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【書評】竹田いさみ『海の地政学』(中公新書)

 国土を海に囲まれている日本にとって、海洋政策が重要であることは言うまでもありません。

 海は資源をもたらし、交通路として外国への窓口となります。海洋政策をめぐる歴史を学ぶことは、日本人にとっても有意義なはずです。

 本書は、大航海時代によってヨーロッパ人が世界に進出し、「海洋覇権」をめぐる争いが始まってからの400年の歴史をまとめています。

 スペイン・ポルトガルに始まり、覇権はオランダ、イギリスに移る。二度の世界大戦を経てアメリカが超大国となるが、21世紀に入って中国がその海洋覇権に挑戦しつつある――

 あらすじは、概ね世界史の教科書で習った通りです。地政学の話は少なめで、海洋覇権や海洋国際法の解説が中心です。

 とはいえ、解説されているテーマは多岐にわたり、興味深い内容が多いです。
 以下に、面白いと感じた挿話を紹介します。

情報でも世界を制したイギリス

 世界各地に植民地を建設したことで知られるイギリスですが、「情報(インテリジェンス)」という見えない覇権も握っていました。

 19世紀以降、海底ケーブルが敷設され、遠方に情報を送るための電信網が形成されました。この海底ケーブルはイギリス資本が握っていたため、軍事機密を含む世界中の情報を集めることができたのです。

日本が太平洋戦争で払った犠牲

 太平洋戦争で大きな犠牲を出した日本。実は、軍人よりも死亡率(21%)が高い職業がありました。

 それは船員(死亡率43%)です。日本は戦争のため民間の商船を徴用し、軍事物資の輸送などにあたらせました。しかも、日本軍は民間商船を軍艦で護衛する「護送船団」の発想がなく、連合国の潜水艦や戦闘機の攻撃を受け、多くが撃沈されました。

 太平洋戦争中、約6万人の船員が死亡しました。その中には、14~19歳の少年船員が1万9000人も含まれていました。

中国の台頭と海洋国際法

 近年、南シナ海や東シナ海での中国船の活動が活発化しているのは周知のとおりです。

 筆者は6章を「海洋秩序を守る日本」と題し、日本の中国への対抗についても紹介しています。その中で、「日本の海上保安庁は、質量ともに世界の最高レベル」と評し、法執行機関としての海上保安庁を高く評価しています。
 日本には、他国と協力しながら海洋秩序を維持していくポテンシャルがあるということです。楽観視できない国際情勢の中、日本のとるべき指針が示されているように思いました。


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