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愛読書としての『ツーリングマップル』

『ツーリングマップル』ってご存じですか。

自転車やバイクでのツーリング界隈では、知らない者はいないであろう道路地図のことなのですが、通常の道路地図と異なりツーリングに特化した「道や風景の情報」が紹介されています。

自転車を始めた2011年に先輩に譲ってもらった『ツーリングマップル北海道』に始まり、現在では刊行されている7冊(日本全国を7分割している)を全て所有するまでになり、ここ10年では一番読み込んだ本でもあります。

昨今の外出自粛の折、こいつを開いては今後行ってみたいあそこやあそこに思いを馳せているのですが、全て揃えた今だからこそ感じたことを一冊ずつ読書感想文しようと思い、筆を執ることとしました。

無題

※各地域版が全域を網羅している都道府県を色付けしている。

北海道

北海道ツーリングのバイブル。バイクでも自転車でも北海道ツーリングをする者の9割は所有している必携の一冊。北海道のすばらしさは、いずれ別記事を書くことになると思うが、その広大さや食べ物のおいしさは他の地域よりもひとつ抜けていると思っているのは、自身の初めての長期ツーリングが北海道だったことに由来するのだろう。

少なくとも、おおよそツーリングに手を染めたものであれば「夏の北海道」と「しまなみ海道(後述)」は間違いなく憧憬の念を抱くものなので、気づいたら手元に『ツーリングマップル北海道』があったというのはよくある話である。

北海道しか掲載されていないが、北海道ツーリングをたしなむ者にとってはそれで全く問題なく、仮に隣接地域である青森県が含まれていた場合、約15ページ増となる。これは重量にしておおよそ60gになるため、1gの軽量化に命(とお金)をかけている自転車勢としては大変ありがたい。ちなみに本書はシリーズ最軽量の325gとなっている。

また、シリーズ唯一の1/200,000縮尺(※見開きの端から端まで約50km・他地域版では約35km)であることも北海道の巨大さを地味に感じさせてくれる。

◆主なスポット:北海道

◆おすすめページ:58【稚内】

稚内2


東北

南北に長いその掲載エリアから、全域を利用する難度が最も高いのではないかという一冊。

単独のツーリングスポットとして全国No.1となるような戦闘力を有しているところはあまりないが、人気ランキングで常に上位に入ってくる磐梯吾妻スカイラインや竜泊ライン、男鹿半島など、全体として非常に高水準なエリアである東北を完全網羅している。

シリーズ他書と比べて「〇〇一周!」「〇〇半島制覇!」といったネーミングの勝利みたいなスポットがあまりないような気がするので、イメージとしては地味。「東京から北海道まで目指します!」「自転車で日本一周!」などと謳う旅人の方々には刺さるところもあるにはあるのかもしれないが、そういった方々はツーリングマップルが標榜している「読み物」としての地図は求めていないので、時代とともにスマホに置き換えられているとかなんとか。事実、自分が初めて北海道まで自転車で行ったときは、本書を買おうとはまったく考えていなかった。

個人的には、絶景道路あり!名山あり!温泉あり!と自転車で走るにも、登山をするにも楽しいエリアなので、ここ5年間で毎年訪れているエリアである。行くぜ、東北。

◆主なスポット:磐梯吾妻スカイライン、竜泊ライン、男鹿半島、八幡平

◆おすすめページ:89【十和田湖】

十和田湖


関東甲信越

関東在住なら普段使いするのはこの一冊だろう。ツーリング用マップという性質上、1/140,000縮尺であるため都市部の観光などの用途にはまったく適さない。26ページ【東京南部】など他の地域版と比べてもとても同一縮尺とは思えない脅威的な密度を誇る。

関東甲信越とはいうものの北は福島県のほぼ全域から、南は静岡県を通り越し愛知県の豊川までと広域をカバーしている。そのため、掲載ページ数がシリーズ最多の116ページ、重量はなんと535gと、最軽量の北海道とくらべて200gも重い。なので宿泊を伴うツーリングに携行するというよりは、日帰りツーリングの下調べに使うことが多い。

