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■「社会福祉制度」の側面から見た、スウェーデン(欧州モデルの理想)とアメリカの違い

<注>当内容は約10年前に纏めたものなので、そのデータ・内容とも既に陳腐化した個所が多い。しかし、スウェーデン(欧州モデルの理想)とアメリカ(特に、現トランプ政権を支持する勢力)との違いを素描的に概観するための資料としての意味はあると思われるので、下記◆より関連部分を抽出し転載した。なお、スウェーデンを含む北欧諸国とアメリカ(ポスト・トランプを覗う勢力)との間には、20世紀初頭に米・北欧(スカンジナビア)でほぼ同時期に興った法社会学の一派である「リアリズム法学」、および同じく20世紀初頭米国の「制度経済学派」(後のニューディールヘ影響を与えるヴェブレン、ジョン・ロジャーズ・コモンズらの公正資本主義)、そして19世紀末のアメリカで興ったプラグマティズムとの絡みもあるが、ここでは省略する。・・・因みに、『日常』(静態・動態の両者から成る)のれっきとした経済主体(潜性イノヴェーションの生きた培地)である「圧倒的な多数派層の平凡な人々」が、「人間の壁」の分配問題の解決に取組みつつ、共に手を携えて協力できる関係を創ることが肝要である。https://toxandoria.hatenadiary.jp/entry/2020/06/04/155449

★『日常』(静態・動態の両者から成る)のれっきとした経済主体である「圧倒的な多数派層の平凡な人々(潜性イノヴェーションの無限の培地!)」が、とても困難な「人間の壁1、2」の分配問題の解決に取組みつつ、共に手を携え協力できる関係を創り続けるのがPolitical Economyの肝要!https://twitter.com/tadanoossan2/status/1286006579393748992
f:id:toxandoria:20200723044221j:plain

There Is no Wealth 、but life. (J.ラスキン)

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(関連)

■統合モデルの核、北欧型福祉(SWDら)が米(ポストトラ新New‐Deal?)と共鳴・競合かも? →EU、財政統合へ一歩 コロナ復興 92兆円基金合意(経済復興は環境・デジタル軸?)/首脳が結束示し、欧委員長:伊に謝りたい 722日経 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61787210R20C20A7MM8000/ f:id:toxandoria:20200722154318p:plain

■「新New‐Deal、潜性イノヴェーション(社会的共通資本:ヴィクセル・宇沢)」の議論でエトノス(支え合い)信用の無限「観念」の共有を!

Cf.↓♨→(コロナ禍の日本と政治)ポストコロナ負担、どう向き合う 財政は支え合いの議論深めて 吉川洋氏714朝日https://www.evernote.com/shard/s440/sh/34754e2f-1e34-43e3-8481-716abb74836d/85d34da70841339066234614956d8e35 

■ スウェーデン・パラドックス/いまこそ、スウェーデンのみならず現代世界トータルへ重要な影響をおよぼす可能性が高い「オーストリアン → スウェーデン学派」という「公共選択的な意味での政治経済」の大きな流れについて冷静な検証が必須ではないか?https://www.evernote.com/shard/s440/sh/1982d74b-5f49-4acb-a4d2-bcbdb1be59e9/0f1926691b95066942ae8a1698757c0a 

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◆2009-12-19toxandoriaの日記/北欧型福祉社会と米国型市場原理の共通起源、「制度経済学派&リアリズム法学」についての試論(日本は何処へ向かうべきか?)https://toxandoria.hatenablog.com/entry/20091219/p1

・・・・以下、◆より転載部分・・・

・・・北欧(≒西欧)と米国について、このような原理部分の違いを考慮しつつこれら二つの社会福祉制度のモデルを概観するため、スウェーデンとアメリカの社会福祉制度の概要を纏めると以下のようになる。


(1)北欧型福祉制度/スウェーデンの社会福祉(概要)

スウェーデンのソーシャル・ポリシー(強いて訳せば、社会経済政策)の先駆的な性質が初めて世界的に注目されるようになったのは1930年代からだ。大不況・大量失業への対策として、当時の社会民主党政府がアメリカのニューディール政策に先駆けて公共事業の拡大と協同組合方式の導入を図った。これが資本主義とも社会主義とも異なるスウェーデン方式のソーシャル・ポリシーとして注目を浴びたのである。

そのスウェーデン型福祉国家モデルの主な特徴を列記すると以下(●)のようになる。ノーマライゼーションの理念を始めとして我が国の福祉政策もスウェーデンから多くを学んではいるが、このように<根本的な理念部分を地政学的な観点から独自に深めることの重要性>に気付かぬまま、約60年にも及ぶ自民党による独裁・腐敗型の長期マンネリ政権(パンパン搾取型経済に甘んじた政権)下で無駄な長い時間をやり過ごしてしまった。

