本を読みに、京都へ。[読書旅行記]
vol.1 旅立ち
秋のはじめ。長袖のワンピース1枚がちょうどいい季節。
旅人が行き交う東京駅の地下街でサンドイッチを買う。小さなスーツケースをコロコロ引いて、東海道・山陽新幹線のホームを目指す。
自動販売機でカフェオレのボタンを押したのに何も出てこない。もう一度ICカードをかざしてボタンを押す。ガタンと音がした辺りを探ると、350mlペットボトルが2本みつかった。
東京駅11時発のぞみ225号
動き出したと気付かないほどのなめらかな発車。
旅が、始まる。
この瞬間がたまらない。グリーン車の広々としたシートを少し倒しながら、奮発してよかった、と自分を褒めてみる。隣りにも、前も後ろも誰もいない。平日ど真ん中、密を避けて都会からの逃亡。
東京、品川… 大きな窓から見えるのは高層ビル群。無数の四角い窓が規則正しく並んでいる。外から見たら小さな小さなひとつの箱。だけどあの中にいると、ここだけが自分の世界だと思えてくる。毎日同じところで、同じ人たちと会って。働く日々に埋もれて外の世界を忘れてしまう。
箱から飛び出して、空や山や川の色を見たい。新しいテクノロジーよりも、今は歴史や伝統に触れてみたい。だから私は、京都に向かっている。
『異邦人(いりびと)』 原田マハ
この地が舞台の物語をお供に。
はやる気持ちを抑えながらゆっくりとページをめくる。主人公も新幹線で東京から京都へ来たところだ。
舞台は3.11の直後。原発事故に対して登場人物が言った。
「いったい、いつになったら収束するの?」
ハッとした。今、あのときを繰り返しているのだろうか。それならば、やがてまた乗り越える日がくるのだろうか。
(つづく)