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2021年秋期アニメ感想

キミとフィットボクシング

 『フィットボクシング』が発売されたのは2018年12月20日、その続編は2020年12月3日に発売。制作・販売はイマジニア。シリーズの世界累計出荷本数が間もなく200万本に達しようとするヒットゲームである。
 任天堂の『リングフィットアドベンチャー』というよく似たコンセプトのゲームが2019年10月18日に発売され、こちらは後発でありながら売上本数が世界で1200万本。「世界の任天堂」が発売する『リングフィットアドベンチャー』の日陰になりがちだが、『フィットボクシング』もロングセラーになっており、『リングフィットアドベンチャー』同様、「ダイエットや筋トレに高い効果有り」と評価されている。
(『フィットボクシング』の評判を聞いて、任天堂が『リングフィットアドベンチャー』を制作した……というわけではない。ゲームはそんな短期間で制作できないし、任天堂がそんな安易な理由で企画を通したりはしない)
 私は『リングフィットアドベンチャー』のプレイヤーで、すでに300日以上プレイし続けているが、前から『フィットボクシング』にも手を出してみようか……とは考えている。なぜ購入しないのか、というとお金がなくて……。

 その『フィットボクシング』がまさかのアニメ化。「放っといても売れる状態」に入ってしまった『リングフィットアドベンチャー』と違って、『フィットボクシング』はプロモーションに力を入れており、ゲーム系メディアではちょくちょくインタビュー記事や紹介動画が発表されているのを見かけたりもする。それがとうとうアニメまで作ってしまったか……という呆れと共に、そういう珍現象が楽しくもある。

 で、アニメの内容だけど、5分のショートギャグアニメ。おそらく、プロモーションで出せる予算の限界と、『フィットボクシング』に登場するキャラクターで作れる物……からこういう内容になったのだろう。
 『フィットボクシング』のインストラクター達にはそれぞれ設定が付与されているものの、そこからドラマを作るのは難しい。例えば、オリジナルキャラクターを作ってインストラクターを交流しながら、体が鍛え上げられ、自己実現を達成し、最終的にフィットネスジムから卒業する……なんてストーリーがあったらあったで面白いそうだけど、そこまで作れるほどの予算はない。たぶん、オリジナルキャラクターの新規CGを作る予算もない。
 それにヘタに物語を作ってしまうと、キャラクターのイメージを固定させてしまい、むしろ自由な着想でキャラクターを追加したりできなくなってしまう。というか、やっぱり5分しか枠が取れてないので、あれもこれも……というわけにはいかない。

 いろんな事情があって、結果的に5分のショートアニメってことになったんでしょうな。
 登場キャラクターは、ゲーム中に登場するキャラクターのみだけど……。ひょっとして、ゲーム中で使用されたモデリングと一緒? 元のゲームを持ってないから、このあたりもどうなのかわからなかったのだけど。もしもゲーム中CGと同じモデリングを使用しているなら、本格的に新キャラを作る予算もなかった……ということだけど。
 物語に登場するステージも、ジム内部のワンフロアと、その入り口前だけ。時々ヘリコプターのローター音が聞こえたりするけど、音だけでヘリコプター本体すら登場しない。ヘリコプターを登場させる予算すらなかったことがわかる。(別に「素材集」から引っ張ってきたものでも良かったんだけどな……)
 予算がなかったんだろうなぁ……。
 何もかもがナイナイづくしで、しかしこの中で何かしら5分見られるものを作らねばならない。なかなか難題だ。
 そういえば、何でもない奥の扉をネタにしたお話なんかもあった。大塚明夫さんの渋い声で「その扉は開けてはならんぞ」という警告があるけど、あれはつまり「その向こうの空間は作ってないから」ってことなんでしょうね。「扉を開けちゃったら空が見えちゃうじゃないか」と。

(実はこの扉、最終話において「ゲーム中のステージ」と繋がっていた……というオチが披露される。それ以外の時に扉を開けても、やっぱり何も作られていなかった。「その向こうの空間」を作る予算がないことを、うまく利用してアイデアを出しているといえる)