そのため、長期自民党政権の最後の局面で「小泉・竹中劇場」が極端な米国型ネオリベラリズム(なんでも民営化路線)を移植することに殆ど無抵抗・無防備に近い状態となり、現在の悲惨で恐るべき状況(遂に国民皆保険制まで、言い換えれば国民健康保険・国民年金までもが財政破綻の見込みを口実に廃止→民営化の可能性が検討されかねないというリスクに晒されている!)に追い込まれることとなった訳だ。

●全国民が、普遍的で包括的な社会保障制度の理念を共有している・・・日本でよく見られる“国民(基礎)年金や公的医療保険(国民皆保険の原則)などイラネー!”という類の2チャンネル型の暴言を吐く愚かな国民は殆ど存在しない。

●完全雇用の維持に国が責任を持っている

●産業(自由市場&企業)をベースとしつつ社会保障、雇用維持、環境保全、公共財の保全・維持について国が積極的な役割を果たす「混合資本主義(混合経済社会)」を理念としている

●労使が十分に組織化されており、両者間の問題解決が自主的かつ民主的に行われる

●政治腐敗の予防が十分に作用しており、高度な国民意識による良質な民主主義が機能している・・・日本でよく見られる“堕落したマスゴミによる国民をミスリードするための虚偽報道や不見識なウヨvsサヨによる掛け合い漫才的でムダな時間と知恵を浪費するような意味での低劣な悪玉菌増殖型の腐敗現象”は殆ど存在しない

また、スウェーデンの「社会保障と税制」にかかわる大きな特徴を挙げるとすれば、以下の二点(a、b)となる(情報源、http://www.eco.kindai.ac.jp/zaisei63/pdf/2F.pdf)。

a 課税対象となる社会保障給付の規模(数)と金額がきわめて大きい

・・・一般家庭の所得全体は「賃金・利子等の要素所得(70%)、社会保障給付(30%)」から成っている。

・・・この中で「老齢年金・障害者年金・傷病手当・失業保険手当等(25%)」は課税対象で、「児童手当・住宅手当・公的扶助・奨学金等(5%)」の部分は非課税。従って、非課税部分(5%)を除いた残り95%部分が課税対象となる。

・・・「賃金所得(要素所得の約85%)」の所得階層分布は、殆ど正規分布となっており、その中央値(350万円程度)は日本の水準より低いが、スウェーデンは共稼ぎが多いので一般家庭の平均収入はその2倍程度と推測される。

b賃金所得の階層間「格差」がきわめて小さい

・・・必然的に、スウェーデンもグローバル市場主義という時代の流れに飲み込まれて、やや格差が拡大したとはいえ、未だに上位2番目の階層と中位階層の格差は1.6倍程度(1990年代前半1.40倍→やや増加傾向)に止まっている。

・・・OECDの相対貧困率(mid-2000s)を見るとスウェーデン5.3%は加盟国の中でデンマーク(同%)と並びトップを誇る。日本の同貧困率は14.9%で、メキシコ18.4%、トルコ17.5%、米国17.1%に次いで4番目に貧困率が高い(OECD加盟国の平均は10.6%/情報源 ⇒ http://stats.oecd.org/Index.aspx?DataSetCode=POVERTY)

・・・因みに、上の「要素所得+課税対象の社会保障給付」=総課税所得に対して平均で約30%の所得税がかけられるため、残りの70%が「可処分所得」となるが、スウェーデンの所得税は強い累進性のバイアスがかかっている(参照、下記参考データ◆)ため、上位層と下位層の所得格差が小さくなる。

◆スウェーデンの付加価値税と所得税にかかわる参考データ

<付加価値税>

・・・標準税率25%/食品、ホテル・交通などのサービス料金は12%の軽減課税/書籍・新聞・スポーツ・イベント入場料は6%の軽減税率/医療・介護・公立幼稚園などの公共サービスは無税

<所得税>

・・・31万6700クローネ未満/約29〜37%のコミューン(地方)税のみ

・・・31万6700クローネ以上〜47万6700クローネ以下/コミューン税+20%の国税

・・・47万6700クローネを超える部分/コミューン税+25%の国税

なお、スウェーデンに関する冷静で客観的な観察or体験情報はあるようで意外に少ない。が、下記のスウェーデン生活体験者らの情報は参考になると思われるので、ここに転載しておく。特に、日本の“世襲議員問題(=バカ殿様のような国会議員身分の世襲を当然視する異様にミーハーな空気の充満、そして巨額財産の無税(合法的脱税?)相続という世襲の特権化)の如き異常な政治を許す”などはスウェーデンでは、とても考えられないことのようだ(出典:http://oshiete1.goo.ne.jp/qa454241.html)。

