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ミンティアで、洗う。(僕とジャニーズ性加害問題)

「利害関係のない人付き合い」が苦手だ。

なのに、仕事関係の男に誘われた。

「鳥山さん、飲みにいきましょう。」

と突然ラインがきたところまでは
よくある社交辞令だと思い、
念のため合間を空けてから

「ぜひ〜」

なんてリプライしたが、

「今からどうですか?今◯◯の件で鳥山さんちの近くにいるんですよ」

と、30秒で返ってきてしまった。

スマホと反対の手で食べていたサラダチキン(スモーク)を半分齧ったところだったが、
僕はそれを食べるのをやめ、机に置いた。

時計を見ると19時20分だった。

今日に限ってすぐに行けてしまうほど仕事は片付いていた。
おおよそ10分後にはいけてしまう。
間が良すぎた。

「20時でもいいですか?」

少し考えて、僕はそれだけを返した。
本当は乗り気ではなかったけれど仕事関係の飲みの誘いにはなるべく乗るようにしている。
どうせ家に帰っても1人でyoutubeでも見ながらUberEatsで定番のドネルケバブを食べるだけだ。

ただし、僕は知っていた。
僕はこの男がゲイであり、
僕に対して仕事関係者以上の感覚の踏み込みがあって、
きっとそのままあわよくば2件目はしごをしたい、さらにそれ以上のこと、さらにさらにその先のことを考えているのを、知っていたのだ。

それは断定できるものではなく、あくまで推測でしかないのだが、
これまでの僕の経験値からの推測であり、その"勘"は九割、当たるのだ。

また通知が来た。
今度は7秒後だ。

「もちろんです。嬉しいです。
明日何時からですか?」

そっちの定石で、きたか。

「明日は夕方からですよ。」

と僕が正直に返すと、

「了解です。では20時に西口らへんで。店予約しておきます。またURL送ります!」

その男によく似た不細工な熊のスタンプと共に返ってきた。




、、、なぜこの男は僕に明日の時間を聞いたのか?
20時からの飲み会で、
通常の飲み会だとして長くて3時間半、4時間だとしても、
お前は十分終電で帰れるだろう?

僕はサラダチキン(スモーク)の残りを口に頬張り、氷のほぼ溶けたアイスコーヒーの残りで流し込み、
デスクの上にあったピーチ味のミンティアを4粒口に投げ込んだ。

いつもは、1粒なのに。

すぐに行けるのにわざわざ30分後の集合にした理由を大発表すれば、
僕のサラダチキン(スモーク)の、
(スモーク)の部分を僕の呼気から感じて欲しくないという僕のプライド、が、その理由なのだ。

ただの仕事相手だったら1粒のミンティアだったが、
4粒のプライドは、もし彼が男として僕を見ているのであれば、の話だ。

考えすぎですよ、と言われたって、
何が起こるかわからないのが、人生。

彼は優秀な音楽業界のビジネスマンで、
数回プロデュースチームで一緒になり、
長年フリーランスの僕にいつもナイスタイミングで助太刀をくれるような存在だった。

それでも会ったことは数回しかないが、
彼とは仕事の話のみで十分成り立っていたし、
プライベート会うなんて想像もしていなかった。

彼の見た目は刈り上げ黒縁メガネでオシャレにしてる"風"だが、正直、僕の目には華奢になった喪黒福造にしか見えないので、好みではない。
僕が好きなのは菅田将暉一択だ。
仕事で会ってさえいなければ、こいつのためにミンティア1粒噛むことすら惜しいような感じで、
僕の世界に存在すらしなかっただろう。


けれど、彼は30分後、
仕事関係の人、という免罪符のような
パスポートを持って僕の世界に飛んでこようとしている。

僕はミンティア4粒の万全の"口腔"にて、
その"航空"を受け入れようとしている。(うまい!)



「人付き合い」が苦手だ。
いや正確には、
「利害関係のない人付き合い」が苦手だ。


今だって、自分の世界を侵されたくはないくせに、
自分の世界は見て欲しい、と思っているからこうして、文章を書いている。

それも、わざわざ世間的にセンシティブな話題を取り上げて。

そこにはきっと何かメリットを享受したいという下心がある。

僕がそう思うことは大して特別なのではなく、きっと誰しもがそういうエゴイスティックな容器の中で、
粘度の高い期限切れの甘〜いハチミツの中で、
溺れているようなものではないだろうか。
それが実はただのゴキブリホイホイだった、というオチにも期待して。



もう一度言おう。

「利害関係のない人付き合い」

が苦手なのだ。

やりたい仕事やそこそこの金が発生するのであれば、
それは利害関係であり、
ただの「人付き合い」ではないから、飲み込めることもある。

ジャニー喜多川氏の性加害問題が世間で今更話題になっているけれど、
僕がもう少し可愛く生まれてジャニー氏のお眼鏡にかなっていて、
さらに噂の合宿所に行く機会を不幸にも与えられていたのならば、
初めての陰部に対する粘度感はジャニー氏に捧げたのだろうか。

きっと、捧げたのだろう、と思う。
「利害関係のない人付き合い」ではないからだ。
グルーミングと呼ばれる歪んだ飼育環境の中で
カミングアウトもせず、ストレスと共に生き抜く覚悟を決めることが美学だと思えるくらいの
歪んだ幼少期を僕も過ごしていた。

そして、三十路を超えてもまだそれは継続している。要は、僕は生けとし生けるアダルトチルドレンのひとりなのだ。

ジャニー喜多川はれっきとした犯罪者だ。
タレントの少年たちはれっきとした被害者だ。
じゃあ僕は?

僕は今立派な成人として、
ビジネスマンとして、
僕は自分の意思で、今日、ここにいる。
被害も糸瓜もない。

先に進むためにこんなにも傷を背負ったのだから、
誰かがこれを「努力の1つ」だと呼んでくれるのならば
きっと救われる人も多いのではないか。
僕は救われる。
けれど世の中そんなに、甘くない。

ジャニー喜多川による被害者のタレントたちだけは
どうかどんなに裏テーマを抱いて被害を受けていたとしても
僕のような不毛な思いはしないでもらいたいと願っている。

あなたたちは今、
たくさんの人を幸せにしているよ。



翌朝、8時のアラームで目が覚めると、
喪黒福造が隣で寝ていた。

なかなか起きない彼の口は臭かったので、
いびきのうるせぇ口の中に
ミンティアを4粒、指ごとぶっ込んで、
起こしてあげた。

「これでチャラですね」

僕が言うと

「何が?
あ、、時間、やべ」

と彼は言うとそのまま慌てて同じスーツに身を包み
2分後には足早に消え去った。

「利害関係のない人付き合い」であったことだけは確かなのは、
彼は僕にとって"有害"だったと言う事実のみ。
僕は、間違ってはいない。


僕があの頃、ジャニーズ事務所に入っていたら
(無理だけれど笑)
きっとこんなふわふわっとした傷を負いながらも、
僕はきっと成功できたのかもしれない、
はたまたカウアン岡本のようになったのかもしれない、なんて妄想をした。


昨夜のことを忘れるために、
残りのミンティアを全て口にいれようとしたら

ミンティアは、空になっていた。

彼から何かラインが来ていたが、
見ずに削除し、ブロックした。

そして僕史上最高のハイテンションでスマホを投げ出し、
いつもより長めに、歯を磨いて、

僕はもう一度、眠りについた。


鳥山真翔


《鳥山真翔公式HP》
http://www.toriyamamanato.com

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