自分はバイクには乗らないので、日帰りツーリングといった場合、バイクなら一日どのくらいの走行距離になるのか分からないため自転車目線となるが、個人的には一日に無理なく走れて150km程度、翌日のことを考慮しなければ300km程度と考えている。公共交通機関や自動車を利用するとしても、おおよそ往復300㎞圏が日帰りエリアとなるが、そのエリアがすべて網羅されているところが本書の肝だ。下図は直線距離だが都心部を中心に半径150㎞の日帰り圏を表したものである。本書の掲載エリアが日帰り圏+αという絶妙な範囲であることが分かる。というか関東平野の大きさが人力(自転車)にちょうど良すぎる。

関東拡大

◆主なスポット:房総半島、金精道路、佐渡島

◆おすすめページ:72【日光】

日光


中部・北陸

この中部・北陸版と後述の関西版は扱いが非常に難しい。というのも先にも述べたように冒頭で紹介した各版の掲載エリアはその都道府県の全域を網羅しているか否かによって判別しているため、一部のみをカバーしている県などは掲載エリアとしていない。そのため、実を言えば中部・北陸版がなくとも、関東版と関西版があれば、多くの往来がある太平洋側から乗鞍高原や上高地などが位置するエリアまで、本州東西の大部分が網羅されている。本書掲載エリアのほとんどが関東版、関西版のどちらかに含まれるのである。そのため、ごく限られたエリアを訪れる場合、もしくは中部圏を拠点とする場合を除いて、「中部エリアに行くから中部・北陸版が必要!」とはならない。

ただし、その「ごく限られたエリア」が無視できないのが昭文社のうまいところ。みんな大好き能登半島である。ページにして6ページとなる。人はこの6ページのために本書を手にし、みな同じことを考えるのだ。

「関西版のページ数は93…関東版は116…能登半島を関西版に加えたとしても合計99ページ…あれ?中部・北陸版いらなくね…」と。

ただ考えてみて欲しい。分冊された全国地図である本シリーズを目の前にすれば全巻揃えたいのが人情であろう。一冊約2千円が7分割なので、すべて揃えて計1.4万円。100人が購入すれば140万円となる。能登半島が関西版に編入され6分割となったら売り上げが……邪推は良くないですね。

ちなみに中部・北陸版は、ぎりぎり東京-大阪間をカバーしているためキャンボーラーのルート構築に用いられることがあるとかないとか。

※キャノンボーラー:キャノンボールの達成者もしくは挑戦者を意味する。キャノンボールとは、平成18年ごろ、その筋の愛好家がネット上の掲示板で「東京-大阪間を1日で走る」と書き込んだことに端を発する、自転車で東京・日本橋-大阪・梅田新道交差点間約550㎞を走行する行為である。もともとは米大陸を横断する非合法長距離自動車レースに由来する。

◆主なスポット:能登半島

◆おすすめページ:95【氷見】

氷見


関西

関西版も中部・北陸版と同様に「中部・北陸版と中国・四国版があればいらないのでは…」という声が聞かれるエリアである。こちらで独占掲載されているのは、かの高野山、熊野三山を含む紀伊半島である。

ツーリングで紀伊半島を訪れる場合、もちろん上記の高野山や熊野を目的地として足を運ぶこともあるかと思うが、もっぱら目指すのは本州最南端である「潮岬」ではないだろうか。

バイクや自転車、自動車だとしても言えることだが、ツーリングを趣味とする者であれば、大半は「最〇端」や「最高所」などを目指すものだ。通常の観光であれば何の変哲もない(記念碑がある場合も多いが)ただの道や場所で通り過ぎてしまうだけの地点であったとしても、ツーリスト(ツーリングをする人の意)にしてみれば立派な目的地なのである。それが、その行程に意味を持たせたいからなのか、そういった場所がたいていは都市部から外れたところにあり、非日常的な景観を味わうことが出来るからなのかは人それぞれかもしれない。

