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Netflix映画 ヴィジット

 とある姉弟の物語だ。姉弟が祖父母のところへ1週間遊びに行くことになったのだが、母もずっと疎遠で、姉弟にとっても初めて会うことになる祖父母。一見すると、穏やかで優しい感じの祖父母だったが、夜になると奇妙な行動を見せ始めて……。

※ ちょいネタバレあり

 姉弟が祖父母と過ごす1週間を、ビデオで撮っている……という設定のPOV映画。
 『ヴィジット』は一応ホラーというカテゴリーではあるのだが(Netflixではなぜか「ホラーコメディーのカテゴリーに入っていたが?)、物語の前半、特にこれといった何かは起きない。姉弟の撮った何でもない、と思える映像が流れる。実はこの辺りが伏線として後々大きく効いてくるのだが、最初はちょっと退屈さを感じた(意味がわかれば「ああ、そうか!」と思うのだが)。
 ホラーはこの何十年かは、「カメラ技術」に依存したジャンルであるかのように感じていた。
 例えば、あるカットで主人公の後ろに幽霊が迫る……主人公が気配に気付いて振り返る。カメラどんでん。しかし、そこには幽霊はいない。が、視線を元に戻すと目の前に幽霊が……! みたいなの。
 ある種のカット割りの魔術だけど、使い古されて見飽きた手法だし、そうやって演出を作るほどに「オバケや幽霊は映画世界の産物」というふうになってしまう(モンスターはCG技術に依存した存在だし)。
 そこでPOVという手法で、ホラーをどのように演出するか。怪獣やゾンビはPOVで描きやすい存在だが、「ホラー的な空気」を含めて、どのように描き、演出するか……。まず、カット割りマジックで幽霊を表現できない。これが一種の禁じ手状態で、どのようにホラーを作っていくのか……。いかに奇怪なものを表現していくか。という視点で見ていくと『ヴィジット』はものすごくうまく作られている。
 設定の作り方がいい。母は両親と喧嘩して家出していて、ずっと会っていない。だから主人公姉弟も、祖父母の現在の顔を知らない。祖父母の家は、街からちょっと離れたところにある。かなり始めのほうに“異変”がじわじわと見えてくるのだが、祖父母は高齢のために「認知症なんでしょう」という説明を入れて、不気味な奇行に一応の意味づけをしてくれている。……ミステリー的な外堀をしっかり埋めてから、お話を始めている。
 前半の内容は正直、退屈だ。POV演出を使っているので、カット割りマジックを使ったホラー演出は使えない。姉弟が見ている風景がそのまま映画になっている構造なので、鑑賞者に向けた“おもてなし的なホラー演出”がない。これから幽霊が出ますよー的なシーンがない。こればっかりは物語的な都合だから仕方ないところだが。
 120分の映画なら30分くらいに、90分の映画なら20分くらいのタイミングで、何かしらが起きる。ホラー映画だと幽霊が出たり、殺人鬼が出たりして、最初の犠牲者が出るタイミングがこのあたりだ。『ヴィジット』ももちろん、20分くらいのタイミングでちょっとした異変が挿入されるが、これがどうにもインパクトに欠ける。なにしろ、夜中に徘徊しているお婆ちゃんだもの……。不気味といえば不気味だが。異変が起き始めているのだが、最初の切っ掛けがあまりにも緩やかで、ホラーとしてのインパクトが弱い。この辺りが前半が弱く感じるところだ。
(ホラー的な約束事は一応入っている。例えば「夜9時半以降は部屋から出ない」……といった約束をさせる場面。もちろん、この約束は破られる。約束事とそれを破る、という流れはホラーの定番だ)
 退屈な前半戦を抜けて後半に入ると、一気に面白くなる。前半に鏤められた何気ない台詞やシーンが、後半への伏線となって効果を持ってくる。あそこの台詞、ここのためのものだったのか、とピタリとはまっていく。この辺りは「映画的」というよりも、「物語的うまさ」あるいは「ミステリー的うまさ」のほう。シャマラン監督の脚本は、ハマッた時は本当に凄い。もちろん、POV的リアリティをちゃんと押さえた上での作劇だ。
 そういったミステリー的なうまさを入れながら、きちんと家族の物語。家族の愛と再生の物語として描かれている。エンターテインメントとして必要な要素が1時間半の中にきちんと詰め込まれている。そういえば1時間半程度の尺なんだよな、と思ったら、ああきちんと作られた映画だったんだな……と感心する。
 POV演出のホラーのある種のお手本的な映画。なかなか面白かった。

4月24日

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