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2021年7月の記事一覧

グリュック 詩抄 (6) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (6) Translated by Toshiya Kawamitsu

   傷

空気は パンを かたくする
ハエと コオロギ ベッドから
見ている はねる 笑ってる
天気は こんなに ねば ねば と
存在 焼ける におい して
あなたは 本に 根をはって
あなたは あなたのことをする
まるで 胚芽の エンブリオ
寝室の壁 ペイズリー
蹴りあげるのを 待っている
愛する 借家 眉をよせ
心 やさしい 花と 種
垣根は ふわ ふわ 種 月光
ぶく ぶく ごろ ごろ ガ

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グリュック 詩抄 (5) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (5) Translated by Toshiya Kawamitsu

  迷子

動くものなど なにもない
檻のなかでは 花 こわれ
換気扇の花 力なく
ゆら ゆら ゆれて 茎 落ちる
したたり落ちる 細い腕
はえとり紙かと つるされて
ねじれる ひとりの 少年に
そのあと ふさいだ 出入口
ふといくさびに ピンでとめ
炭酸水に 舌を入れ
別の部屋には 父がいて
つかれて ふら ふら 松葉杖
おこられるのを 待っている
感謝 しぼって レモネード
うそ つく コップ

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グリュック 詩抄 (4) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (4) Translated by Toshiya Kawamitsu

  四月のいとこ

今日の天気は 深い 青
でこぼこ ルバーブ 中庭で
しゃがんでいます くつ くつ と
いとこは 笑う 赤ちゃんと
頭を たたいて とん とん と
窓から 見えます きら きら と
かがやく シリカ バジリコを
あたためている 黄土色
土の金襴緞子かと
車庫の 四角の 影のなか
臆病者の エメラルド
根茎植物 ゆら ゆら と
のびて ちぢんで 赤ちゃんと
のぞきこむ ひざ 風 送

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グリュック 詩抄 (3) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (3) Translated by Toshiya Kawamitsu

  電話しよう

あなたは わたしを ほうり投げ
わたしのなかに つかまえた
魚のように 飛び はねて
シロップ しずんで 鼓動 聞き
すべて すべて は 押し流し
拒絶したこと 押し流し
わたしのなかで 生きている
あなたは わたしのなかにいる
悪意に みちて ここにいる
愛してほしくなかったと
あなたは 言った だから いま

HESITATE TO CALL
Translated by To

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グリュック 詩抄 (2) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (2) Translated by Toshiya Kawamitsu

  感謝祭

南の国の少年が
すべての部屋で 円を 描く
わたしの妹 歌ってる
フェリーニ 歌う り り り りん
電話のまねして わたしたち
捨てたブーツに 歩かせて
すわって 飲んで 部屋の外
二九度で 迷い猫
道草 食べて ごみ 探す
バケツを 爪で ひっかいて
ここでは ほかに 音もなく
ストーブ 刃をつけ 広大な
慈愛の食事 用意して
母は 両手に 串を持ち
かくした皮膚が 見えていた

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グリュック 詩抄 (1) Translated by Toshiya Kawamitsu

グリュック 詩抄 (1) Translated by Toshiya Kawamitsu

  たまご

 1

車のなかで すべて 行く
車のなかで 眠ったら
砂丘の墓地に 天使 立ち
行ってしまった すべて 行く
肉は くさって 豆 笑う
さやに おさまり くつ くつ と
知らずに ぬすんだ わたしたち
エドガータウンで聞いたこと
ころがり 落ちた キリストが
生まれたときの 飼葉桶
下着を 洗う 大西洋
太陽の海 ふれた とき
光 ただしく 水 むさぼる
エドガータウンを すぎた 

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ナボコフ 詩抄 (29) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (29) Translated by Toshiya Kawamitsu

  楽園

遠い 死を 越え 魂は
あなたは きっと こんなふう
田舎の学者 楽園で
くるしみ 笑い 消えていく
林のなかには 天使 いて
野生の天使 まどろんで
くじゃくによく似た 生物で
ふしぎに思って ふれてみる
あなたのみどりの雨傘で
観察結果を 残したい
紙に書こうとしたけれど
おしえてもらったことがない
どんなことばが必要か
ここには 読者も 見あたらず
ことばにならないかなしみを