前述のような文章で、本書の説明についてお茶を濁しているのは、紀伊半島が関東圏在住者からすると交通アクセスの面では北海道よりも遠い場所であり、自身も訪れたことがないために他ならないことを付け加えておく。

◆主なスポット:紀伊半島

◆おすすめページ:2【潮岬】

潮岬


中国・四国

誰しも一度はあこがれる、本州の広島県尾道と四国の愛媛県今治間に点在する島々を道路で結んだ「しまなみ海道」が掲載されている。本州-四国間を唯一自転車で渡れるということもあり、サイクリストの聖地としても扱われることもある。

かの地のマップについては、より詳細な情報を掲載した単体のマップが各所で作成されているため、しまなみ海道のためだけに本書を購入することは少ないかもしれないが、この場所を行程に盛り込んで中国・四国地方をツーリングするというケースは多いだろう。加えて、本州-四国間を唯一自転車で渡れるということもあり、サイクリストの聖地としても扱われることもある。

個人的にもしまなみ海道は何度もいきたいすばらしい場所であることは間違いなく、日本有数の絶景道路なのは疑いようのない事実である。しかしながら、本書の魅力はそれだけにとどまらない。

特に声を大にしてお伝えしたいのが、ツーリングスポットとしての四国のポテンシャルの高さである。広がる太平洋を望む海岸道路から、ひとたび内陸に進めば渓流沿いの緩やかなアップダウン、そしてそこから延びる峠道の数々…。たとえ本書が中国版と四国版に分割されたとしてもそれぞれを購入する価値はあると断言できる。

◆主なスポット:しまなみ海道、瓶ヶ森UFOライン、秋吉台カルストロード

◆おすすめページ:57【しまなみ海道】

しまなみ海道


九州・沖縄

その名の通り、九州の全域と沖縄を網羅し、特に九州ツーリングには欠かせない一冊。掲載ページは1~73ページが九州、74~86ページが沖縄となり大半は九州の地図である。

ここまで書いてきて気づいたのだが、日本という国はどこの地域においても、おおよそ温泉があり、海・川・山の景勝地というものは存在している。しかし、なぜツーリストたちは北海道に惹かれ、しまなみ海道に惹かれるのだろうか。それは「その景色が圧倒的にそこにしかない」ためであると思う。阿蘇の巨大なカルデラ地形とその外輪山が形作る景観は間違いなくここにしかない。

阿蘇に限らず、ツーリングを計画するにあたり熊本でも、鹿児島でも、長崎でも、九州いいかもと少しでも感じたのであれば、本書を一度お手に取ってページをめくってみることをお勧めする。きっと気づいたときには7泊くらいの行程を組み、飛行機の予約をしていることだろう。

◆主なスポット:沖縄、阿蘇

◆おすすめページ:26【阿蘇】

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まとめのようなもの

個人的にツーリングの目的地の要素はいくつかあると考えています。

 ①数km~数十kmにわたる距離・範囲

 ②迫力(高さ、遠さ、大きさ)のある眺望

 ③「最〇〇」「唯一」要素

もちろん通常の旅行で訪れるようなスポットも、『点』として目的地となりえるが、ツーリングはその点と点を結ぶ『線』を楽しむ行為にほかなりません。ツーリングマップルは①~③のようなツーリングプランを立てるのに必要な情報、路面状況や信号有無、交通量、果ては取り締まり情報まで「道や風景の情報」が詰まったツーリストにとっての読み物です。

来たるコロナ後の世界でスタートダッシュが切れるよう、今はただ黙々と地図を読み続けるのみです。

※本記事は筆者の個人的見解です。

※客観的調査に基づかない主観的数値が含まれます。


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