(関連参考情報)

北欧型高福祉を志向 道民6割、格差拡大で 北大・本紙調査、http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/206384.html

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回答者:violetmira 下記URLにスウェーデン社会福祉視察された日本人のレポートが掲載されてます。

スウェーデンは日本に次ぐ世界2位の長寿国、かつ出生率も先進国有数の高さを誇る国。充実した社会保障を支えるのが「税金」!大まかに言うと、給与の50%をもろもろの税金に払うそう。

非常に重税のように見えますが、医療・福祉・教育等の大部分は、そのお陰で「無料」で受けることが可能。この税金を皆共通にかかる内部費用と考え、全収益の中からその内部費用を引いた残りを分配していると考えれば、「給与(生活費)が少ない」と言う発想にはならないかも。

もちろんスウェーデン社会は問題ゼロってわけじゃありません。

でも議員ポストの職業化(世襲化&巨額財産の無税相続という特権化)はやってない。大臣をのぞいた一般議員は定職に就いていて、議会が開かれるたびに仕事を休んでかけつける。

議員の身分と利権は無縁であり、ボランティア活動に似ている。 半業として政治へ参加するこのような行政のあり方は、集団を共同体たらしめるにあたって非常に参考になるように思えます。

反対に日本ときたら、市議会委員、国会議員に信じられない高額な年金を払ってます。

年金900万円(年間)もらっても、ボケて寝込んじゃ何千万〜何億のシルバーマンションか月に数十万のサナトリウム、もしくは家でいじめられながらオムツ替えて〜と泣き喚く始末。

俺は早死にしちゃうから関係ないよと言っても、成人病、特にガンになれば、もう金が湯水のように流れていく。

親がリストラされて、現在通学中の高校、大学を断念したり、志望する学校を断念する。ある日、交通事故に遭遇して、車椅子生活になっても日本の福祉じゃ、所詮、家族の世話にならなきゃ生きていくの難しい。

何で重税なのか、その理由がわかっているからスウェーデン人の大半は北朝鮮人みたいに脱出したがらないんです。

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gogojinsei 「スウェーデンの社会福祉と介護」というHPにBBSがあるので、この質問をそこに書き込んで聞いてみてはどうでしょうか?

スウェーデンでは昨年9月に国・県・市町村の議員を一斉に選ぶ選挙があり、減税をして福祉は個人的なお金を出して行おうとするのを退け(穏健党の主張が敗退)、人間の尊厳を保つために必要な福祉は税金で運営する選択(社民党の主張が勝利)をしています。

この選挙ではたくさんの若い人たちが選挙小屋という政党のほったて小屋を訪れて政策ショッピングをしていましたし、その結果として税金を出して福祉を民主的にコントロールする方法を選んでいます。

よく考えてみれば日本の福祉は税金でまかなう部分が低い反面、個人々々が老後の福祉に備えて保険を掛けなければならない分お金がかかります。税金としてまとめて納め、民主的にコントロールしていこうとするスウェーデン国民の方が賢いのではないかと思います。

なお、税金は福祉だけに使われるのではありません。参考のため小学校の教育を紹介するHPも見てごらんなさい。スウェーデンの良さが(悪い点も)伝わってくると思います(http://bit.ly/cak0zt)。

(参考資料)

危機管理・フィードバック(振り返り)・自立行動を重視するドイツ・スウェーデンの生活体験学習についてのレポート、https://qir.kyushu-u.ac.jp/dspace/bitstream/2324/9049/1/lnel004_p081.pdf

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前に述べたことだが、20世紀初頭のアメリカとスカンジナビアに興った「制度経済学派」(Institutional School)と相互に影響し合ったと考えられる「リアリズム法学」(同じく、20世紀前葉にアメリカ大陸や北欧諸国を席巻した法社会学の学派)は、各々の「ソーシャル・ポリシー」(健全な市民社会を維持するための政策課題の基盤となる理念の設計)についての視点を、米国と北欧では全く逆向きに深化させてしまったと看做すことができるのだ。

