フォートナイトは新しいソーシャルメディアの形だと思う
2020年は「あつまれ どうぶつの森」や「ファイナルファンタジー7リメイク(以下、FFⅦリメイク)」、「Ghost of Tsushima」など多くの人気作品が発売されました。また、Nintendo SwitchやPlayStation 5、Xbox Series Xなども入手困難な状態に陥りました。
コロナ禍で自宅に籠る時間が増え、ゲームをプレイする人がずいぶん増えているそうです。2021年になった現在も、ゲーム業界の勢いはとどまるところを知りません。
本記事では全世界でプレイされ、さまざまなイベントなどによって大量のクチコミを創出し続ける「フォートナイト」に注目してみました。ちなみに、私もこのゲームが大好きでよくプレイしています(下手ですが……)。
世界で3.5億人がプレイするフォートナイトとは
フォートナイトは、アメリカにあるEpic Games社が2017年にリリースしたオンラインゲーム。PCやPlayStationなどへの配信を経て、2018年にNintendo Switchでもリリースされたことで小学生にも爆発的に普及しています。
オンラインでつながった最大100名のユーザーが島に降り立ち、そこで武器やアイテムを手に入れながら、生き残りをかけてバトルロイヤルするゲームです。
2020年には全世界で3.5億人のプレイヤーを集め、リリースされてから3年以上経ったいまもさまざまなイベントが開催されたり、ゲーム内容がアップデートされたりしています。
統計市場調査プラットフォーム「Statista」が公開するフォートナイトのユーザー数と同時期のツイート数を比較すると(※1)、ユーザー数の増加に伴ってツイート数も右肩上がりに増えていることがわかります(2018年6月のツイート数はNintendo Switch版がリリースされ、一時的に急増)。
また、下図は冒頭でご紹介した2020年の人気ゲームと、フォートナイトのツイート数を比較したものです。
「あつまれ どうぶつの森」は昨年国内で最も売れ(※2)、大ブームになりました。人気の理由をクチコミから考察した記事も公開していますので、そちらもご覧いただければと思います。
「FFⅦリメイク」は23年ぶりにリメイク版として昨年復活し、世界中のファンを再び熱狂させた日本を代表するRPGです。「Ghost of Tsushima」は海外のゲーム会社が開発した、鎌倉時代の対馬を舞台にしたゲーム。美しく、残酷な世界観は多くのユーザーを驚かせました。どちらも多くのクチコミを創出していますが、「フォートナイト」の方がツイート数が多い結果になりました。
まるでソーシャルメディア。フォートナイトが生む数々の交流
人気ゲームのトレンドのひとつに、ゲーム内外での「交流」があります。
据え置き型ゲーム機やスマホ用ゲームは、常にオンラインで世界中のユーザーとつながることができ、ゲーム内でユーザー同士が交流することで楽しめるようになっています。
また、YouTubeやTwitch(ゲーム専用のライブストリーミング配信プラットフォーム)などでのゲーム実況動画が増え、視聴者同士でコメントしたり、攻略の参考にしたり、次に購入するゲームの情報収集源として楽しんだりしているようです。
フォートナイトもYouTuberのヒカキン氏をはじめ、多くのユーザーが動画を投稿しています。
Twitchでは、TheGrefg氏による「フォートナイト チャプター2 シーズン4」のワンタイムイベント配信の同時視聴者数が66万人に達し、配信者単体での最高視聴者数を記録しました(※3)。
ソーシャル文化研究所がこの記事で伝えたいのは、フォートナイトは人気ゲームであるだけではなく、新しいソーシャルメディアの形であるということです。
ここからは、フォートナイトにおける4つの話題をクチコミで整理し、ソーシャルメディアの形といえる理由について考察したいと思います。
話題① エモートというトレンド
(エモートに関するツイート数:377,760件 ※4)
フォートナイトには、キャラクターがジェスチャーやダンスをする「エモート」という機能があります。他プレイヤーに挨拶する際に使ったり、感情を伝えたりできるもので、Emotionが語源となる言葉です。大げさに感情を表す、芝居がかったような感情表現をするというような意味があります。
エモートは、有名なミュージカル映画のダンスやプロスポーツ選手がゴールを決めたときのパフォーマンス、ミュージシャンの振り付けなどが元になっています(しばしば訴えられているケースもありますが、アメリカにはダンスに著作権がないのでややこしい!)。
このエモートを真似して、TwitterやYouTubeなどで動画を配信する人が相次ぎ、TikTokでは2020年1月にフォートナイト公式のダンスコンテスト「エモート・ロイヤル・コンテスト」が開催されました。
話題② コロナ禍で煌めいたパーティーロイヤル
フォートナイトでは、たびたび「パーティーロイヤル」と呼ばれるイベントが開催されます。
