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ドラマ感想 ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪 第6話感想 南方国を取り戻せ! ヌーメノールが闇勢力とぶつかる!

前回

 冒頭。アダルが種を植えている。
 後でアロンディルが説明するが、エルフには戦争前に種を植える風習があるそうな。闇世界に堕ちているアダルにも、意外にもその風習を残している。

 決起を前に、勢揃いのオークたち。いいシーンだ。

 カット割りがロング→クローズアップ→ロング→クローズアップを繰り返す。オークのメイクを頑張ったからとにかく見てくれ! ……ってな感じでしょう。
 でも確かによくできている。口の中まで作り込んでいる。本当っぽく見えるのは流石。

 こうした特殊メイクのキャラクター達は、最大でも100人くらいまでしか同時に出すことはできない。
 なにを根拠に話をしているかというと、2001~2003年の映画『ロード・オブ・ザ・リング』は特殊メイクのオークは最大100人ほどくらいしか出てこなかった。「実際の映画ではそれ以上出ているシーンあるじゃないか」……という反論はあるかも知れないが、それはCGカットか、あるいはCGで人数を足している場合。
 映画のメイキングを見るとそこそこの大広間に、ものすごい人数のスタントマンが椅子に座っていて、さらにメイクアップスタッフが1人につき2人がかりで仕事をしているという風景が収められていた。これもなかなか壮観な眺めだった。さらにホビットのメイクやドワーフのメイクもあるから、この映画はメイクアップスタッフが超忙しかった。
 あれだけの人数規模で特殊メイクキャラクターを出そうと思ったら、それ以上のメイクスタッフが必要になるので、ハリウッドの資金で世界中のメイクアップスタッフをかき集めても、1つの画面に登場させられる特殊メイクキャラクターは100人ほどが限度だろう(ちなみに1人のメーキャップにかかる時間は1~2時間。撮影もあるので、それ以上に時間をかけるわけにはいかない)。『スターウォーズ』でも特殊メイクキャラクターの限界人数はそれくらいじゃないかな。オークのようなクオリティの高いメイクを数百人のメイクアップスタッフが同じレベルで作らなければならないから、そこそこ以上のスキルの高さが求められる。メイクアップスタッフも無限にいるわけじゃないから、どこの映画でも100人ほどが限界でしょうね。

 さあ、オーク達がものすごく長い行列を作って、砦へやって来ました。
 しかし砦には誰もおらず……。

 問題の壁のレリーフ。あっ、改めて見るとサウロンの兜が彫り込まれてたね。前回は気付かなかった。やっぱりここはオークが建造した砦なんだ。

 隠れていたアロンディルが、塔の補強を破壊。砦の中にいたオーク達を一掃するのだった。

 ちょ、ちょっと待て。塔にやってくるまで、やたらと長い行列ができてたじゃないか。塔に入ったオークもそんな大人数じゃないはず。それを、この塔を倒しただけで……というのはちょっとヘンじゃない?

 一方、ヌーメノール人たちの船。船のデザイン、やっぱりいいなぁ……。

 対話していると、奥の方からじわじわと朝日が昇ってくる。
 いい眺めだけど……ちょっと待て。台詞がおかしい。ガラドリエルは人間達よりも1時間早く朝日が昇ってくるのを見た……と語っているが、いくら視力が良くても、水平線に出現していない太陽を見ることはできない。ここで太陽を見るには、マストに登って、少し高いところから水平線を見なければいけない。
 エルフの超人っぷりを表現しようとしたのだけど、ここは失敗かな。

 それはそれとして、この甲板上のやりとりはたぶんセット撮影かな……。最初は、ロケだとすると照明が明るすぎるな……と感じていたんだけど、そもそも対話をしながらちょうどいいタイミングで太陽が昇ってくるように作る……なんてのはロケではそうそうできることではない。この辺りの事情を考えると、ここはセット撮影かな。

 でも遠景のこういう眺めは本物っぽいんだ。

 さて、行き先はどこなのか? ここはアンドゥイン川の入り口だね。大きな船じゃないから、このまんま川に入っていったんだ。川幅は2003年『ロード・オブ・ザ・リング 第3章』でちらっと出ていたけれど、船が入っていけるほどに広い。

 第3紀時代の地図と比較してみよう。
 アンドゥイン川から船で入っていき、ミナス・モルグルあたりからモルドールに入っていったのだろう。
 ここは後にゴンドールの領地になり、ミナス・イシルと名付けられた塔が建てられることになる。それも第3紀後期にはモルドール軍に奪われ、ミナス・モルゴルと名付けられるようになった。

