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Netflix映画 ハート・ロッカー

 2004年バクダッド郊外。戦争映画だが、派手な銃撃シーンはない。テロリストが街中に仕掛けた爆弾を解除するのが、主人公達ブラボー中隊の任務だ。
 映像はかなり粒子が粗い。ドキュメンタリーふうのハンディカムと望遠レンズの画像が交互に流れる。パッと見、映像にさほどの力は感じられない。劇映画的な画力を感じない。クローズアップの画面が多いし、望遠レンズの映像もさほどかっこいい画だとは思えない。
 街の通りに、爆弾が仕掛けられている。その爆弾の解除に、防護服を着た兵士が1人向かっていく。
 望遠レンズの映像がパッパッと流れていく。街中だから、そこに住んでいる人もいるし、面白がって見に来る人もいるし、カメラで撮っている人もいる。ただ望遠レンズをその方向に向けただけの映像に見えるが、しかし不意に怖くなる。この何でもない住人の中に、テロリストが混じっているかも知れない。
 兵士達は緊張している。携帯電話を持っているやつは、爆弾を遠隔操作しているやつかも知れないし、ただ電話しているだけのやつかも知れない。一般住人なのかテロリストなのかわからない。この緊張感に、兵士達はかなり気が立っている。何気なく手を振っている男は、手を振っているだけなのか、仲間に合図を送っているのか……。
 ドキュメンタリー風の画面がパッパッパッと続き、ふっと怪しげな男が画面に映る。その瞬間、ドキュメンタリー風の画面から、劇映画的な画面に変わる。ライティングの雰囲気が変わるし、カメラにも作為が入ってくる。その瞬間、観ている側はゾッとする。緊張感のない映像だと思っていたものが、急にその世界観に取り込まれてしまったかのような気分にさせられてしまう。

 カメラが低質なのは、どうやら予算そのものが低かったから……が原因らしいが、しかし逆に力を発揮している。ドキュメンタリー風のぼやっとした撮り方が、どこに“敵”が潜んでいるかわからない恐さを演出している。

 物語の中盤、ハンヴィーでの移動中、敵からの攻撃を受ける。ここでも派手な銃撃シーンはない。こちらも敵も、ゴーグルと狙撃銃を持ち、えんえん膠着状態に入ってしまう。カメラは相変わらず低質なので、望遠レンズで撮った画像が波打ったようにぼやけている。
 そのぼやけた映像がきらっと光る。あっと思う間に、こちら側1人撃たれている。大きな音も使わない。でもハッとさせられる。うまい見せ方だ。
 この映画では“敵”の姿がほぼ描写されない。通行人すら、時々意味深に顔を隠す場面もある。ある程度は描写されるが、「パーソナリティ」が描写される場面は一切ない。これがどこの誰が敵なのかわからない状態をうまく作っている。
 映画の後半に入り、主人公ジェームズ軍曹が夜の街を歩く場面がある。道行く人のどれが普通の人で、どれがテロリストかわからない。疑心暗鬼になっていく。映画に絡みつく恐さは、どんどん大きくなっていく。そこから解放される瞬間はほとんどない。

 この映画は、バディものでもある。独断専行しがちな主人公ジェームズと、その後方支援に当たるサンボーン軍曹の物語だ。始めは対立するが、次第に打ち解け合い、協力して任務に当たろうとする。この部分は、わかりやすいバディムービーの形を取っている。
 低予算映画で派手なシーンもないし、映像はパッと見、画力を感じない。だが細かいところで「おっ」と惹き付ける画を出してくる。画質低めの映像は低予算だからだが、かえって緊張感を高める効果を発揮している。映画をずっと見ていると、色んなものを計算して作っているのだな……というところが見えてくる。
 第82回アカデミー賞作品賞・監督賞の他、6部門で受賞した映画。見るとなるほど、これは納得だ、と思わせられる素晴らしい映画だった。

4月18日

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