 お話を作ろうにも、手がかりとなる物が限られているから、その中で何かしらをやろうとしたら、目に付いた何でもないものからでもネタを作らなくちゃいけないのだ。
 まあこれも……予算がなかったんだろうなぁ……。

 結局は会話劇が中心になってしまった。まあ、コントのようなものなので、楽しいものになってはいたものの……。
 もうちょっとキャラクターの動き、表情の動きは自然に滑らかに出して欲しかったなぁ。ここをあともうちょっと動かせるようになったら、もっともっと面白くなっていたのに。動かせなかったのは、そこを動かすスタッフがいなかったから……だろうね。
 予算がなかったんだろうなぁ……。
 こうしたコント的な内容を表現する場合は、もっとキャラクターを生き生きと、表情なんかは大袈裟なくらい動いてくれた方が面白くなるのだけど、どの動きも常識の範囲内でしか動いてなかった。ここが惜しいなぁ……と感じるところだけど。
 予算がなかったんだろうなぁ……。

 でも予算の枠内でできることはキッチリやって作り上げている感じはあるから、頑張った作品だ。
 この作品自体もプロモーションで作られているわけだから、うん、『フィットボクシング』買うよ。……お金ができたらね。いや本当、もうちっと痩せたいからね。お金ができたら買うよ。

 もしもここで『リングフィットアドベンチャー』アニメ化……とかなったらどうしよう。『リングフィットアドベンチャー』の強味はちゃんと物語があること。筋トレの闇に落ちてしまったドラゴを正気に戻すために、筋肉で説得する……というストーリーが……って、なんだこの書いてて頭が痛くなるようなあらすじは……。面白そうじゃないか。『リングフィットアドベンチャー』もうっかりアニメ化しないかなぁ……。

サクガン

 まず概要の話から。
 2018年、文化放送・DeNA・創通・毎日放送による共同企画オリジナルアニメ制作プロジェクト「ProjectANIMA」が発足し、この企画のための公募が開始された。プロジェクトの大賞受賞作品にはアニメ化確約。この公募に8229通の作品が応募され、国内最大級のプロジェクトとなった。
 結果的に大賞受賞作品はなかったものの、準大賞に選ばれた戌井猫太郎『削岩ラビリンスマーカー』のアニメ化が決定。それが本作『サクガン』がアニメ化された経緯である。

 と、企画自体かなり予算をかけて華やかにやったのだが……。
 実際の作品は「あれ?」という感じ。

 まず世界観に驚きがない。どうやら地下世界に都市を移してきた……という背景があるようだが、その描き方に面白味がない。地下世界ならでは……という環境がそこに反映されていない。
 かなり大きな消費型文明都市が築かれている様子だが、その元となっている原料はどこから得ているのだろうか。文明都市は天然資源と取引して成立するもので、近代文明になると取引すべき資源は莫大なものになる。ファンタジーを描く場合、これは設定上、描写上の重要なポイントになるのだが、そこが抜け落ちてしまっている。
 なんとなくのイメージで現代の都市を地下に持ってくる……という発想法で世界観を作ろうとしているのがよくない。これだとその世界観ならではの独自性は現れてこないし、地下世界+現代の文化観が混じり合った風景が面白くなっているか……というと面白くなっていない。安易にイメージを作り、しかも面白くなっていないで二重に世界観構築に失敗してしまっている。
 異世界を作る場合、まず「前提」を作り、そこから洞察を深めていってどういった環境なのか、どういった風景が考えられるのかを掘り下げていき、その洞察を足がかりにしてイメージを足していくと独自性を出しやすい。そういった発想法を持たずに、徒手空拳で望んだ結果……が妙に貧しいイメージの世界観しかない映像になってしまっている。
 『サクガン』の場合は、地下世界を舞台にしている。まずどうやって光を得ているのか、どうやって燃料を得ているのか。すると人々の生活はどうなっていくのか。その生活観からどんな芸術が生まれ得るのか。こうやって思考を深めていくとその世界に何があり、何がないのかが見えてくる。
 さらに歴史を作ってみるとより物語に奥行きが生まれる。その物語中の文明観だけではなく、その一つ前、もう一つ前にどんな文明があったのか、それをチラチラと見せるだけで「らしさ」は非常に高まる。

