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【IAUD国際デザイン賞金賞】福祉を支えるUIデザイン「訪問調査システムALWAYS V」

みなさん、こんにちは。東芝UIデザインチームの近藤です。
今回は、IAUD国際デザイン賞2023医療・福祉部門で金賞を受賞した「要介護認定訪問調査システム ALWAYS V」のデザイン活動を紹介します。

日本における超高齢化社会にともなう、要介護認定調査の課題解決に取り組んだ活動です。


要介護認定に必要な「訪問調査」の課題

日本では、高齢者や介護を必要とする人が施設利用や介護サービス等を受ける費用を国が支援する介護保険制度があります。
この制度を受けるには「要介護認定」を受ける必要があり、「訪問調査」によって”どの位の支援を必要としているか(要介護度)”が判定されます。

「訪問調査」は、自治体の調査員が対象者と対面し心身状態・生活環境を把握します。平等かつ公平なサービスの提供を支える大切な業務ですが、様々な課題を抱えています。


■「訪問調査」業務の課題

  • 74個の調査項目について、短時間で的確に記録をとる必要がある。

  • 訪問先では”紙”でメモをとり、後でパソコンに入力するため、手間が掛かり入力ミスにもつながる。

  • 現在のやり方は負担が大きく、高齢化による認定増加に対応することが困難。


そこで私達は、調査員の作業負荷を軽減し対象者と向き合う時間を創出すべく、「訪問調査」をタブレットPC1台で効率的に行えるシステムを考えました。

ヒアリングで分かった調査員の細やかなノウハウや配慮


デザイン検討にあたり、最初に行ったのが業務の実状理解です。
調査する側と調査される側の双方のUXを分析し課題を理解するため、実際に「訪問調査」を行っている自治体職員さんと現役調査員さん、そして、認定対象者の家族へヒアリングを行いました。
当事者に話を聞くことで、業務の流れだけでなく、調査員の“細かなノウハウ”や“繊細な配慮”を知ることができました。


■ヒアリングで得た情報の例

  •  対象者を緊張させないために、自然な会話の流れに沿って聞き出すので、質問の順番はその場の状況に応じて入れ替えている。

  •  2度目の調査(要介護認定の更新)では、前回調査員から対象者の情報を引継ぎ、事前準備をしたり、対象者に合った調査員が担当したりする。

  •  対象者本人の認知機能等を考慮して、家族やケアマネージャーにも話を聞き、メモを度々訂正しながら日常の様子を正確に調査している。


対象者やその家族は、様々な思いをもって訪問調査を受けます。
自身のことを説明するのは難しかったり、不安を感じたりするかもしれません。調査員は、対象者やその家族に親身に向き合いながら、冷静かつ効率的に業務を遂行すべく、ひとりひとりが工夫しながら技術を高めていることが良く分かりました。
ただデジタル化するだけでなく、そういった調査員のノウハウを活かせるようなUIデザインを提供したいと思いました。

調査員のカスタマージャーニーマップ

社会課題を俯瞰しながらコンセプトを設定

ヒアリングで得た課題・気付きと、自治体DXや高齢化といった社会課題を突き合わせ、それらの重要度と優先度を考慮しながら、現場の業務改善が社会課題の解決にもつながるシステムのあるべき姿を探り、コンセプトを立てました。

コンセプトツリー

調査する人・される人がそれぞれに優しさを感じるUI/UXを目指して

完成したシステムの特徴はこちらです。

■特徴1:訪問調査に関する情報をタブレットPC1台に集約できる

調査前から調査後までの業務を1つのアプリケーションに集約しました。紙を扱う手間や、資料を持ち運ぶ負荷を軽減し、業務を効率化します。また、これまでは破棄されていた調査中のメモがデータとして残るので、振り返りや人材育成に活用することができます。

■特徴2:様々な調査方法や作業工程に合わせた使い方ができる

紙ならではの直感性や自由度と、デジタルならではの入力しやすさと情報の参照性を両立したUIとしました。手書き入力とボタン入力の両方が使えるので、対話に集中しながら、その場に合った方法を選んで記録できます。また、調査項目の行き来がボタンやスクロール操作で簡単に行えるので会話の流れを邪魔しません。入力エラーの確認や、マニュアルの参照もワンタッチで行えます。

■特徴3:経験値の感覚差による評価のばらつきを無くし、公平性・正確さを確保できる

関節の動かせる範囲を測る画像や、対象者との対話を助けるイラスト画像を備え、多様な対象者とのコミュニケーションを補助し、正確な調査に寄与します。また、文章を作成する際は、事前に用意した定型文を使って入力できるので、表現のばらつきや、曖昧な表現を防止します。


UIデザインから社会全体のうれしさを目指す

このプロジェクトは、調査員の課題解決だけでなく、社会システム全体の好循環を生み出すことを考えて検討しました。
このシステムが広まることで、介護保険サービス全体の品質向上や公平性をもたらし、安心して暮らし続けられる社会の実現につながる。そういう「うれしさの循環」を目指しました。

私たちが目指した「うれしさの循環」

さいごに

このように私たちは、広い視野で様々な人の気持ちを想像し、社会全体に“うれしさ”がいきわたることを願ってUIデザインをしています。そうした活動が、今回のIAUD国際デザイン賞金賞受賞につながったのだと思います。
この“うれしさ”がいつまでも続くよう、そしてさらに高まるように、実際にシステムを利用された方々から操作感や問題点のフィードバックをいただき、改善に取り組んでいきたいと思います。


関連情報

東芝UIデザインチーム公式webサイト