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ボスニア紛争と知られざるPR作戦①~概要

 毎日のようにニュースで報道される世界各地の紛争だが、報道内容が常に客観的な真実を伝えているとは限らない。紛争の当事者たちは,自勢力の主張を正当化し,国際世論を味方に付けるためのPR工作をしばしば行っているからだ。


 その一例が、1992年に始まったボスニア・ヘルツェゴビナ紛争だ。民族間の対立では、どちらも自分が正しいと信じており、善悪を判定するのは本来難しい。しかし、ボスニア紛争で行われたPR戦争では、片方の当事者が一方的な悪者になるような露骨な情報操作がなされ、紛争の行方に大きな影響を与えた。


 具体的に言うと、ボスニア紛争には「モスレム人対セルビア人」という対立軸があった。モスレム人側は、巧みなPR戦術によってセルビア人を悪者に仕立てることに成功したのである。


 知られざるPR戦争の経過は、ジャーナリスト・高木徹氏の好著『戦争広告代理店』(講談社)に詳しい。同書では、アメリカ政界や国連の舞台裏の息詰まる攻防も描かれており興味深いが、本稿ではひとまず「情報操作」の面のみに焦点を当てて、PR戦争の顛末を紹介していこう。


 事例の一つに「バズワード」というものがある。多くの人に強烈な印象を与える言葉のことだ。ボスニア紛争では、「エスニック・クレンジング(民族浄化)」という言葉が初めて使われ、世界に衝撃を与えた。
 このバズワードが世界のメディアに繰り返し使われたことによって、「セルビア人=残虐」という構図が世界各地の政治家や民衆に植え付けられた、というわけだ。

(つづく)

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