 ロボット達は掘削ロボット……とのことだが、掘削ロボットならではの性能や挙動がない。あれなら普通のロボットアニメとそう変わらない。掘削ロボットならではの特性が見たかった。
 せっかくのファンタジー……地下世界をベースにした文明都市、という面白い着想があったのに、それを活かしきれていないのが残念なところ。

 物語のほうは……エピソードごとの細かいメモを取ってないので、ちょっとぼんやりした話し方になるが、こちらも精彩さに欠ける。というのも、感情描写をすべて台詞で説明してしまっている。次にその感情に至るまでの物語導線に納得感がない。
 例えば、ストリートチルドレンを束ねるユーリ達は富裕層達を憎んでいるのだが、この対立に真実味がない。富裕層にもそこにある社会を束ねるという義務と責任を負って制度を作っているはず。富裕層には富裕層なりの“理屈”があるはずだけど、そこが掘り下げられていない。そういった描写がなく、単にストリートチルドレンの敵としてしか描かれないし、敵として描くために安っぽい存在にしてしまっている。これが物語を安っぽくさせている原因。最終的に富裕層たちのスキャンダルを暴くことで溜飲を下げさせる……というオチなのだが、いや待て、その映像どこからどうやって持ってきたんだ? そういった説明がなく、いきなりオチが来てしまう。ここに納得感がない。
 ザクレットゥはガガンバーに恨みを抱いていた……という女だが、そのエピソードも唐突だ。今までそんな素振りも見せてなかったのに? あるエピソードに入ってついに凶行に及ぶのだが、描写を見ていても殺意があるように見えない。どの攻撃もことごとく外して、突然の弱体化だし、間抜けに見えてしまう。描写に殺意を感じさせない……というところに納得感を持たせていない。
 これはひょっとして、「実はザクレットゥにはガガンバーを殺す気がなく、彼に反省の意思があるか試しているのでは……」と予想しながら見ていたが、そういうわけでもなかった。単に「なぜか弾丸がほとんど当たらない」というご都合主義展開だった。
 心理描写がクドクドと続くうえに、物語の描写に納得感がない(物語動線がないので心理描写が言い訳っぽく見えてしまっている)。これが『サクガン』のストーリー全体を安っぽくさせてしまっている。

 お話を最初に戻すが、メメンプーの「旅の動機」も問題で、単純な「冒険心」しか示されていない。主人公が「○○したい」しか動機を示していない。これだと弱い。なぜなら「宿命」ではないからだ。「○○しなければならない」という動機で旅を始めていないから、旅そのものに緊張感が生まれない。どんな内容であれ、主人公には「宿命」を持たせていた方が良いのだ。
 メメンプーはやがて父親ガガンバーの死を夢の中で見るようになるのだが……。もしもこれを第1話の段階で示せていて、「父親の死を解明し、回避するための旅」という目的意識を持たせることができたら、これがメメンプーにとっての「宿命」になっていた。父親を救うために頑張る娘のお話……というところでメメンプーの健気なところも出ていたはずだ。こういった動機を1話の段階で示せなかったのが惜しい。

 それでもいいところは一杯あるんだ。コミカルなところはとてもいい。キャラクター同士のやりとりは楽しく、コミカルな風景を見せた後に、さらっと物語を進行させるノリの軽さはいい。かつての時代にあった楽しい冒険アニメを彷彿とさせてくれる。
 主人公のメメンプーは可愛いし、主演の天希カノンはとてもいい芝居をしている。
 世界観の描写に面白味はないとは書いたものの、まったく魅力がないとは書いていない。ただ表現の仕方が良くない。「地下世界」という着想はいい。でもその世界観を深めていこう……というところで失敗してしまっている。良くしようと思ったら、いくらでも余地のある設定だ。