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グラス 詩抄 (5) Translated by Toshiya Kawamitsu

グラス 詩抄 (5) Translated by Toshiya Kawamitsu

  ひとりごと

たった ひとりで ことば 噛み
溶けてしまって 彼に 聞く
わたしは 彼に 聞かれてる
彼は わたしで 説得で
意見で うそで 泣く 笑う

雰囲気よくて 機嫌 よく
だけど ふたりは いつわりで
顔を 見あわせ 吹き出して
なんにもいらない 塩 少々

だまった 彼に 話しかけ
死んだ友達 知っていて
多すぎる 敵 知っていて
指おり 数える いま 彼も

すべての女を 数えあ

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詩 362

詩 362

  現象

坂は なだらか 右に折れ
無垢な 稜線 右に 折れ
全身 ミシン 重傷で
カクレクマノミ 探す 日々

光は 現象 トンネルへ
耳をかたむけ 鼻 食われ
ゼンマイ ゆるむ 三輪車
夏草 かおる 午後の道

黒の くつした 手から 手へ
ことば 少なく セミ 多く
溶けてしまえば スカート ぬげて

コンパス 並木 ランドセル
ワインに 嘲笑 投げこんで
うつくしい 嘘 支配する 夢

ベケット 詩抄 (9) Translated by Toshiya Kawamitsu

ベケット 詩抄 (9) Translated by Toshiya Kawamitsu

  なにかが ここに

なにかが ここに
どこにある
ここではなくて
どこにもなくて
外にある
ほかには 頭
どこかの 外に ある なにか


瞬間 一瞬 音は みじかくて
行ってしまった 全世界
赤裸々 ではない まだ ここで
目は
見ひらいて
大きく 強く
終わりまで
なんにもなくて
また とじる

おかしな 時間
外にいる
ここではなかった どこか 外
あなたは まるで
まるで
なにかを

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ベケット 詩抄 (8) Translated by Toshiya Kawamitsu

ベケット 詩抄 (8) Translated by Toshiya Kawamitsu

  雨

わたしの 愛など 死ねばいい
雨よ ふれ ふれ 墓地に ふれ
わたしが 歩く 帰り道
わたしを 愛した あなたを 思う

(Untitled)
Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (28) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (28) Translated by Toshiya Kawamitsu

  夢

めざまし時計をセットして
寝室 しずむ 闇のなか
風船 みたいに 浮かばせて
眠りのなかに 落ちていく
まどろみに住む 無意識に
わたしは そっと 身をあずけ
まるいテーブル おぼろげに
すわることなどできなくて
誰かを ずっと 待っている
客のひとりは ポケットに
懐中電灯 しのばせて
ピストルみたいに さっと ぬき
ドアを 照らした 瞬間に
背の高さなら 彫刻で
かがやく 光の顔を 

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グラス 詩抄 (4) Translated by Toshiya Kawamitsu

グラス 詩抄 (4) Translated by Toshiya Kawamitsu

  郵便カタツムリ

長い手紙を 友人へ
死んでしまった 友人へ
かなしく みじかいなら 愛へ
すぐに 消え去る あの 愛へ
ときどき とても あいまいで
時間を つらぬくほど 鋭利
時間がとまったかのように

あせりと 倦怠 やせていく
いま に ついても 話そうか
ことばに 酔った 目撃者
株式市場の顧客さま
なにが 子供になるだろう
何人 孫が いるだろう
どんなことばが 生きている
どんな

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ナボコフ 詩抄 (27) Translated by Toshiya Kawamitsu

ナボコフ 詩抄 (27) Translated by Toshiya Kawamitsu

  山が好き

樅の木 黒い外套に
だから わたしは 山が好き
わたしの ふるさと 暗い山
不気味な夜に 住んでいた
身をよせ こまやか 針の山
泥炭ベリーは 青々と
家路 かざって どこまでも
わたしは きっと 忘れない
暗く しめった 細い道
足あと うねる 坂のほう
子供のころから しまってた
しるし はっきり うつしだし
北東のほう 荒地のほう
三日月はしご 天国へ
つづくのならば 行きま

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