シェア
とりふぁ
2014年10月16日 15:37
『酒場にて #1 』薄暗い酒場に、一人の男がやって来た。気だるい雰囲気を纏った、ヒスパニック系の男だ。男は、射るような客達の視線を意に介さず、カウンターへ肘を付くとこう言った。「ピスはあるかい? ぬるくてもいい」店主は、男を一瞥すると、汚れたジョッキにビールを注いだーー。
2014年10月16日 16:01
『酒場にて #2 』男は、それを一気に呑み干すと、店主にもう一杯オーダーする。「ありがとよ。やっと一息つけたぜ」そして、男は客達に振り返った。「アンタらの中に、この手前にあるバッファロー・ビルって名前の酒場を知ってる奴はいるかい?」しかし、客達に反応はない。
2014年10月16日 22:27
『酒場にて #3 』「やっぱ、人気の店なんだねぇ」男はわざとらしくそう言うと、再び店主へと振り返る。ちょうど、店主は二杯目のビールを置いたところだった。「で、だ」男は、ビールを寄越す店主の腕を掴む。「そこであった話しなんだが、聞いてくれるかい?」店主は男を睨み付けた。
2014年10月17日 00:41
『酒場にて #4 』「聞いてくれるか。ありがとよ」男は、店主の腕を離し、ビールで舌を湿らせると、誰にともなく語り出した。「その酒場でも、俺はピスを頼んだんだ。もっとも、ここのとは比べ物にならないほどマズかったけどな。下手したら、本当にピス(小便)だったのかもしれねぇ」
2014年10月17日 02:30
『酒場にて #5 』それを聞いた客達の何人かが笑う。「やっぱりここは素敵だねぇ。客も、あそことは段違いの愛想の良さだ」笑っていた客達が、一斉に男を睨んだ。その視線を背中に感じつつ、男は続ける。「そんなわけで、糞不味い酒を、糞袋みたいな連中の中で呑んでたわけさ」
2014年10月17日 09:29
『酒場にて #6 』そこで男は、またビールを口に運んだ。そして、ジョッキをカウンターへ叩きつけるように置くと、店主を睨みつけた。「ところであんた、アイリーン・ヴィシャスって女の子、知らねぇか?」店主の片眉が、ぴくりと動く。心なしか、店内の空気も変わったように思える。
2014年10月17日 13:47
『酒場にて #7 』男は、その変化を敏感に感じ取りつつ言った。「知らねぇか。色白で可愛らしいコなんだけどな」店主が、何か言おうと口を動かす。しかし、男はそれを遮るように切り返す。「さっきの続きだ。ビールにも飽きてきて、食い物でも頼もうかとした時さ。大変なことが起こった」
2014年10月18日 01:11
『酒場にて #8 』店主が、ごくりと生唾を飲み込む。「何が、あったんだ……?」男は、焦らすかのようにビールジョッキを眺めている。しかし、やがて口を開いた。「まずは、轟音だ。次に、スイカでも撃ち抜いたような音。そして、俺の背中に、"何か"がかかった。当然、俺は振り返った」
2014年10月18日 12:50
『酒場にて #9 』「振り返って、どうしたんだよ?」一瞬途切れた男の言葉を待ちきれず、店主が問い質す。男は答えた。「俺のななめ後ろの席ーーちょうどアンタがいる位置さ」言いながら、男はななめ後ろに陣取っている客を指差した。そして、指で拳銃を作り、「バンッ!」と撃ち抜く。
2014年10月18日 19:42
『酒場にて #10 』「そう、ちょうどアンタの位置に居たはずの男が、いなくなってたんだよ。ーー胸から下は、いたけどな」言われた客は、機嫌を損ねたかのように、鼻から息を吐いた。しかし、虚勢であることは明白だ。「要するに、だ。俺が被ったのは、糞袋100%のフレッシュジュースさ」
2014年10月19日 07:27
『酒場にて #11 』「胸から上が吹き飛んだってわけか」店主は、言いながら3杯目のビールを男のジョッキへと注ぐ。「こいつはサービスだ。さぁ、先を話しな」男は、上目遣い気味に店主を見ると、「グラシアス」と呟いた。「さて、そこから先が大変だ」男は、再び客達の方へ向き直る。
2014年10月20日 16:49
『酒場にて #12 』男は、今度は両手で拳銃を作ると、店内にいる客を次々と撃ち抜くふりをする。一人一人をしっかり見つめ、「バンッ! バンッ!」と撃っていく。そして、全ての客を撃ち終えると、人差し指を銃口に見立て、「フッ」と息を吹きかけた。「綺麗さっぱり、皆殺しだったぜ」
2014年10月21日 18:15
『酒場にて #13 』向き直った男に、店主は言う。「どういうことだ。それをした奴は、どこから何をしやがった?」「アンタ、対物狙撃銃って知ってるか?鉄板やら壁を撃ち抜くための、いかれた銃だ。ソイツを店の外からぶっ放しやがったのさ」男は、店の壁を指差す。「ここのは大丈夫か?」
2014年10月23日 09:53
『酒場にて #14 』店主は、壁を見ながら、「さて、自信はねぇな」と言った。「そんなら、厚くしといた方がいいぜ」男はビールを口にする。男がジョッキを置くのを待ち、店主は言う。「その店のマスターはどうなったんだ?やっぱり、ミンチか?」「いや、奇跡的に無事だったぜ」