぇ」

『酒場にて #5
それを聞いた客達の何人かが笑う。
「やっぱりここは素敵だねぇ。客も、あそことは段違いの愛想の良さだ」
笑っていた客達が、一斉に男を睨んだ。
その視線を背中に感じつつ、男は続ける。
「そんなわけで、糞不味い酒を、糞袋みたいな連中の中で呑んでたわけさ」

『酒場にて #6
そこで男は、またビールを口に運んだ。
そして、ジョッキをカウンターへ叩きつけるように置くと、店主を睨みつけた。
「ところであんた、アイリーン・ヴィシャスって女の子、知らねぇか?」
店主の片眉が、ぴくりと動く。
心なしか、店内の空気も変わったように思える。

『酒場にて #7
男は、その変化を敏感に感じ取りつつ言った。
「知らねぇか。色白で可愛らしいコなんだけどな」
店主が、何か言おうと口を動かす。
しかし、男はそれを遮るように切り返す。
「さっきの続きだ。ビールにも飽きてきて、食い物でも頼もうかとした時さ。大変なことが起こった」

『酒場にて #8
店主が、ごくりと生唾を飲み込む。
「何が、あったんだ……?」
男は、焦らすかのようにビールジョッキを眺めている。
しかし、やがて口を開いた。
「まずは、轟音だ。次に、スイカでも撃ち抜いたような音。そして、俺の背中に、"何か"がかかった。当然、俺は振り返った」

『酒場にて #9
「振り返って、どうしたんだよ?」
一瞬途切れた男の言葉を待ちきれず、店主が問い質す。
男は答えた。
「俺のななめ後ろの席ーーちょうどアンタがいる位置さ」
言いながら、男はななめ後ろに陣取っている客を指差した。
そして、指で拳銃を作り、「バンッ!」と撃ち抜く。

『酒場にて #10
「そう、ちょうどアンタの位置に居たはずの男が、いなくなってたんだよ。ーー胸から下は、いたけどな」
言われた客は、機嫌を損ねたかのように、鼻から息を吐いた。
しかし、虚勢であることは明白だ。
「要するに、だ。俺が被ったのは、糞袋100%のフレッシュジュースさ」

『酒場にて #11
「胸から上が吹き飛んだってわけか」
店主は、言いながら3杯目のビールを男のジョッキへと注ぐ。
「こいつはサービスだ。さぁ、先を話しな」
男は、上目遣い気味に店主を見ると、「グラシアス」と呟いた。
「さて、そこから先が大変だ」
男は、再び客達の方へ向き直る。

『酒場にて #12
男は、今度は両手で拳銃を作ると、店内にいる客を次々と撃ち抜くふりをする。
一人一人をしっかり見つめ、「バンッ! バンッ!」と撃っていく。
そして、全ての客を撃ち終えると、人差し指を銃口に見立て、「フッ」と息を吹きかけた。
「綺麗さっぱり、皆殺しだったぜ」

『酒場にて #13
向き直った男に、店主は言う。
「どういうことだ。それをした奴は、どこから何をしやがった?」
「アンタ、対物狙撃銃って知ってるか?鉄板やら壁を撃ち抜くための、いかれた銃だ。ソイツを店の外からぶっ放しやがったのさ」
男は、店の壁を指差す。
「ここのは大丈夫か?」

『酒場にて #14
店主は、壁を見ながら、「さて、自信はねぇな」と言った。
「そんなら、厚くしといた方がいいぜ」
男はビールを口にする。
男がジョッキを置くのを待ち、店主は言う。
「その店のマスターはどうなったんだ?やっぱり、ミンチか?」
「いや、奇跡的に無事だったぜ」