 決して魅力のない作品というわけではない。しかし妥協してしまった一つ一つが、全体としてぼんやりした印象を作ってしまった。せっかく大がかりな企画の末に生まれたアニメなのに、半端な作り方をしていて残念だというしかない。

ルパン三世 PERT6

 『ルパン三世 PERT6』はちょっと変わった趣向によって作られている。各エピソードに様々な有名作家、映画監督を起用し、それぞれのテーマでルパンを掘り下げていこう……という手法が採られている。その脚本家として、押井守、辻真先、芦辺拓、樋口明雄、湊かなえといった錚々たるメンバーが集結した。いずれも名前を聞いたことのある作家達だ。
 キャッチコピーに「この男、悪人か、ヒーローか」と示されているように、ルパンのイメージを改めて考え直そう……というのが本作のテーマだ。もともとは大人向けのダーティなイメージとして始まったはずだったが、まったく売れず、その後宮崎駿・高畑勲の2人が参加して以降、「コミカルなルパン」に変貌していったルパン。そのイメージを見直してみよう、という試みだ。ダーティだった最初期のルパンをイメージした、グリーンジャケットというのが一つのポイントとなっている。
 様々な作家にそれぞれのルパンを描写してもらう……という試みも、「ルパンの多様さ」を表現しようというテーマに沿ったものだし、オープニングにはたくさんのルパンがわらわら登場してくるシーンが描かれ、作り手側がテーマをブレずに捉えられていることがよくわかる。
 「ルパンとは何者か?」これまで描かれてきたルパンを包括し、これからのルパンを考えていこう……という意識が見えてくる。

 このコンセプトに異議を捉えるつもりもない。それどころかかなり面白いと思って見ているのだが――。
 ストーリーそのものに意義があるのではなく、描写の一つ一つに納得感がない。例えば0話、次元がAIドローンに包囲されたシーンで跳弾を利用して次々に落としていくのだが……いや、それは無理だろう、と突っ込みたくなる。
 そもそもルパンは、そういう無茶を、もっともらしく見せる作品だ。ルパンは初期の頃かずっと無茶な活劇をえんえん繰り広げている。そういう活劇こそがウリの作品だった。無茶だけど、それを見た瞬間、納得できるように描写すること……作り手側としてはこれをしっかり抑えておかねばならない。

 宮崎駿ルパンは間違いなく、これを達成していた。どうすればそのように描けるのか、というと「漫画的な面白さ」を徹底し、描写し続けることだ。『カリオストロの城』はこの漫画的面白さをとことん貫いて、ひたすら面白く描ききった作品だった。
 今作の『ルパン』のなにが良くないのか、というと絵。これに尽きる。絵が動いてない。どのシーンも止め絵が中心。キャラクターが動いて、そのシーンに起きていることを納得させようとしていない。
 良いアニメーションとは、キャラクターが動いた瞬間、見ている側の気持ちがキャラクターと一体となる動きのことだ。こうした誘導がうまくできていれば、ある瞬間無茶苦茶なことをやっていても受け入れられるようになる。アニメーションはそういう現実では絶対不可能な跳躍が可能だからこそ、面白さがある。
 「漫画的な面白さ」とは、無茶なことが起きているのに、その瞬間は納得してしまう描写のことだ。無茶が起きているのに、その瞬間は「おっ!」と思わせることだ。後でよくよく考えたら……だが、その瞬間さえ納得させてしまえばいいのだ。そういう漫画的な面白さに欠けるから、「いや、待て待て」となってしまう。