つまり、スウェーデン、デンマークなど北欧諸国では、福祉社会型の「ソーシャル・ポリシー」が“個別的な衡平性(Individual Equity)”(配分的正義/人々がそれぞれの能力に応じて地位や財産を手に入れる平等/アリストテレスによる)、“社会的十分性(Social Adequency)」”(矯正的正義/社会全体における罪と罰との均等や取引・交換における平等のように、場の全体を視点に入れつつその全体との調和を図る算術的比例に基づく平等/同じくアリストテレスによる)、“集団的衡平性(Group Equity/衡平を支持する集団的な責任意識)”の三要素をバランスさせる意識が深まったため、その社会そのものが「社会に調和する経済学(市場原理)」(ドイツ風に言えば『社会的市場経済』)を採用する方向へ進化したと看做すことができる。

(2)米国型福祉制度/アメリカの社会福祉(概要)

アメリカ社会で最も目立つ伝統は、自由な産業・企業社会と自由な労働社会(労働者の移動の自由)を最大限に重要視することである。そのため、元々、福祉や社会保障は連邦政府の役割ではなく、各産業・企業や、それらが立地する州政府の役割として出発してきた。しかし、流石に、それでは究極的には国家の長期財政に混乱が生じるため、やがて「社会保障制度=連邦・・・失業保険・災害保険など産業が原因となるリスクへの対応」、「労働に関係しない扶助関係=州政府」という形で分担するようになった。

ここにこそ、アメリカが“医療に関する「国民皆保険の原則」を持たなかった理由”がある。つまり、病気一般は産業原因によらないので、国家の社会保障の視野に入らないで当然とする立場なのだ。そのため、「公的医療保険」は、1965年に制度化された「65歳以上のOASDI受給者と末期の腎臓病患者だけ」を対象とするメディアケアと低所得者向けのメディケイドだけとなっている。

<注記>アメリカでの「医療保険制度」別対象者の概要

イ 民間医療保険(民間保険会社/市場原理で運用/HMO、PPO)約18,200万人

ロ 公的医療保険(市場原理のフレームから落ちこぼれた弱者用)

ロ-1 メディケア制度(Medicare/高齢者・障害者、低額保険料負担)約4,400万人

ロ-2 メディケイド制度(Medicaid/低所得者、低額保険料負担)約3,300万人

ハ 無保険者(Medicare or Medicadeから排除された人々)約4,600万人 ← 総人口の約15%相当!!

<注記>OASDI(老齢・遺族・障害保険)

アメリカの公的年金制度が「老齢・遺族・障害保険(OASDI/1937〜)」である。一部の例外を除き、一般被用者(民間企業の会社員や公務員)と年収が400ドル以上の自営業者は強制加入。

OASDIのスタート当初は公務員が適用対象外であったが、今は1984年以降に採用された連邦政府職員は強制加入、 州・地方政府職員は協定により団体で任意加入することができる。また、公務員はOASDIに上乗せとなる独自の年金制度を持っている。

なお、アメリカの社会福祉は“産業主義・企業主義”であるため、日本のように無職者・専業主婦などが加入できる国民年金は存在せず、専業主婦に対するOASDIの支給率は非常に低いものとなっている(下記の事例▼を参照)。

▼アメリカの年金について(http://qanda.rakuten.ne.jp/qa2737199.htmlより転載)

質問者:snowball75 アメリカの年金について、お問い合わせします

私は今32歳でアメリカ人の彼(37歳)と遠距離恋愛中です。結婚話も出ているのですが、アメリカで生活する となると私の方の経済的基盤が語学力のこと含めて不安定なため、生活していくのに経済的不安があります。

彼は大手証券会社に勤めており、税引き前の年収 約$90,000(約1080万)です。彼の年金が満額もらえる年齢は67歳なのですが、仮に私が専業主婦で彼が67歳まで働いたとき、アメリカでは満額 時何パーセントの年金(social security)がもらえるのでしょうか?

回答者:gbrokk 若い時からアメリカに移住して現在ソシアルセキュリテイを貰っている老人です

普通のサラリーマンとして40年近く働いた結果、現在貰うソシアルセキュリテイは年間18,000ドルです、家内は10年少し働いて年間6,000ドルを貰います、二人とも米国籍です

つまり夫婦の年金収入は月に2,000ドルぽっちで、生活費の半分以下にしかなりませんのでソシアルセキュリテイだけでは生きて行けません、それさえも所得税の対象になる事をご承知ください

彼は職業がら企業の年金や私的な年金制度に参加しているとは思いますがソシアルセキュリテイの支給額は必ずしもその人の収入と比例するとは限りません、国民全部で支えあうシステムですから高給取りでも案外少ないのです