2020年8月7日には、米津玄師が日本人ではじめて主役に抜擢されました。この日、ユーザーたちは戦いをやめて、ゲーム内に用意されたパーティー会場に集まり、彼のパフォーマンスに酔いしれました。当日はTwitterのトレンドにも入りました。
(米津玄師のパーティーロイヤル関連のツイート数:40,940件 ※5)
他にも、Steave Aokiやdeadmau5、Dipro、Travis Scottなどが登場するパーティーロイヤルが開催され、大きな話題となりました。イベントに参加すると限定アイテムが入手できるなど、ユーザーがよりゲームを楽しめるような仕組みが用意されます。
アーティストがフォートナイトで仮想ライブを行えば新しいファンを獲得する良い機会になり、楽曲のストリーミング数が激増するそうです。音楽業界だけではなく、他業界においても新しいエンターテインメントの表現の場としてますます注目されていくことでしょう。
また、パーティーロイヤルではライブイベント以外にも、韓国の人気グループBTS「Dynamite」のミュージックビデオを視聴できるイベントや、クリストファー・ノーランの映画全編がゲーム内で上映されるイベント、2020年公開の「TENET」の予告編が公開されるイベントなどが開催されました。
話題③ マーケティングに活用する企業が次々と
(関連ツイート数:41,020件 ※6)
フォートナイトがコラボレーションをするのは、音楽や映画だけではありません。企業やブランド、コンテンツホルダーにとっても大きな存在になっています。
ナイキの「エア ジョーダン」をアイテムとして入手できたり、UNIQLO(UT)のTシャツとコラボレーションしたり、JTB沖縄はフォートナイト内に沖縄北部のやんばる地区を再現したステージを作り、オンラインで対決できる大会を実施したり。
2020年は、人気のNFL(ナショナル フットボール リーグ)や「スター・ウォーズ」やマーベルシリーズなど映画とのコラボレーションも実現しました。とくにスター・ウォーズとのコラボレーションでは、アイテムとしてライトセーバーが手に入り、多くのファンが歓喜していました。
今年に入ってからも、プロサッカークラブと組んで独自のトーナメント大会が開催されるなど、話題性に事欠きません。
このように、フォートナイトはゲームファンだけではなく、音楽や映画、スポーツといったカテゴリーの多さを活かして新規ファンを獲得し、3.5億人というユーザー数を成し得ています。
話題④ eスポーツでは人気のゲームタイトルのひとつに
( eスポーツに関するツイート数:4,700件 ※7)
フォートナイトは、数あるeスポーツのゲームタイトルのなかでもトップクラスの人気とプレイヤーの数、賞金額を誇っています。
2019年に開催された「Fortnite World Cup」では4,000万人以上が参加し、優勝した16歳の少年が賞金300万ドル(3億3,000万円)を獲得しました。
2020年の同大会は新型ウイルスの感染拡大によって中止されましたが、オンラインで実施された大会もあるようです。
海外ではeスポーツの大会で良い成績を残した選手がプロゲーマーと名乗り、まるで従来のプロスポーツ選手のようにスポンサーがつき、活躍できるようになっています。
こういった現象に多くの大人たちが驚き、若者や子どもたちがプロゲーマーに憧れを持つようになりました。
ここまでご紹介したような4つの話題やツイートから、フォートナイトを通してユーザー同士が「交流」していることがわかりました。ソーシャルメディアを「誰もが参加でき、インタラクションによって広がっていくプラットホーム」と定義すると、フォートナイトのようなゲームもソーシャルメディアだと捉えることができるでしょう。
いまやゲームは悪者からヒーローに
かつて大人たちに悪者扱いされたゲーム。
私が子どものとき「ゲームは1日1時間まで」と言われ続けました。それが時代や価値観の変化で、経済を潤し、たくさんの人を熱狂させ、コロナ禍のような状況においても人と人をつなぐものに進化していきました。
ゲームが上手な子どもがプロゲーマーとしてヒーローになり、いまでは彼らは憧れの的。誰かの「好き」や「得意」がコンテンツになり、それをソーシャルメディアでたくさんの人に伝播しているのです。私が子どもの頃には夢にも思わなかったことです。
フォートナイトは各ソーシャルメディアによって、世の中に知れ渡り、ユーザー数を増やしていきました。その機能や話題をみると、もはやフォートナイト自体がソーシャルメディアであり、ユーザー数こそTwitterやFacebook、Instagramに及ばないものの、話題量や若者を中心とした文化形成への影響は絶大なものになっています。
Twitterの国内トレンドでゲーム関連のワードがあがらない日はありません。また、あのNetflixも「ライバルはフォートナイトである」と明言していました(※8)。
今日もたくさんのゲーマーたちが、ゲームを通じて交流しています。私自身もフォートナイトをプレイしてるときに、海外に住む外国人と思われるユーザーから急にボイスチャット機能で声をかけられて、戸惑いながらも奮起した記憶があります。ここでの交流は国境を越え、これからも人と人をつなぎ続けるでしょう。