 この辺りは険しい山地であるはずなのだけど、もしかしたら馬で入っていける隙間があったのかも……。そうじゃないとヌーメノール軍が馬で入っていく、という場面が成立しなくなる。

 再び南方国の村。やっと村人達が武器を手にする。砦にいた頃は武器を持たずにやってきていた。砦に行けばエルフに守ってくれる……みたいに考えていたんだろうね。

 しかしいよいよ「自衛」しなければならない、ということに行き着いて、武器の用意を始めるのだった。
 この段階にきて、大慌てで作っている感じが出ている。塔の一撃でオーク達を一掃できて、そこで成功体験を身につけて、やっと「俺たちでも戦えるぞ」という意識に目覚めたのだろう。

 戦の前の昼。アロンディルはブロンウィンに無事に帰れたら、新しく作った庭に種を植えよう……と話す。要するにプロポーズだね。

 戦の前に種を植えていく……というのはちょっと不思議だけど、エルフならでは。『マトリックス リローテッド』ではザイオンでのお祭りの後、なんとなく性的な雰囲気の画面になっていったが、あのシーン、私は本当に乱交をやっていたんだと考えているんだ。というのも戦争になるとたくさん人が死ぬから、その前に子種を残しておきましょう……と。そうすれば大量に人が死んでも、その後大幅な人口減少を防ぐことができる。戦争前にはそういうことはわりとあったんじゃないかな……そういう実例を見付けたわけではないけど、そんな想像をした。
 でもエルフの場合は「子種」ではなく「植物の種」。エルフにとって、エルフという種の減少が深刻な問題ではなく、戦争で木が伐採されることのほうが重大なんだね。そういうところがエルフらしい。

 さあやって参りました、オークの軍団。

 特殊メイクのキャラクター達が画面一杯に……。メイクスタッフが頑張った結果だよ。いい画面になっている。

 オークは体が丈夫で頭が良い。人間よりよほどよくできた種だ。ただし、オーク達には「恐怖心」と「同情心」がない。仲間が殺されても、それで怯えたりしない。精神が揺らがされることがない。暴力の只中に入っていっても、人間みたいにPTSDに陥ったりしない。側で仲のいい誰かが殺されても、悲しんだりしない。ただひたすらに闘争心に燃え続ける。鉄壁の精神の持ち主だ。
 オークはおぞましい種なのだが、見方によれば理想の人間像でもある。特に、マッチョが好みな感性の人たちは、むしろオークのような精神を良しとするんじゃないだろうか。

 ここで村人達が「南方国のために!」と叫びながら飛び出してくる。そういえば南方国って、特定の「国」の名前がなかったね。トールキン先生が名付けなかったからだけど、「南方国のために!」という台詞はなんかヘンな感じ。国名がないのに、国民としての主体性は生まれるだろうか……?

 戦闘シーンはとくに語ることはないのだが……ピーター・ジャクソンによればこういう合戦シーンは編集時に3カットに1回ヒーローカットを入れる……というテクニックについて語っていた。ただ戦闘の混乱を描くのではなく、3カットに1回主要キャラクターたちを登場させる。
 この作品の場合では、ヒーローはアロンディルくらいしかいないので、村人たちの中の数人がヒーローとして格上げされ、何度も登場していた。このおじさんも何回も戦闘シーンで登場していたね。カットの流れを見ていても、『ロード・オブ・ザ・リング』の手法が踏襲されていることがわかる。

 しかし戦闘で倒した死骸をよくよく見ると……血が赤い。ここがいい場面。指に赤い血が付いているところを見せて、「あっ!」と思わせて、それから「実は戦っていた相手は人間だった」というシーンに繋げている。

 なにげないカットだけど、ここがよかった。静止画だとわかりづらいが、後ろに立っていたおばさんの肩に矢が刺さった瞬間。
 実際には矢は刺さってないわけだが、エキストラ女優がいい感じにのけぞる演技をやってくれている。これで矢が勢いよく刺さり、肩から吹っ飛んだ……という感じが出ている。

 怪我の治療。アロンディルが傷口を縫おうとしているのだけど、「傷口を火で焼いて」と指示をするブロンウィン。
 確かに傷口を焼けば、その瞬間傷口は塞がり、さらに化膿止めにもなる。が、激しく火傷をするのでめちゃくちゃに痛いし、その痛みはずっと続く。昔は戦争で怪我した手足を切断するという手術法があったが(感染症を防ぐために、止血するより切断した方が早い……という判断だったらしい)、傷口を焼くのはそれの次くらいに乱暴な治療法。絶対にオススメしない。

