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【書評】細川重男「執権」(講談社学術文庫)

某カリスマ予備校講師が、「その人の本棚に講談社学術文庫が何冊あるかで教養レベルがわかる」的なことを言っていた。確かに、渋くて勉強になるラインナップがそろっているし、濃紺で統一された背表紙が本棚に並ぶさまは一種の威厳さえ漂う。

そんな「お堅い」講談社学術文庫だが、笑いどころの多い本もわずかに存在する。一冊はいしいひさいち著「現代思想の遭難者たち」、もう一冊は本書である。

本書のテーマは、

「北条氏は執権として鎌倉幕府の実権を握りながら、どうして将軍にならなかったのか?」

である。北条氏は源氏の将軍が途絶えたあと、藤原氏や親王の将軍を京都から迎え、お飾りとしていた。

もちろん、「北条氏は家柄が低すぎたので将軍になれなかった」という説明も成り立つ。しかし、細川氏は「北条氏は将軍になりたくなかったし、なろうともしなかった」という結論を導き出す。

そういう真面目な本なのだが、時々笑いどころが挟まるのである。例えば、こんな感じに。

唐名とは、王朝官職の中国風の呼び方である。現代日本人にとっては欧米があこがれの対象であり、職業がなんでもかんでも欧米風にカタカナで表現される。編集者をわざわざエディターなどというやつである。このような外国へのあこがれは、日本人の特性らしく昔からあった。鎌倉時代のあこがれの対象は中国だったのである。そのため、この唐名というのが、やたらに使われた。

さて、本書によれば、謎を解く鍵は、鎌倉時代後期に生まれたある説話にあるという。「北条義時(2代執権)が、実は武内宿禰(古事記に登場する日本神話の英雄)の生まれ変わりだ」というのである。

この奇妙な話が、なぜ「北条氏が将軍にならなかった理由」につながるのか。それは読んでのお楽しみだ。


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