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#49正経十二経脈は、なぜあの順番なのか。

正経十二経脈は何故あの順番で流れてるんでしょうか。
誰しもが一度は思ったことがある疑問でしょう。
自分なりの答えを持っておくと、臨床でのツボの選び方も迷わなくなるような気がします。

今回は、奇経八脈の勉強でお世話になっている高野耕造先生が考える正経十二経脈の流注の意味を紹介します。


1.正経十二経脈の流注について

正経十二経脈は、五臓六腑(六臓六腑)に属する12本の経絡が繋がって一本の気の流れとなり、全身を巡っているものです。
その順番は以下の通りです。

手の太陰肺経→手の陽明大腸経→足の陽明胃経→足の太陰脾経
→手の少陰心経→手の太陽小腸経→足の太陽膀胱経→足の少陰腎経
→手の厥陰心包経→手の少陽三焦経→足の少陽胆経→足の厥陰肝経

足の厥陰肝経まで巡った気は、再び手の太陰肺経に戻って再び全身を流れていきます。
この順番はただ適当に並べた訳がありません。陰とか陽の文字があることからわかるように、とりあえず陰陽説に基づいているのは明白です。
何かしら意図を持ってこの順番にしたと考えるのが自然ですし、多くの方がこの問題について考察してきたのだと想像します。

繰り返しになりますが、今回紹介するのは高野先生の考える正経十二経脈の流注の捉え方です。
12本の経脈を大きく3つに分けて、それぞれの生理作用からこの謎を解き明かしていきます。

2.太陰経循環

1つ目は太陰経循環です。
太陰経循環とは、太陰肺経〜太陰脾経までの4経脈の総称です。

太陰経循環:太陰肺経→陽明大腸経→陽明胃経→太陰脾経

そして太陰経循環の役割は、「気の生成と余分な気の貯蓄」です。

太陰経循環のスタートである太陰肺経は、中焦から始まります。中焦には脾胃があり、脾胃は食物から水穀の精微を吸収します。吸収した水穀の精微を含んだ経脈は肺へと向かい、肺は営気や衛気や津液を作り出します。

肺経から続く陽明経は、陽が最も強いという意味で「陽明」と言われています。陽明経に属する大腸経と胃経は強い陽気を持っています。
胃は食物を消化吸収する腑なので、気をたくさん蓄えているのはわかるかと思います。
大腸は糞塊を中に蓄えるのですが、その糞塊は熱を帯びていると言われています。これは発酵して熱を出しているようなイメージですね。

太陰経循環をまとめます。
肺は、脾胃の働きによって得られた水穀の精微から「気」を作り正経十二経脈に送り出します。肺で作り出した「気」をたっぷりと含んだ経脈です。
大腸は一見無関係に見えますが、糞塊を蓄えることで陽気を保持しています。

以上が太陰経循環の働きです。
十二経脈の始まりで気をたくさんつくり出すため、肺・大腸と脾・胃がセットになっているというわけです。

3.少陰経循環

次は少陰経循環です。
少陰経循環は、少陰心経〜少陰腎経までの4経脈の総称です。

少陰経循環:少陰心経→太陽小腸経→太陽膀胱経→少陰腎経

そして少陰経循環の役割は、「血の生成に関する集合体」だと言えます。

太陰経循環から営気や津液を受け取った少陰経循環は、腎からの精も受け、心において血を作り出します。血は、「営気・津液・精」によってつくられるのです。また、小腸は血をつくり出すための栄養を吸収する腑だと言えます。

また心と腎は、体内においてそれぞれ気化作用を助けていると考えられます。心には「君火」、腎には「相火」があると言われ、心は上焦での気化作用を、腎は下焦での気化作用をその熱をもって助けています。気化作用には熱が必要であるというのは一つポイントでしょう。

上焦での気化作用と言えば、肺が気をつくり出す作用ですね。下焦での気化作用は津液から尿をつくり出す作用だと言えます。

腎については熱による気化作用を抑える役割もあります。腎には津液が集まってきます。津液には「陰」の性質がありますのでこれを「腎陰」と呼びます。
「腎陰」があるお陰で、相火が炎上しないで済みます。さらには、心の君火も腎陰が抑えています。腎陰が減少したために君火が炎上するのを心腎不交などと言ったりするのはそのためです。

少陰経循環をまとめます。
太陰経から受け取った営気・津液と、腎が持っている精を使って、心において血を作り出します。その際、小腸から吸収される栄養も利用されます。
心と腎は、上焦と下焦の気化作用を助けつつ、自らが炎上しないように腎陰による抑制も受けています。

以上が少陰経循環の働きです。
太陰経循環が気をつくっているのに対して、少陰経循環は血をつくっていると言えます。また体の熱の調整を心と腎で行っているとも言えます。腎が陰陽の根本と呼ばれているのもこうした働きがあるからでしょう。

4.厥陰経循環

最後は厥陰経循環です。
厥陰経循環は、厥陰心包経〜厥陰肝経までの4経脈の総称です。

厥陰経循環:厥陰心包経→少陽三焦経→少陽胆経→厥陰肝経

厥陰経循環の役割は、「太陰経循環と少陰経循環で生成された気血津液の循環を促通する役割」です。

まず心包は、心が生成した血を拍出する役割を持っています。また肝は血を蔵することで、血流のリズムをつくっています。血の流れがスムースに全身にいきわたるのはこうした働きのおかげです。

また三焦と胆は津液の流れに関係しています。三焦は多量の津液をその中に流しています。また胆経は体の側面を走っています。側面の少陽経からは背面の太陽経、前面の陽明経の両方へアクセスしやすくなっていると言えます。側面の少陽経に津液を流すことで、体の後面・前面にも津液を流しやすくなっているということです。
三焦が体内の津液循環を行っているのと同時に、胆経(体の側面)は全身の皮肌部へ津液を循環させています。

厥陰経循環をまとめます。
厥陰経循環は、太陰経と少陰経から受け取った気血津液を全身に循環させる役割を持っています。
血は肝に蓄えられ、必要に応じて血を送り出すことで血流のリズムをつくっています。また実際に血を押し出すのは心包の役割です。
また三焦と胆は津液代謝に関わっています。三焦の中を津液が巡ることで、五臓の熱を冷ます役割があります。
また胆経(少陽経)を津液が流れれば、体の側面から後面・前面の皮肌部にスムースに循環させることもできます。

以上が厥陰経循環の働きです。
厥陰経循環のお陰で、全身に血や津液を流すことができているのです。

このように見ていくと、3つの循環経が上手く役割分担をしていることが言えます。太陰経が気をつくり、少陰経が血をつくり、厥陰経がそれらを循環させています。

5.おわりに

この記事で紹介した話は大まかな役割分担ですが、少し考えてみるといろいろと面白い見方もできます。

例えば、太陰経循環は気をつくっているので「陽」の性質があり、少陰経循環と厥陰経循環は血をつくり津液に関わっているので「陰」の性質があると言えそうです。

高野先生はここにさらに子午流注理論の考え方も組み合わせて説明しています。子午流注理論は一見関係ないような組み合わせになっていますが(腎と大腸、胃と心包など)、すべて理にかなっている組み合わせにも見えてきます。そのあたりはまた別記事でまとめていきたいと思います。

参考文献
高野耕造,2022,臨床に役立つ奇経八脈の使い方(第2刷),東洋学術出版社

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