 さあ、いよいよオーク達の本陣がやってきましたよ。

 というところで場面が切り替わって、平原を疾走するヌーメノール人の騎馬が描かれる。格好いい!
 でも人数が少ないね。300人の兵士がいたはずでは?
 撮影上の都合……という話はさておきとして、船でやってきたのだから見張り番を残して来ているのでしょう。中つ国はヌーメノール人にとっても不案内な土地だから、見張り番は大事。

 ただ、格好いいシーンに仕上がっているのだけど……変なところもあって。
 この突っ込みも野暮な感じだけど、……この人達、なんでこんなに急いでいるんだろうか? 馬は車みたいに何時間でも全力疾走できるわけではない。馬での行軍は、もっとゆっくり進むものじゃないか。この人達はいったい、何を急いでいるのだろうか?

 ここがお話としての順序立てが弱いところで……。
 例えば、村の住人達がオーク達に襲われ、逃げて逃げて……というところでたまたまヌーメノール人たちと遭遇。そしてこの騎馬達の背に逃げてきた村人の姿が描写としてちらっと入っていたら、なぜこの人達が全力疾走していたのか、という理由ができる。
 そういう経緯が何もないところで、全力疾走しているから、「なぜだろう?」「何を目指しているのだろう?」という疑問になってしまう。

 追い詰められた村人達。テオは「あの剣の隠し所を知っている!」と告げるのだった。
 その隠し場所というのが、酒場の床の下……。展開上の都合だけど、そんなとこに隠すなよ。
 それにしても、なぜテオが隠し所を確認しようとしていたのか……それはもうちょっと後で。

 ブラッドソード(仮)がアダルの手に渡ってしまう。
 その背景に、地鳴りの音がひっそりと……。いいぞ、この演出。

 いよいよ村人たちの危機……そこにヌーメノール兵たちが突撃する!
 映像はかっこよくできているのだけど、なぜヌーメノール人たちは村人達が危機に陥っていたのを知っていたのか。たまたま走ってきたらオークに襲われている村を見付けたから……とうのはやはりご都合主義的だ。
 ここはやはり、逃げた村人の1人が行軍するヌーメノール兵たちに会っていた……みたいな流れがあったほうが……。

 チェーンでオーク達が一気に薙ぎ払われる。
 奥に映っている家の屋根を見ると、矢がザクザク刺さっている。細かいところまで作り込んでいる。

 ガラドリエルの曲乗り。馬の上で矢をかわしている。もちろんスタントマンだけど。一瞬顔を見せているね。でも格好いいね、このシーン。

 アダルを追跡! この一連のシーンも格好いい。このカットで顔が正面から見える。役者本人が馬に乗っていることがわかる。

 アダルの馬が倒されて……

 その直後、すぐに立ち上がる。
 なんでこの馬が立ち上がるカットが必要なのかというと、アメリカは動物愛護団体がうるさいから。馬が倒れたシーンで終わっていたり、その後も馬が倒れたままになっていたら、すぐに動物愛護団体が「虐待だ!」と大騒ぎする。それで「馬は無事でしたよ」と示すカットを入れなくてはならなくなっている。

 アダルを逮捕し、納谷で尋問する。

「子供の頃聞いたわ。モルゴスにさらわれたエルフがいると。拷問で心身をねじ曲げられ、別の生き物に変えられたとか。お前はその1人ね。モリヨンドル。“闇の息子達”。最初のオーク」

 ああ、そうか。オークってもともとエルフを誘拐し、遺伝子操作や魔改造して生まれた種だった。アダルはモルゴスに誘拐されて、その子供たちが魔改造されてオークになっていった。だからアダルはオーク達から「ファザー=“尊父”」と呼ばれていたんだ。オーク達から見れば、アダルは「祖父」に当たるからだ。

 でも、オーク達がもともとエルフだった……ということを考えると、オークの頭良さと身体能力の高さの秘密がわかってくる。オークの強さって、もともとエルフ由来だったんだな。エルフが人間に対して猛威を振るったら、あれだけ恐ろしいって話だね。

「ウルクと呼べ」

「……力を創造しようとしたんだ。肉体的な力ではない。肉体を超えた未知の世界の力だ。彼は手下を集め、北へ向かった。だがどれほど悪戦苦闘しても、何か欠けていた。暗黒の知の影だ。それはサウロンの前にも姿を現さなかった。どれほど血を流し、追い続けてもな」

 北の邪悪な城が出てくる。ある場面が描かれるが……これは「手術台」だろうね。でかい鉗子が出てくるし。

 異形の何者かの死骸が出てくる。
 ここからわかるのは、サウロンはオーク達を集めて、さらなる強力な兵士を遺伝子操作で生み出そうとしていた。改造手術かも知れないけど。この異様な形の死体も、その過程の一つだろう。
 でも結果、何も生み出せなかった。

 ここでちらっとバルログっぽい彫像が出てくる。これは、こういうものを作ろうとした……ということだろうか?