 例えば『カリオストロの城』の名シーン、ルパンが屋根をダーッと駆け下りていき、ありえない大ジャンプをしてクラリスが幽閉する塔へ到着してしまうシーン。あんなのは「ありえねー」と言うべきところだが、しかしそのシーンを見た誰もがそういうところに疑問を挟まない(他のシーンと見比べてみると、クラリスが幽閉されている塔に至るまでの“屋根の数”も変わっている)。それ以前に「楽しい」という気持ちにさせてしまっている。その瞬間「おっ!」と思わせることができてさえいればいいのだ。宮崎駿はこういった「漫画的な面白さ」を表現する天才であった。
 構図も悪く、どのシーンも画になってない。絵が漫画的な面白さを達成していない上に、画としての格好良さがない。
 画としての精彩さが欠けるのはオープニングからで、オープニングで4人が夢中でご飯を食べているシーンがあるが、動きに賑やかさがない。次に4人同時に脚を組む動きがあるのだが、この動きもメリハリがなくて格好よくない。ああいったところこそアニメらしい外連味を出すべきところなのに、表現し切れていない。

 脚本はきっと悪くないんだ。というか、きっと良いものなんだ。でも絵の作りがことごとく悪いから、せっかく作られたストーリーがうすらぼんやりしている。演出と作画によって脚本をダメにしてしまっている。集められた脚本家はいずれも一流の作家であるはずなのに、仕上がった作品にその良さがほとんど残ってない。
 その中、異彩を放っていたというか、安定したクオリティを発揮していたのが押井守脚本「ダイナーの殺し屋たち」。どうして安定したクオリティを維持できたのか……というとほぼ座って喋っているだけだったから。押井守監督作品によくある描写だけど、ほぼ座って喋っているだけだから破綻がない。というか、あれで破綻していたら演出家失格。
 とある虚構を取り戻すために、集まった殺し屋が虚構を演じるという内容で、ルパンという存在の曖昧さも表現されている。今作のテーマにあった作りにもなっている。

 今回で久しぶりに『ルパン』のテレビシリーズを見てみたのだけど、『ルパン』らしいアニメーションを描ける……という作家が今の時代にいないのだろう。やはり時代は「止め絵」中心。「止め絵」でキャラクターを格好よく描けるかどうか……しか審査されない時代だし、キャラクターを描くほうにもそこしか意識がない。「時代観に合ってないなぁ」……としみじみ思うだけだった。
 宮崎駿は動きのある絵、動きで納得させつつ、しかも面白く描くことができて、なおかつ画としての格好良さ、美しさも同時に表現できるアニメーターだった。だから宮崎駿ルパンは面白い。宮崎駿世代はああいった「動きで見せるアニメ」を描ける作家が多かったが、今の時代にそういうタイプのアニメーターが僅少になってしまったのだろう。それが「なんとなくウソっぽいルパン」に繋がってしまったのだろう。
 やっぱり今は『ルパン』という時代じゃない。『ルパン』が息づいていた時代観からも離れているし、『ルパン』をちゃんと絵として表現できる絵描きもなかなかいない。今はみんな「格好いい止め絵」を描けるかどうか……という時代だ。なにか噛み合ってないな……そんなことをぼんやりと感じさせる作品だった。

 ルパンとは何者か?
 初期シリーズの最終話である『さらば愛しきルパン!』では、ずっとニセモノのルパンが物語の中心になっていて、最後の最後に本物のルパンが出てくる……という内容だった。
 この内容について、宮崎駿は「これまでの全てのルパンはニセモノだったんだ!」という趣旨の発言をする。「コミカルなルパン」のイメージは宮崎駿が作り上げてきたものだが、それが好評を博し、いつの間にかコミカルなルパンがルパンの基本イメージとなっていった。宮崎駿は「それはルパンのイメージではない」と考える。そもそもルパンは犯罪者だ。それをヒーローとして扱うのはどうなのか……? その想いが、「今までのルパンはぜんぶニセモノが演じていたんだ」という発想に繋がっていく(後に撤回されたようだけど)。
 間もなく宮崎駿はルパンにトドメを刺そうと、ある若き演出家に依頼をする。それが押井守。宮崎駿は押井守に、今までのルパンを全部なかったことにしてくれ。実は虚構だったんだ、ということにしてくれ……というようなオーダーを出していたそうだが――、これは頓挫することとなる。なぜ頓挫したのか、その理由は明かされていない。

