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現場観察は主観と客観を交互に使い本質に迫る活動

事業戦略大学(教員1名・生徒無限大)顧客経験価値のための商品企画開発の実践コース第18回

■現場観察の難しさと注意点


 経験上、現場観察ほど難しいものは無いと思うことがよくあります。大学で商品企画の講座を10年以上やっておりますが、学生さんに

「現場観察、現場調査など、現場の立場で言えば、邪魔だし、調査されるのは基本的に迷惑であることをまず認識しないといけませんよ」

と話しています。
 自分の立場で考えるとよくわかりますが、現場で働く人は「現場観察」「現場調査」などに対して以下の様に考えるのが一般的だと考えてください。


・自分に不利になることは言わない
・信用していない人しか現場に入れない
・上から目線で見て、評論家的なことを言う人には本当のことを教えない
・仕事の効率が低下したり、メンバーのモチベーションが下がるようなことを嫌う
・何も勉強もしないで、初歩的なことから聴いてくる人は相手にしたくない

現場観察する際には、自分たちが現場の方々に貢献できることを理解してもらわなければ、現場に入ることもできないし、入れたとしても深い調査は出来ません。そこで以下の様なことを心がけていただくと良いと思います。


・現場に何かメリットを与えることを企画し、十分理解していただく
・事前に現場のことを学習し、また現場の立場を考えたコミュニケーションに細心の注意を払う。
・極力仕事の邪魔にならないように現場観察の時間、タイミングを選ぶ
・現場観察させていただいたお礼として、調査結果や提案を行う


 現場観察をさせていただくには、現場に貢献できる仮説を企画することが前提なのです。

■顧客経験価値創造のための現場観察は「文脈」で観察する


 現場では何を観察したり、聴いてくるのか、それがどんな意味があり、顧客経験価値を創り出すこととどう関係しているのかが意識されていなければ、現場観察自体が無駄になります。


 顧客経験価値創造のための現場観察は「文脈」で観察しなければなりません。

現場の文脈とは以下のようなものです。
 ・現場ででしか知り得ない社会、組織における現場のおかれた背景の理解
 ・現場に行かないと見ることができない場所の周辺環境
・現場に行かないと見れない人の行動や表情から読み取れる感覚、感情、思考、行動
・現場に行かないと見れない設備やモノの状況
・現場に行かないと教えてもらえない本音の話、情報
・現場に行かないともらえないデータ、資料


こういった一連のこと、つまりものごとのつながりである文脈をよみとってくることが大事なのです。その文脈の本質が解れば、その文脈のどこの部分をどう変えれば、より良くなるか、たのしくなるかが想像できまし、より高い目的から文脈を大きく変える発想も出来るかも知れません。現場の一部分だけを見て、そこだけを変えたところで、イノベーションは起こせないし、新規事業は生まれません。

■主観と客観を交互に使い、本質に迫る


 顧客経験価値想像のための現場観察は、単に客観的に現場を分析するのではありません。主観と客観を交互に働かせながら現場の本質に入っていくことが大事です。

まず始めに現場の「文脈を変える仮説」とイメージします。これは主観と客観の入り交じった状態です。なぜなら仮説とは現場に対するある程度の知識や分析(客観)とそこから現場をなんとか変えたいと言う「思い」「あるべき姿」(主観)であるからです。

次に、現場を観察します。その際分析を意識せず感覚、感情で現場を捉えます。論理力の高い人は気を付けなければなりません。ついつい分析してしまうからです。まずは主観で捉えることが大事です。ですから自分の感覚、感情のセンサーを鋭くしておかないといけません。心身の状態をよい状態に維持していることも大事です。素直にどう感じるかを捉えられるかどうかがキーとなります。

そしてその感覚、感情で認識したものを事実やデータで検証します。これは客観です。しかし大事なのは主観で感じたことを検証するための客観であることです。ここで観察と分析を繰り返して、次第に現場の問題や課題、未来のあるべき姿の本質が見つけだすようにします。

■「これだっ」と言うものが出ない場合は観察の範囲を拡大し、未来軸で変化を創造してみる


 このように主観と客観を繰り返して新たな顧客経験価値の発見、想像に挑戦しますが、「これだっ」と言うものが出ない場合は、観察の範囲を思い切って広げてみたり、絞ってみたりしてください。特に広げてみることをお勧めします。例えば「自動車」を題材に考えるならば、「移動」という範囲だけでなく「暮らし」「仕事」「空間」「クリエーション」といった広い範囲で現場観察すると、新しい視点が見えてきます。
 さらにインパクトを高くするためには、確実に起こる未来の変化を加えて発想することが効果的です。確実に起こる未来の変化とは、統計上、技術開発の進化上、ほぼ確実に起こると予想される未来です。


このように顧客経験価値を創造する際には、範囲と未来軸をどう設定するかが勝負どころです。範囲の捉え方を変えそこでのいま起こっている人間の感覚、感情を、未来軸で変えていくことで全く新しい顧客経験価値が創造出来ます。

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