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4月4日 ディズニーが暗黒期を迎えている理由は? それは「有能なプロデューサー」がいないから

「過剰コンプラ」で消えゆくディズニーアニメの魔法 過去の栄光を取り戻せるか?

 最近のディズニーアニメって、「時代の空気」を読んだつもりが、「観客の空気」を読めてない感じになってるよね……。

 今回の記事では、「過剰なコンプライアンス意識の結果、作品がつまらなくなった」という趣旨だが、しかし大事な要件が忘れられている。それはディズニー創設以来つきまとう、とある“宿命”にまつわるお話しだ。それは才能あるプロデューサーがいなくなると暗黒期を迎える……という宿命だ。

ウォルト・ディズニー

 ディズニーの歴史を遡っていくと、これまで3度の「黄金期」がある(4度とする人もいる)。
 最初期の黄金期はもちろんウォルト・ディズニー在命期。『蒸気船ウィリー』から始まり、アニメ史上最初の長編劇場映画にして、映画史上最初のカラー作品である1937年『白雪姫』。そこから『ピノキオ』『ファンタジア』『ダンボ』といった今でも名前の挙がる名作をプロデュースし、1967年『ジャングル・ブック』の前年、1966年肺ガンのために死去した。

 ウォルト・ディズニー死去後、ディズニーは最初の暗黒期を迎える。作品はどれも売れず、一時は「ディズニーは潰れるのでは」とささやかれるほどに低迷した。

ジェフリー・カッツェンバーグ

 1984年、ジェフリー・カッツェンバーグがディズニーのアニメ部門の立て直しのために招聘される。ここから第2の黄金期が始まる。1989年『リトル・マーメイド』、1991年『美女と野獣』、1992年『アラジン』、1994年『ライオン・キング』……。タイトルを聞いてピンと来るかと思うが、最近実写リメイク化している「かつてのディズニーの名作」はみんなジェフリー・カッツェンバーグのプロデュース作品だ。
 しかし1994年、ディズニー社長であるマイケル・アイズナーと喧嘩になって退社。1999年の『ターザン』までがジェフリー・カッツェンバーグが関わっているとされている。

 その後、やはりディズニーは暗黒期を迎える。作品はどれもいまいちパッとしないし、興行的にもぜんぜん伸びない。日本のアニメ業界的にも、ディズニーはずっと「最強のライバル」だったはずだが、この頃から完全に誰もディズニーを話題にしなくなった。ディズニーがライバル視すらされなくなったのはこの頃。

ジョン・ラセター

 この暗黒期を救ったのが、2006年にやってきたジョン・ラセター。ジョン・ラセターはもともとはピクサーの社長で、実はこの頃ディズニーとピクサーはあまり仲が良くなかったのだが、ディズニーがピクサーそのものを買収。さらにその社長であったジョン・ラセターをアニメ部門の最高統括者に就任させて、アニメーター達を納得させた……という経緯がある。
 つまり、なんやかんやがあったわけだが、ジョン・ラセターがディズニーアニメを指揮するようになってから劇的に変わった。2009年『ボルト』をはじめに、『塔の上のラプンツェル』『シュガーラッシュ』『アナと雪の女王』『ベイマックス』『ズートピア』……。ジョン・ラセターがプロデュースすると明らかに作品のクオリティが上がった。次から次へと作品が売れる。ディズニーは3度目の黄金期を迎えるのだった。

 ところがジョン・ラセターは2017年、セクハラ問題で騒がれ、ディズニーを去ることになる。
 ただ、この「セクハラ問題」だが、ジョン・ラセターは感激すると男女構わず抱きつく……というクセがあって、それが女性目線からすると「セクハラだ」……というわけで特に性的な意味はなかった。しかし今の時代、理由はどうであれ、「異性に抱きつく」という行為はどんなものであっても「セクハラ」と見なされる。こういう空気が、後のディズニーを決定づけた、と言ってもよかろう。これが問題となって、ジョン・ラセターはあれだけ貢献したディズニーを追い出されるように去って行く。

 そして……暗黒期が訪れた。
 現在、ディズニーのアニメ部門の最高統括者はジェニファー・リーとピート・ドクターが務めている。ジェニファー・リーは『アナと雪の女王』を監督し、ディズニーアニメ史上初の女性監督となった人だ。ジョン・ラセターがセクハラ問題でディズニーを去り、コンプラアンスがうるさく騒がれるようになった時代を受けて女性が指揮者として選ばれた。ディズニーのコンプライアンス重視の流れは、こういうところから始まっていた。ともに最高統括者に任命されたピート・ドクターはジョン・ラセターの片腕として『トイ・ストーリー』や『ウォーリー』の原案を書き、『モンスターズ・インク』や『カールじいさんの空飛ぶ家』では監督を務めた。