「俺からすると、あまりにも多くの子供がやつの野心の犠牲になった。だから殺した。俺がサウロンを殺した」

 しかしアダルからすると、自分の“子供たち”が無為に殺されるのは耐えられなかった。だからサウロンを殺した。
 ここ、日本語吹き替えで聞くと「だから殺したのよ。俺の中のサウロンを」と表現している。
 「俺の中のサウロンを殺した」――さて、どういう意味だろうか。その通りにアダルがサウロンを暗殺したのか。それとも、自分の中の「サウロンへの忠誠心」を殺して、反旗を翻した……という意味だろうか。それじゃこのアダル達の軍団は、サウロンから独立した軍団ということなのだろうか。
 闇の勢力が一枚岩じゃない……という話は面白いけど。じゃあアダルはなにを動機にして、ブラッドソード(仮)を探していたのだろうか?

 とにかくも、第5話で「サウロン様」と呼ばれたとき、アダルが怒った理由は明らかになった。アダルはサウロン派と決別した人たちだった……ということだね。

 ミーリエル執政女王は「お前の重荷を解いてやろう」とハルブランドを紹介する。
 これは南方国の民に、王の帰還をお膳立てした場面。ミーリエルの粋な計らいだ。いい女王じゃないか。
 ただ、一介の村人に過ぎないブロンウィンがどうして南方国の王のサインを知っていたのだろうか……。それを言い始めるとお話が回りくどくなるので、そこには目をつむりましょう。

 さて問題のシーン。

「違うんだよ。落ち込んでいるのは罪悪感だけじゃない。喪失感もある」
「あれを持っていた時――すごく、力が湧いた」

 要するにあのブラッドソード(仮)には魔力があった。一つの指輪に似たような魔力で、持っていると次第にその剣の魔力に飲み込まれていく。ワルドレグはその魔力にもう完全に取り込まれちゃってた人なんでしょうね。だから闇勢力側へ行くことにも躊躇いがなかった。これがテオがブラッドソード(仮)がどこに隠されたか、確かめさせた理由になっている。

 ではあのブラッドソード(仮)はどこへ行ったのか?
 ワルドレグが砦へと持ち帰っていた。剣の正体は実は「鍵」。アロンディルが「鍵」と言っていたけれど、まさか文字通りの意味だったとは……。

 砦の側に溜めていた池が一斉に放水。ああ、ダムだったのか!
 この映像の質感は……もしかしてミニチュア……いやビガチュアか! こういうところでビガチュアが使われるのは、ちゃんと2001年の映画『ロード・オブ・ザ・リング』を踏まえている。

 放水した水は、オーク達が掘った塹壕を流れていく。
 ああ、それで塹壕を掘っていたのか。銃撃戦があるわけでもないのに、なんで塹壕を掘っているのだろうか……と思っていたけど、そうじゃなくて川を掘ってたんだ。これは見抜けなかった。

 激流の行き先は……滅びの山!
 ああ、砦から見えていたあの山って、本当に滅びの山だったんだ。第1話の時に「滅びの山っぽいなぁ」と思ったのは間違いじゃなかったんだ。

 このシーンが凄い! 水がバッシャーとなった瞬間に、馬が立ち上がっている。馬がこの反応するって計算して作ったのかな……。
 馬の演技って、実は手綱を握っている人が操作するものなんだ。例えば馬が暴れるシーンは、手綱を握っている人が、手綱をグイグイッと引っ張って暴れさせているんだよね。でもこのシーンは誰も馬の手綱を握ってない。馬が空気を読んでリアクションした、というシーンなんだよね。それを考えるとよく撮れたなぁ……。

 火山が噴火。異様な黒煙がもくもくと広がっていく。
 これ、単なる自然現象じゃなくて、魔法の力もちょっと加わっているんだろうね。なにしろ「魔の山」だから。自然現象だとしたら、噴火の勢いや、土石流の速度も早すぎる。これで再生仕掛けていた南方国の自然は、一瞬にして崩壊するのだった……。

次回


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