 そのテーマが時を経て『PERT6』になって、再び立ち上がってきた。今時代の作家達は、ルパンをどのように解釈するのか? ルパンは何者であるのか?
 このテーマで参加脚本家に押井守の名前を見て、ザワザワとした。いよいよ宮崎駿がやり残した課題を、達成する時が来たのか――。
 そういう期待で見始めたのだけど……なんか「あれ?」という感じで……。とにかくも絵がダメ。キャラクターがぜんぜん動いていない。動いてないから、やっていることに納得感が生まれてこない。お話がどうか、よりそもそも絵ができていない。これだと作り手が意図した通りのテーマが達成しているかどうかすらわからない。色んな脚本家に書いてもらう……という試みもよかったのかどうか……。
 見終えて「なんだったんだろうな」という感想が後に残る。何もないルパンだった……。

鬼滅の刃 無限列車編

 あ、劇場版のストーリーを分割して放送する……という話だったのか。
 相変わらずアニメの『鬼滅の刃』はやたらと楽しみにしているので、事前にあらゆる情報をチェックせず。予告編すら見ずに本作を見始めて、見始めてから、「あ、そういうことなのね」と気付いた。
 最初に『無限列車編』をテレビシリーズとして放送すると聞いた時、疑問はあったんだ。「煉󠄁獄杏寿郎が無限列車に乗るまでの物語」とは聞いていたけど、はて、お館様の屋敷を出てから、無限列車に乗るまで、そんなにたくさんのエピソードがあるだろうか? とは思っていた。

 それに、現在進行形で『遊郭編』の制作が進行しているはずで、そんな最中にもう一本シリーズを制作するほどのキャパシティなんかあるだろうか? アニメの制作がいかに大変か、時間も体力もかかるし、それができる人材も限られている。その実情を理解しているから、ここで唐突に「シリーズがもう1本」という話に疑問だったんだ。
 実際は、無限列車に乗るまでのエピソードというのは1話だけ。なぁんだ。まあそうだよね……。

 そのオリジナルで作られたエピソードだが、無限列車に乗るまでの設定の整合性を整えた……というだけ、というのが惜しい。ただ列車に乗るまでの経緯と、お弁当をやたらと持っていた理由を書いただけ。
 これも他にやりようがあるか……というと何もないんだけど。かなり無理矢理に作られた1本だから仕方ない。あそこまでのメガヒットを飛ばしてしまったから、仕方なく生まれてしまった副産物……といったところだろう。
 あまり余計なものは作って欲しくないものだ。本編ストーリーは神がかって面白いのだから。
 ただ、「蕎麦」の描写は最高だった。

 なんだ、劇場版を分割してテレビ放送するだけか……。
 と、気楽な感じでその後も見続けたのだけど……やっぱり面白かった。今期見たどのアニメよりも面白かった。分割していても、いかに『鬼滅の刃』のストーリーが強力か、はっきりわかる。どのシーンも見る人を惹きつけるだけのストーリー・絵力に満ちあふれているし、後半の展開は感動的だ。見返してみて、名作だということを確認しただけだった。

 『無限列車編』に関する新しい感想は特に何もない。面白かった! 以上だ。それで充分だろう。
 これに続く『遊郭編』が楽しみだ。

2021年秋期アニメまとめ

 今期アニメを1つの記事にまとめたのは、特に書くことがなかったから。1本1本だと内容が短いな……と感じたので、1本にまとめた。
 どうにも今期は、そこまで良い作品に巡り会えなかったなぁ……。期待した作品もあったのだけど、実際見てみると「あれ?」という感じ。絵にもストーリーにも力がない。たまたま私の見た作品が良くなかったのか、業界的に何か問題が起きているのか、門外漢の私には判別ができないが。
 その中で、劇場映画を分割して放送した『鬼滅の刃 無限列車編』だけがやたらと面白かった。結局、『鬼滅の刃』で他の作品のイメージが吹っ飛んだ……という感じだった。

 まあ、そういう時もあるさ。今回はたまたまだ。次のアニメシーンに期待しよう。これから『鬼滅の刃 遊郭編』もあるわけだし。


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