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#5 【NYからレポート】 もうそろそろ、気候危機片付けよ? #GettingItDone

パリはファッション・ウィークが始まる一方で、先週のニューヨークは、2022年度の「クライメート・ウィーク(気候週間)」でした。

   クライメート・ウィーク毎年ニューヨークで開催されている、ビジネス・政府・市民の国際的なリーダーが集まる気候変動対策サミット。今年で14年目です。

   期間中は複数の団体・組織がカンファレンスやトークセッションを提供していて、私はほとんどを仕事の合間にバーチャルで、そして1日だけイベントに足を運びました。そこで部分的な参加でしたが、よい学びを得たので備忘録として書き残すことにしました。

責任追求がムードの今、できる行動とは

今年の公式タグラインは、#GettingItDone。トーンを含んで訳すと、「ごちゃごちゃ言わず、さっさと行動を起こしましょう」といった感じです。トークを聞いていると「Deceicive decade(今は「決め」の時代だ)」「Make progress over politics(策略はいいから漸進を) 」「Intersectional(*このワードについては後で説明します)」などの言葉が繰り返されていて、具体行動を示したり、どんどん非難をしていく論調が全体的に多い印象でした期間中に気になった動向について、以下まとめます。

ついにクリエイティブ業界へ非難が

クライメート・ウィークは国連事務総会のタイミングと合わせて実施されるのですが、今回の会期中では、国連事務総長がスピーチで初めて「化石燃料産業の支援者」としてPR及び広告業界を公に非難しました。

   クリエイティブ業界と化石燃料産業の関係を断つことを目指している団体『Clean Creatives』は、すかさずこのスピーチの後にF-List」という化石燃料産業に加担したクリエイティブ・エージェンシーのリストを公開。加えてこれらのエージェンシーのどのようなポイントが非難されるべきかを示したレポートも出しています。

世界中の239社のクリエイティブ・エージェンシーを特定


   クリエイティブ業界側でも、協業NGな業界(例えば政治やタバコ、ポルノ、ギャンブル産業など)を設定されている会社もたくさんあるかと思います。それらと同様に、化石燃料に関わるクライアント及びプロジェクトは非倫理的であるとの意識が、これから一般化しそうです。

なぜ環境問題はフェミニズムで、人種問題なのか

日本では環境問題を語る際に、企業文脈での「サステナ」「SDGs」という言葉が頻出していますが、こちらでは社会文脈での「Climate Justice(気候の公平性)」がキーワードとして出てくるようになりました。環境問題を包括的に解決するために、政治分野、社会システムの事情も巻き込んで議論する、という流れです。

   気候危機は人類すべてが取り組むべき共通課題。だけど複数の別領域が交差したときに、解決を目指すには人権問題を改善していかないといけないことに気づきます。特権もしくは差別のシステムを理解し、複合的に物事を解決する姿勢は「Intersectionality(交差性)」というワードでフェミニズム運動やブラック・ライブズ・マター運動の際に多用されてきました。そしてこの考えが、環境問題を扱う上でも重要視され始めました。 *Intersectionalityについての説明として、VOGUEの記事がわかりやすいので貼っておきます。

   例えば、先住民というアイデンティティに属する人たちは、どのような植物が山に増えれば自然火災が起きにくいか知っている。だけど社会的に蔑ろにされていて、その専門性が今まで生かされてこなかった。または、気候変動の分野でボランティアやプロボノに手挙げをするのは有色人種の女性が多いが、そのセグメントは実害を最も大きく被る貧困に直面している人たちと一致する、などがIntersectionalityと環境問題のつながりを示すケースです。

Climate Weekの注目イベントの一つであるNEST SUMMITのフィナーレを飾った女性リーダーたち

   会期中に注目を集めた「クライメート・ジャスティスの実現と女性リーダーたち」というパネルディスカッションでは、弱者にしわ寄せがくる現状を回避するために、どのような立場の人を議論に加えるべきか、また自身らがどのような勇気を持って今のポジションにいるかを、元人権弁護士でThe Climate Museumのディレクター、テックコミュニティのファウンダー、ゼネラル・モーターズのサステナビリティ部門ディレクター、ニューヨーク市長室気候・環境正義担当事務局長らが、民間・企業・行政の観点から議論していました。

よりシンプルなナラティブが必要

ここまで私も書いていて私も感じることですが、環境問題にまつわるトピックはなんか複雑だし、難しいし、怖いし、とても手には負えないようなおおごとに感じてしまう。その結果みんな疲れちゃったり、もしくは自分が正しいかどうか自信が持てずに萎縮してしまう。

   スピードを要する課題なだけに、そんなイメージの変革が必要であるという声も生まれ始めました。「学術的でエリート思考っぽい」「専門性がないと語ってはいけないもの」というイメージを払拭し、誰でも語っていい、実践可能なものへと変えていく動きです。

前述のIntersectionalityをわかりやすく語った、エコ・インフルエンサーLeah Thomasの著書。「人を大事にすること」がグリーン運動の根幹であると、優しい言葉で語られている

   とあるパネルで "It's Progress Not Politics(策略ではなく、どれだけ前進しているかにフォーカスするべきでだ)"とスピーチしたのは、Ecologi北米の代表であるDerek Mauk氏。Ecologiは「朝のコーヒーで得たお金を気候変動対策に回したらどうだろう?」という思いつきから、5ドルなど少額からでもエコ事業を支援できたり、植林に貢献できるサービスを展開しています。

   実はこれだけ環境事業やESG投資が騒がれているように感じても、環境系の慈善事業への寄付は全体の2%にも満たないそう。そう考えると「小さくてもできることをやる」という、シンプルだけれども行動につなげる仕組みの拡散がインパクトを生むという実態も否めません。今は批判カルチャーの時代とも言われていますが、社会が新たな試みや挑戦している人を寛容に捉えれるよう、プロダクトやコミュニケーションを設計することが、私たちの目下の課題です

   個人的な肌感ですが、「環境に良い選択肢である」という事実が、まだまだ何かを「我慢する」「削る」というナラティブを生んでいる気がします。クリーンビジネスにはスケーラビリティのあるものも多く、「儲かる」「ワクワクする」ものとしてパッケージされても良いと思うのですが(例えばクリプトだって、ブロックチェーンをクリーンにする強い手段なはず!)、そこが私たちコミュニケーションやブランディングを担う者の力がまだまだ及んでいないな、と思うエリアです。

まとめ: 地球市民として、クリエイターとして

ということで、本記事の要点まとめです:

・これからPR・広告業界もアクションを起こさざるを得なくなる
・社会全体を捉えたジェンダーや人種の問題改善が、根本的な環境課題解決には必要
・環境問題は複雑化/学術化しており、より多くな人を巻き込むにはシンプルなコミュニケーションが求められている

   上だけ見てみても、化石燃料業界を避ける/それを宣言する/さまざまな産業の専門家を巻き込む/あらゆる表現には人種やジェンダーなどのレプレゼンテーションを鑑みる/シンプルなコミュニケーションで課題やできることを伝える、などSDGsに関連したプロジェクトでもそうでなくても、できることはたくさんありそうです。

   私たちはみな気候科学の専門家にはなれませんが、どんな職業・ポジションであれ、日々アップデートされる概念を学び、環境問題の全体像を把握することが求められているということを感じた一週間でした。

   ニューヨークは月曜日。みなさん良い一週間を!

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