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Netflix映画 クリムゾン・ピーク

 冒頭3分から幽霊様の登場である。月の光が射し込む廊下に、すっと柳の枝のような影が伸びて、それから幽霊本体が登場し……ああ、この映画好きだわ。最初のシーンで思った。
 が、その後幽霊の出番はなく。20世紀初頭のアメリカの風景、アメリカの物語が始まる。
 日常のシーンは、時代がかったいかにもなセピア調のカラーだ。それはそれで美しいのだが、屋敷のシーンに入ると「緑」が入ってくる。蝋燭のオレンジを間に置いて、赤と緑の光が対立する。最初、赤と緑のライトは主張が強すぎるように感じたが、この色彩が符帳としての役割を果たしている。画面のどこかに緑が入ってくると、何かが起きる。
 洗面所のシーン、ふっと人の気配が消えて、カーターが妙な気配を感じて洗面所の中を歩いて行く。背景には緑の光が射し込んでくる。沈黙。しかし不穏な気配が続き……惨劇が起きる。
 赤と緑の色彩は最後まで一貫していて、ラスト近く、女の着ている服が緑をベースに白のワンピースに血の赤をべったり付けたりと、色彩がモチーフとしてあちこちに使われている。緑が使われている人物は大抵なにかやらかす。
 幽霊が出てくるまでのプロセスはある意味セオリー通りだが、丁寧に描かれる。画面に緑の光を射し込ませて、沈黙が起きる。画面の奥、暗く影が落ちているところにすっと何かの気配を漂わせて……影はじわじわと大きくなっていき、間もなく本体が現れる。幽霊が登場するシーンに入ると、なんともいえないワクワク感が……じゃなかった、ゾクゾク感が来る。
 その幽霊の造形がまたいい感じなんだ。よくある幽霊のイメージとはちょっと違っていて、デル・トロらしいアレンジが入り、幽霊1人1人がキャラクターとして立っている。ちょっと格好いいんだ。
 物語の中心舞台であるイギリスの屋敷へ移るのは40分が経過した辺りと、わりと遅めだ。屋敷の造形は時代がかった装飾過多な壮麗さを持ちつつ、どこかしらいびつな不気味さを感じさせる。造形はもちろん美しいのだが、そこにほんの少々のいびつさ、装飾を強調することにより浮かび上がってくる不気味さ、装飾の洪水がグロテスクさを感じさせる……その匙加減の妙が見事。なによりこのお屋敷は、幽霊が同居する素敵物件だ。幽霊愛好家にはたまらない。お屋敷にはやっぱり幽霊ですわ!
 幽霊があちこちにいるということは、このお屋敷には数々の惨劇があったことを示している。さて、ではその惨劇をもたらしたのは誰か……このお屋敷にはかつて何が起きたのか。それを掘り下げていく物語が始まる。……というお話がメインで、ゴーストの呪いが不幸をもたらすとか、そういうお話ではない。
 いろいろ起きる物語だが、結局は美しい屋敷に、美しい女達の物語だ。女達に囲まれ、女達に振り回されるままの男がその中に1人……ああ、そういえばこの構図はハーレムものだわ(ほぼ死亡しているけども)。竿役はノイズにならない程度にいればいいというくらいの話で、屋敷と女と美の物語。デル・トロ的な美意識と、教科書的なお屋敷ホラーの美を目一杯凝縮した映画。

 いやー、やっぱり西洋屋敷には美女と幽霊がいないとね。

4月16日

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