【気まぐれエッセイ】9歳の私を迎えに

「自分のことは自分でやる」
甘えただった私が、そんなことを急に言い出したのは、実家を建て替えた9歳の頃。


少し早めの第二反抗期。


「セーラームーンになりたい」って言っていた私が「かっこよくて大人っぽい女性になりたい」と言い始めた。


私の子ども時代はきっと、前のお家とともに取り壊されたんだ。新しい家が完成するまで泊まっていた祖母の家で、私は思春期と言う新時代を迎えた。


強い反発心とは裏腹に、いつか帰りたいと願った。あのあたたかい、大好きな場所へ。みんなが愛してくれる、守ってくれる、敵のいない子ども時代へ。

何度も湧いてくる気持ちを、必死で切り捨てて、描いた理想の自分像だけを目印にして、長い間、突っ走ってきた。


「強くなりたい」
日記に一番たくさん書いた言葉。


あたたかいビニールハウスを飛び出して、広い世界を見なくては……。自分の足で立たなければ……。そうじゃないと、恥ずかしい。

そしていつか、「強くて」「かっこよくて」「綺麗で」「自立した」大人の女性になれたら、私はあたたかい場所に帰るんだ……。そしたらやっと、恥ずかしがらずに、安心して子ども時代をやり直すんだ……。


ずっと、そう思ってきた。そう願ったまま、20年以上が過ぎた。

いつかは、いつ? 私はいつ、満足できるくらい強く、美しくなれるのかな?

途方に暮れた。もう、一歩も歩けないと思った。



もういいや……。
せっかく生まれてきたんだから。大好きな人と、ただゴロゴロする幸せを、守られている安心感を、恥じることなんてないんだ。誰かの幸せを邪魔することなく、自分が幸せなら、どんな人生だっていいんだから。

このままじゃ、死ぬときにきっと後悔すると思った。

かっこよくなくていい。甘えたで子どもっぽくて、ぐーたらな私でもいい。幸せならそれでいい。私は、9歳の私を、迎えに行くと決めた。



そうして家族の元へ帰ってきた私は、今、とても満たされている。

手に出来なかったものもあるけれど、そしてそれはわりと大きな悔しさと虚しさを与え、私から自信を奪っていったけど、でも幼い頃に思った通り、見たかったものを見て、あたたかい場所へ帰って来た。強くも、かっこよくも、大して綺麗にもなれていないけど、自立だって出来ているかは微妙なとこだけど、それでも色んなことを経験して、あたたかい場所に、帰って来られた

何1つ叶っていないと思っていたけど、大きな目標を、1つは叶えていたようだ。

幸せな時間で人生を埋め尽くしたい私にとって書くことは、不幸を無駄にしない手段の1つ。サポートしていただいたお金は、人に聞かせるほどでもない平凡で幸せなひと時を色付けするために使わせていただきます。そしてあなたのそんなひと時の一部に私の文章を使ってもらえたら、とっても嬉しいです。