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【読み切り小説】宇宙と、その向こうのかみさま。

学校の帰り道。雲が夕焼け色に染まっている。俯いて歩く人が多いので、再現不可能な空模様を目にすることができるのは、ほんのちょっとしかいない。

私は、そんな作品を見ることができた人間だ。
ただ、それを嬉しく思うことはきっと無いだろう。

はっきり言ってナンセンスなそれが、どういった空だったかというと。


電線が、空に飲み込まれていた。

電線のレイヤーよりも、空のレイヤーが手前に来ている。
どういう状況かきっと言葉じゃ伝わらないだろうけど、そうとしか言い表せない。

自然の摂理が狂っている。空は、ずっとずっと高くにあるものだ。だから、人間が立てた電柱が空を突き抜けることはありえない。はずなのに。

柱と柱の間に張られた電線よりも、空が手前にきていた。

そんな異様な状況だ。多くの人に知らせようとしたのかもしれないし、ただ写真を撮ろうと思ったのかもしれない。女子高校生のわたしは、口をあんぐり開けたままスマフォを取り出した。

写真を撮る。が、画面が真っ暗になる。もう一度ホーム画面を立ち上げて、パシャリ。真っ暗。うーん、どうしよう。
仕方ないので、ホーム画面のロックを解いて、SNSのアイコンをタップ。朝に見たタイムラインが表示される…が。更新されない。電波が悪いのだろうか。と画面の右上を見ると、そこには"圏外"と表示されていた。

閑静な住宅街のど真ん中で、圏外?

ありえない。とりあえず家に帰ろう。そして家族に聞いてみよう。何かあった時に自分の気持を形にする手段が失われたからか、焦りが足を早める。

いつもの夕飯。母の携帯も圏外になっていた。テレビは全て砂嵐で、報道を見ることが出来ない。いくら謎解きをしようとしても、どうしようもない。電線より空が手前に来ていることを母に話したら、それは気づかなかったと母は驚いた。

夜。なんとなく、外に出る。つられて母もつっかけを履いて夜空を見上げた。相変わらず空は手前にあるのだが、暗闇であまりよくわからない。

と、星がひとつ、煌めいた。

一番星くらいの明るさの星。それがたまたま目に入ったので気になった。それだけのことだ。

目が合った。

星と目が合った。えっ?と声を上げる間もなく、

星々が、歌い出した。

か細く、鈴のなるような声は一つ、一つ、増えていく。煌めく星は一つで、夜空は闇なのに、それらが生きていることを私は"理解してしまった"。波打つそれらは、心臓が鼓動する様で。理解できない言葉の歌は、意味を持って脳裏にささやく。普段認識することのない意識の奥深くへささやく声は、気持ち悪いを通り越して、心地よかった。星が微笑み、歓迎される。夜空に光が指して、頬を撫でる。甘いものが好きだけど、痩せたいなあなんて思っていたお腹が暖かくなり、何かが宿る。私は選ばれた。神に愛された。無数の生命体に、飲み込まれていく。

狂った人間は、珍しい。
それは。狂った人間が大衆の目につかないだけだ。
なぜ大衆の前に出ないかって?

儀式の邪魔をされたら、たまったものじゃあないからね。

翌朝。ふかふかのベッドで目が覚める。
母が私を呼ぶ声が、階下から聞こえる。
窓の外には、電線に止まってさえずる雀が複数羽。

スマホには、友人からの通知。

身体を起こして目をこする。

なにか忘れている気がする。

朝食を食べようと二本足で立った。



うぞり。

下腹部がじんと熱くなった気がした。
空が昨日よりも近い気がした。
神の君臨はどこかで成された。
わたしは、会いにいかねばならない。

そのまま、窓から身を投げ出す。
どうしてかと問われれば、いてもたってもいられなかったからと言い訳をしよう。

ぐちゃり、柘榴の散乱する音
まっかっかな海が閑静な住宅街に広がる

だが、少女の死体は発見されなかった。

同時に、遠い外国の海の真ん中で、直径××キロの大穴が空いた。
深淵が、地球を認識した。

それを止めることは、誰にも出来ない。





ここまで読んでくださってありがとうございます。毒親育ちの自分に嘆くばかりだった人生から、少しずつ前を向けるようになりました。このnoteは、誰かが前を向くきっかけになればいいな、と思っています。もしよければ、また覗きに来てください!