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ボスニア紛争と知られざるPR作戦⑤~作戦を貫く三つのキーワード

前回はこちら。

3つの言葉で読み解くボスニア紛争

 高木徹氏は『国際メディア情報戦』(講談社現代新書)の中で、ハーフの用いた手法を三つの用語にまとめている。「サウンドバイト」「バズワード」「サダマイズ」である。


「サウンドバイト」とは、政治家などが発したコメントが、テレビ放送用に短く編集されたものである。発言の一部の切り取りになる反面、テレビで自分の台詞を繰り返し流してもらえるよう、意図的に印象的なフレーズを発する政治家もいる。


「バズワード」とは、人々やメディアを一時的に騒がせる流行語のことだ。蜂が飛び回る羽音を表す”buzz”という擬音語から来ている。


「サダマイズ」とは、湾岸戦争で徹底した悪役とされたイラク大統領、サダム・フセインに由来する。つまりは、PRによって「悪辣な虐殺者」というレッテルを貼ることだ。標的になったのは、セルビアの大統領であったスロボダン・ミロシェビッチ(1941~2006)であった。

 まずは、「サウンドバイト」に着目してハーフの戦略を考えてみよう。

シライジッチ外相の失敗と変身

 ボスニア・ヘルツェゴビナ政府に協力し、セルビア人の非道をアメリカ世論に訴えるという仕事を引き受けたジム・ハーフ。彼の最初の課題は、ボスニアからやってきたシライジッチ外相の「改造」であった。ハーフの人脈があれば、シライジッチをメディア出演させることは可能だ。だが、そこでの訴え方を誤れば世論の共感を得られない。


 1992年5月19日、シライジッチはNPC(ナショナル・プレス・クラブ。全米のジャーナリストたちの互助組織)で初めて単独記者会見を行った。しかし、前述したように会見は不調に終わる。米ジャーナリストたちが、バルカン情勢について興味も知識も乏しかったためである。


 いら立ったシライジッチが、紛争に対するアメリカ人の関心の低さについて不満を述べる場面もあった。心情的には理解できるが、せっかく集まってくれた記者に不満をぶつけるのはよくない。


 だが、英語を流暢に操り、見た目もスマートなシライジッチは、広告塔になるポテンシャルがあった。ハーフは、彼にアメリカ流のPR術を伝授し、効果的な伝え方を身につけさせていく。

(続く)

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