(もう一つの黄金期は、ディズニーランド開演前後とされる。ディズニーランドの宣伝と費用捻出のためにウォルト・ディズニーはテレビ進出しており、これが大ヒット。ディズニーアニメがアメリカの家庭に文化として定着したのはこの頃……とされる。この時代を黄金期の一つと数える人もいる)

 ここまでの流れを見てわかるように、ディズニーの宿命とは、有能なプロデューサーが去ると暗黒期を迎える……ということ。いまディズニーはコンプライアンスを気にしすぎて作品自体がつまらなくなった……と言われるが、歴史を俯瞰して見るとちょっと違う。そうではなく、「有能なプロデューサーがいないこと」が大きな原因。それに、コンプライアンスがどうであろうが、ストーリーが面白ければ映画は売れるはず。そのストーリーを書ける人がいなくなったことのほうが大きい。「コンプライアンスを意識しすぎてつまらなくなった」ではなく、「コンプライアンス云々を抜いても、最近のディズニーはつまらない」が正しい。作品が面白ければ、コンプライアンスとかどうでもよくなるはず。ストーリーを書ける人間がいなくなったから売れなくなった……という気づきに辿り着かねばならない。
 このディズニーの宿命には一つ裏面があって……というのも、ディズニーアニメは「監督」の名前がわからない。遡ると、『白雪姫』の監督もあまり知られていない。なんとなくウォルト・ディズニーが監督だろう……実は私もそう思い込んでいたのだが、ただしくはディヴィッド・ハンド監督。ディヴィッド・ハンド監督は名前がぜんぜん知られてないが、ウォルト・ディズニーの片腕として、ミッキー・マウス主演映画を監督し続けた人だ。ウォルト・ディズニーはあくまでプロデューサーであって、監督を務めたことは一度もない。ウォルト・ディズニー監督作品なるものは一本も存在しない。
 ディズニーは創設以来こんな調子で、最近の作品でもあまり監督が誰なのか知られていない。宣伝を見ても「監督が○○!」みたいなアピールは一度も見たことがない。ディズニー作品にそれなりに詳しい人ですら、監督が誰なのか知らない……ということはよくあるくらいだ。
 監督の個性がぜんぜん出てこない。それがディズニーのもう一つの宿命。宮崎駿とか高畑勲みたいな、名前で売れるクリエイターが出てこない。それよりも「ディズニー」というブランドが圧倒的に大きく、その内部を見てもプロデューサーの権限や支配力のほうが圧倒的に強い。そこで有能なプロデューサーが一人抜けると、途端に暗黒期を迎えてしまう……それがディズニーの弱さ。黄金期を作った監督ですら、有能なプロデューサーが抜けると「売れる作品」が作れなくなるのだ。

 ディズニーにやってくるアニメーター達はみんな優秀だ。めちゃくちゃに上手い人が集まっている。現在の最高統括者のジェニファー・リーとピート・ドクターも非常に優秀な人だ。しかし「有能」と「売れる才能」はまったく別の話。有能だから売れる作品を作れるわけではない。優れた技術を持っているから、名作を作れるわけではない。業界屈指の優秀なクリエイターを集めても、なんとなく微妙な作品ができあがってしまう……そんな前例は山ほどある。
 世間的にここが理解されていない。「優秀な頭脳」「優秀な技術」と「良い作品」「売れる作品」を作れるかどうかはまったく別の問題。技能的にいまいちでも、売れる作品を描ける……という人はいくらでもいる。
(例えば間抜けなコナミは、作品の権利さえ持っていればいいんだ、と思い込んだ。その作品を作った主要メンバーを会社から追い出しても、「有能な人たち」さえ集めれば続編を作れると思い込んだ。小島秀夫を追い出しても、『メタルギア』のシリーズは続けられると思い込んだ。優秀な人間を集めてもいいものは作れない、が正解
 ここに気付かなければ、業界最強のクリエイターを集めて、大予算をつけたのにいまいちな作品ができあがる……ということを繰り返し続ける。ディズニーがハマっている“穴”はここ。あれだけ優秀な人材が山ほどいるのに、そのなかに「売れる作品」を描ける人がいないのだ!
 ディズニーが今すぐにやることは、ジョン・ラセターにかわる「売れる作品」を描ける才能を見つけ出し、その人を最高統括者に据えること。ただ、その才能を見つけ出す……ということが大変なのだけど。コンプライアンスがどうこう言っている暇があったら、早くそういう才能を探しに行きなさい……っていう話。

「成功者には遠慮なくぶらさがろう!」
 世の中をよーく見てみよう。優秀な人材をいくら集まっていてもダメ。「稼げる才能」はまったくの別。そういう才能を見つけて、みんなでぶら下がろう! これが生存のための戦略。


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