そもそも現在の世知辛いアメリカで専業主婦は昔の夢になりました、貴方も自分の力で稼ぐ覚悟をお持ちください

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1960年代のケネディ民主党政権が自動車労連とともに「公的医療保険」の導入を図ったとき、その対抗策として共和党が提案して導入されたのが「健康維持機構(HMO/Health Maintenance Organization)」である。これは一種の前払いによる会員型医療制度(複数の民間保険会社を組織化したもの)で、その後にPPO」(Preferred Provider Organization/自己負担率がHMOより高いがHMOのように主治医を通さなくても専門医を選んで直接診断を受けることができ、病院やその他の医療サービスの選択についてHMOよりも自由度が大きい制度)ができた。

日本のような公的医療保険がない(国民皆保険制でない)アメリカでは、このHMOとPPOが一般国民の医療保険の中核的な受け皿となっている。ただ、このように個人で民間の保険会社の医療保険に加入するアメリカでは、勤務先の団体保険(この場合、保険料の7〜8割は会社が負担する)に加入すれば、健康状態のいかんにかかわらず加入できる場合が多い。

しかし、純粋に個人で加入する場合は、健康状態によっては加入を拒否されることがある。しかも、個人負担の場合は、日本の一般サラリーマン並みの医療サービスを受けるための保険料が月額で10万円以上になり、それに加えて、診療費の免責があるため7〜8万円未満の診療費の場合は全額自己負担になるという試算もある。

ところで、1965年以降、アメリカの総医療費の伸びの平均は経済成長率や物価上昇率を遥かに上回る12〜13%で推移してきた。そのため、国民一人当たりの医療コストは日本と比べて約2.7倍の水準で、医療費の高騰(OECD加盟国の中で最も高い!)はアメリカの最大の社会問題の一つとなっている。

<注記>アメリカの医療費が高騰する主な原因・・・下記の二点が指摘できる。

●過剰医療(医療過誤訴訟を回避するための措置として過剰医療)

●民間保険会社の寡占状態(これを維持するためのロビー活動が活発)

その医療費高騰問題には、従来の「出来高払制」から「定額前払制」のHMOが導入されて一定の歯止め効果が見られたが、今度はそのHMOの診療内容に不満が出つつある。例えば、それは救急患者や重篤患者への診療拒否にとどまらず、個人的な加入希望者への既往症などを理由とする加入拒否問題が多発するようになったからだ。当然ながら、これらの非人権的な問題は、営利企業たる経営を優先するために発生するのだ。

また、医療における「無保険者問題」もアメリカにおける最大の社会問題の一つであり、現在はその数が約4,600万人に達しており、1990年代は年に約10万人ずつ増えていたが、その数の上昇傾向も更に加速しつつある。

「一般国民を対象とする公的医療保険」がないアメリカでは、それらしきものと言えば「メディケア」と呼ばれる65歳以上の高齢者を対象とする公的医療保険があるにすぎず、それも入院保険が強制されるだけであり、一般診療の加入は任意(高額な保険料の負担が条件)となっている。

結局、アメリカは「労働市場と連動した社会保障制度」のみを認めるという考え方がソーシャル・ポリシーの基本となっており、この<特異な根本理念>が「社会保障や医療保険にも市場原理を適用するという考え方」の土台になっているのだ。そして、この点こそが、スウェーデン、デンマークなどの北欧型あるいはヨーロッパ型のソーシャル・ポリシーとの決定的な違いをもたらしている。

たしかに、市場原理を活かした経済の活性化と持続的発展、そして国民一人ひとりの自立は大切なことであるが、アメリカの「労働市場と連動した社会保障制度」のみを認めるという考え方は、欧州や日本の現状と比べれば“はなはだ異常だ!”と看做さざるを得ない。だから、そこへ限りなく接近しようとした「小泉・竹中劇場」の“カイカク”なるものが如何に危険極まりない代物である(あった)かが理解できるはずだ。

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<主な参考文献&資料>

高 哲男:現代アメリカ経済思想の起源(名古屋大学出版会)
井上誠一:高福祉・高負担国家、スウェーデンの分析(中央法規)
藤田伍一・塩野谷佑一編:先進諸国の社会保障、アメリカ(東大出版会)
丸尾直美・塩野谷佑一編:先進諸国の社会保障、スウェーデン(東大出版会)
中岡望の目からウロコのアメリカ、http://www.redcruise.com/nakaoka/?p=153
アメリカ合衆国社会保障制度の概要、http://homepage2.nifty.com/087480/b.cus_syakaihosyou.htm
海外の公的年金制度、アメリカ編、http://allabout.co.jp/finance/gc/13217/2/
スウェーデンの社会保障と税制、http://www.eco.kindai.ac.jp/zaisei63/pdf/2F.pdf
スウェーデンの税制について(その5)、http://palcomhk.blog79.fc2.com/blog-entry-411.html

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