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戦略として顧客経験価値をどのように企画するべきか?

事業戦略大学(教員1名・生徒無限大)顧客経験価値のための商品企画開発の実践コース第26回


 戦略として顧客経験価値をどのように企画するべきか?これまでカスタマーエクスペリエンスマップなどの分析を通じて顧客経験価値の全体像や、手がかりとしての重要なコンタクトポイントなどは把握しましたが、戦略としてあるべき顧客経験価値を企画するには、その本質を考え、絞り込みや重点化を検討する必要があります。


 顧客経験価値を企画するためには、3つのことを前提にしなければなりません。それはカスタマーエクスペリエンスマップ、商品、ビジネスモデルです。


カスタマーエクスペリエンスマップでは、縦文脈である感覚、感情、思考、行動、共感の5つの経験が、横文脈として使用前、使用中、使用後などの時間の推移で流れていきます。その経験価値を理想の形で生成するための効果的な刺激剤が商品であり、パートナー企業を含めた顧客への情報提供やコミュニケーションです。顧客経験価値の企画とは、カスタマーエクスペリエンスマップから縦と横の重要な文脈と、商品とビジネスモデルが交差する部分を抽出し表現することになります。


 戦略としての顧客経験価値の企画は、①顧客経験価値コンセプト②顧客経験価値要素③顧客経験価値ストーリーの3つで表現します。


① 顧客経験価値コンセプト


 顧客経験価値コンセプトとは、戦略としての顧客経験価値を特徴づける絞り込んだ訴求ポイントです。商品コンセプトの中の基本コンセプトと重なってくるかも知れません。顧客経験価値コンセプトは、カスタマーエクスペリエンスマップの中の、縦文脈である感覚、感情、思考、行動、共感の5つの経験が、横文脈として使用前、使用中、使用後などの時間の推移で流れていく中で、商品やビジネスモデルでもっとも効果的な刺激が発生する部分です。その部分をうまく切り出してわかりやすい表現をします。


 例えば、ヤマハ発動機のロングセラーの電動自転車“PAS”は、開発者が電動アシスト自転車実験で試乗していた際、風に押されるような感覚で走ったことを感じ、開発当初「風のように」という顧客経験価値コンセプトを設定しました。ドイツの高級車BMWは「駆け抜ける歓び」を顧客経験価値コンセプトにしています。ヤマハ発動機もBMWも感覚、感情にフォーカスしています。JR東海は、「そうだ 京都、行こう。」という有名なコピーを創り出し新幹線での京都観光を効果的に認知させることに成功しましたが、「そうだ 京都、行こう。」は、思考と行動に重点が置かれ、その余韻で感覚、感情を呼び起こす優れた経験価値コンセプトだと思います。


 このように顧客経験価値コンセプトとは、顧客経験価値の縦文脈と横文脈と、商品、ビジネスモデルが交差する部分をうまく切り出して表現するものだと考えると、直感に頼るのではなく、分析的、論理的に明確化出来ます。キャッチコピーにするための表現は、その上でコピーライターに任せ選択すればよいと思います。


② 顧客経験価値要素


顧客経験価値コンセプトだけでは、戦略としての経験価値企画が伝わらない場合が考えられるので、具体的に顧客経験価値の要素を表現しなければなりません。


表現の方法は、カスタマーエクスペリエンスマップ中で、戦略的に重要性の高い、つまり顧客を獲得、維持し、競合と決定的な差別化をする経験価値ポイントや文脈をいくつか見つけ、そこと商品、サービスとの関係を説明します。先ほどのヤマハ発動機PASの例でいれば、「蓄電池の着脱、充電が簡単でスマート」「ある程度の坂道でもスムーズな乗り心地」といった顧客経験価値コンセプトを説明する要因として示されます。


 顧客経験価値要素は、たくさんあると焦点がぼやけわかりにくくなりますので、多くとも7つ、出来れば5つ以内におさえた方が、戦略としてのメッセージ性は上がります。

③ 顧客経験価値ストーリー


顧客経験価値ストーリーとは、顧客経験価値企画の表現手段の一つで、ペルソナの典型的なカスタマーエクスペリエンスをわかりやすくストーリー化したものです。

なぜ顧客経験価値をストーリーにするのでしょうか。

それは人間が、ストーリー化されたもの、つまり感覚、感情、思考、行動、共感といった顧客経験価値の5つの要素とそれを時間軸で展開したものを理解し、信用する本能を持っているからだと思います。

感覚、感情だけで受け止めたとしてもそれは本物でないかも知れません。理論で理解し、行動面も確認して人は適切な判断が出来ます。さらに他の信頼できる人も同じ考えだと自信を深めます。つまりそれは共感です。長い人類の歴史の中で、人間はそうやってものごとを慎重に判断してきたのだと思います。そのようなことから人はストーリーを重視します。


顧客経験価値を表現するにはこのストーリーが重要となります。ではストーリーはどのように表現するのでしょうか。様々な方法がありますが、よく活用するのは、


・イラストで紙芝居を作成して見せる方法
・小説風の文章で表現する方法
・寸劇で表現する方法
・動画を作成して音と画像で表現する方法
・静止画に音楽やナレーションを付けて表現する方法

などがあります。ストーリー表現をする課程を通じてわかりやすいストーリーになっているかどうかを確認、修正することもできますし、企画の魅力アップするアイデアも出てくる可能性もあります。


ストーリーは、感覚、感情的なところから入るパターンもあれば、思考(ロジック)や行動から入るパターンもあります。パーソナルトレーナージムのライザップは、多くの人がよく知る芸能人をペルソナにて、ビフォアー、アフターで減量を視覚(感覚)と、達成感(感情)に訴え、顧客を引きつけようとしています。数秒間のCMでそれをうまく表現して、減量で悩みを抱えている人を引きつけています。これもストーリーです。また河合塾では2011年に「習慣になった努力を、実力と呼ぶ。」というポスターをつくりましたが、これは思考→行動から入っているストーリーだと思います。企画する商品、ビジネスモデルが、感覚、感情から入るのがよいのか、思考や行動か、または共感からなのかを実際ストーリーを作成してみて確認することが必要です。

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