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<高卒就職問題> 高卒求人の相場情報が企業側に流れない構造がもたらす害

高卒就職問題研究のtransactorlaboです。

高卒就職問題解決は日本経済低迷脱却のキーと言っても過言ではないぐらい重要な課題なのです(だから厚労省さん、頑張ってくれ!)というメッセージを出したくて研究と発信を続けている現役高校教員です。

高卒就職問題解決の鍵は、厚生労働省所管の「高卒就職情報WEB提供サービス」を一般公開とすること(現在は教員限定)、及び、情報提供方式を現行の紙ベース方式からデジタルデータベースの形に切替えることです。

理由はいろいろあるのですが、一番大きいのは、高卒就職市場の給与や休日数などの相場に関する情報がとくに求人事業者側にほとんどと言っていいぐらい「無い」ことです。これがどれほどの社会的損失を生んでいることか・・・。

仲介役である私たち高校教員はWEBサービスへのアクセス権を付与されていますので、全体の相場感を把握しつつ個々の求人票を吟味することができます。(そう簡単ではないのですが・・・)求職者である就職希望高校生は私たち教員を通じて、それらの情報を得ています。

しかし、求人側は全く違います。他社の求人票はおろか、自社の求人票すら見ることができません。WEBサービスへのアクセス権がないからです。

このWEBサービスの閉鎖性は、高卒就職市場の関係三者(求人者・仲介者・求職者)間に絶望的な情報格差を生み、公正な競争を阻んでいます。このごろやっと賃金上昇の鈍さがクローズアップされるようになりましたが、この問題に対して高卒就職市場情報の閉鎖性が大きく影響しているのではないかと私は考えています。

この仮説の裏付けになるエピソードを紹介します。

◎東京都内・小売業(婦人服・靴・鞄等の販売)の総合職
基本給/17万3千円 月額給与19万3千円
賞与/1年目から1.40ヶ月2年目以降、2年目以降2.10ヶ月
月平均労働日数/21.5日 年間休日数/106日 社員寮有り

昨年、あるアパレル販売会社の社長さんが持参してきた求人票の内容です。「同業他社の情報を調査して、どこにも負けないようにしました。『かなり良い』はずですよ。」と自信たっぷりな様子でした。

彼がどのような調べ方をしたのかは不明です。私は高卒就職問題研究のために全国の公開高卒求人を調査して作ったデータベースを持っていますので、後日それを使って検証してみました。

この散布図は当時の東京都の公開高卒求人票全4485件を年間休日数(縦軸)・月額給与(横軸)でプロットしたものです。右上が給料が良く休みも多い、逆に左下方向が給料が安く休みも少ない求人票となります。

黄色い点がそのアパレル会社の求人票にあたります。「かなり良いはず」は誤った思いこみでした。後に分かったのですが、同社はそれ以前3年続けて求人しているが採用どころが見学希望さえなく、また、その年もなかったとのことです。

また、仮にその社長さんが言うことが本当だとすれば、「同業他社」つまり、東京都のアパレル販売系は東京都の高卒就職市場の中では「かなり左下寄り」、つまり「給料が安く休みも少ない業界」だということになります。この業種への応募が少なく、かつ、離職率が極端に高いのもうなずけます。

その社長さんは、自分たちの業界のスタンダードが労働市場全体の中ではかなり低い方であることに気づいていないのだと思われます。ただでさえ低賃金と言われる日本の労働市場において、さらにその中でも低い方にあるのに「かなりの好待遇を提示している」と思い込んでしまっている。相場情報の不足による残念な思い違いというほかありません。

7年ほど前から高卒就職市場の求人倍率は急激に上昇し、ここ数年は3倍前後で高止まりし、超売り手市場の状態が続いています。少子化の進行に加え、就職希望者数が減少していることから、この売り手市場状態はおそらくずっと続くでしょう。

もう一度さきほどの散布図をご覧ください。求人倍率3倍とは、全ての求人のうち3分の2が売れ残るということで、単純に言って黄色い点よりだいぶ右上の範囲に入っていなければ見向きもされないということです。その状態が一昨年も去年も今年も続いており、おそらく来年以降も続きます。

真に応募者数を確保し、採用し、離職を止めるためにどのような待遇設定が必要か、正しい相場情報なしで考えることは困難です。「高卒だからこれぐらい」といった古い常識や経験則に頼ったり、「ハローワークの最賃チェックにひっかからない程度に少し上乗せ」となるのも仕方のないことです。

逆に、情報が十分に行き渡ればデータに基づいた論理的に考えることが可能になります。そういう求人事業者が多くなれば競争が活発になりますので、求人倍率に見合った賃金上昇が起きるはずです。

高卒賃金は一般労働者賃金のベースとなるものであり、しかも、地域別最低賃金の重要な算定要素でもあります。よって、高卒賃金の停滞は全ての労働者賃金の停滞と強い結びつきがあると言えます。

高卒求人情報のブラックボックス状態を放置していてはいけないのです。
政府および厚生労働省はこの問題の早急な改善を図るべきです。

この秋、日本人の若者がオーストラリアに出稼ぎに出ていくケースが急増しているとの話が聞こえるようになりました。外国人労働者にとって日本が魅力的な国ではなくなったらしいとも。賃金上昇の緩やかさに加え、急激な円安のためだと言われています。

非常にまずいことが進行しています。急いで手を打たないといけません。

次回は先頃厚労省から発表された産業別の早期離職率統計結果に私のデータベースから賃金や休日数などの情報を重ねた分析を紹介します。

私のホームページに全国の高卒求人の分析レポートを掲載しています。都道府県ごとにダウンロードできます。どうぞご活用ください。

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