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11月19日 私たちは貴族ではない。何でもどこから買えばいい……という幻想は捨てた方がいい

 はい、ここから11月執筆物だけど12月発表ですよ。個人的にバイトが始まって、来月分のネタがなくなってしまうので、11月に書いたものを1月に発表しますよ。読む方にとってはどうでもいいんですけど。

 今日はこんなお話し。

 Twitterをぼやーっと見ているとたまたまこういうのを見かけた。

「なんで自分で絵を描くの? 他の誰かにお金を出して描いてもらえばいいじゃない。そうしたほうが手間は省けるし、いい絵がいくらでも手に入るでしょ」

 そのツイート内容をそのまま写したものではなく、こんな感じだったな……といううろ覚えで書いたものだけど、まあだいたいこんな感じだった。
 まあまったく絵が描けない人相手にこれを言うならともかく、絵師に言うのはどうかな……。うん、これとある絵師の人が知り合いにこう言われたんだけど、っていう話だったんだ。

 この考え方の何がまずいのか……という話をしていこう。

 絵を依頼するとき、依頼する方もある程度絵を理解していなければならない。構図はどうなのか、色彩はどうなのか、クオリティはどれくらいがいいのか……。依頼する方もある程度以上の知識を持っていないと、的確な指示ができない。

桜井政博のゲームを作るには 監修のあれこれ【グラフィック】

 ちょうどゲームクリエイターの桜井政博さんがいい動画を挙げてくれいたので引用しましょう。桜井さん自身は絵を描かないわけだけど、デザインスタッフが挙げてきたものに対して、「こうしてくれ」というかなり具体的な指示を出している。こういう指示ができるから、クオリティの底上げができる。
 こういう時のために、「筋力」は身につけておいたほうがいい。

 私はこういうとき「筋力」は身につけておいたほうがいいと考える。この場合の「筋力」というのは、腕や足の筋肉だけではなく、知識や技術のことを指す。知識や技術という筋力はある程度持っていた方がいい。筋力があればいざという時にサバイバルができる……こういう時のサバイバルというのは「ジャングルで生き抜く」ではなく、「社会を生き抜くためのサバイバル」という意味。
 こういう筋力は普段からある程度鍛えておかないと身につかないし、何もしないでいるとすぐに衰えてしまう。自分が画力や知識を身につけるのは直接筋力を鍛える上で必要だが、感性をひたすら磨いておく……ということも大事。そのどちらかは常にやっておいたほうがいい。

 昔からよくいる「困ったプロデューサー&ディレクター」にありがちなことは、リテイクの指示は出すけれど、どこがダメなのか指示しない。どうしてほしいのかも言わない。こういうプロデューサー&ディレクターの下では、どういう絵を作っていいかわからないからスタッフは困惑する。クオリティアップのために何をしていいかわからない。集団制作の場で自分のプロデューサーという権威を印象づけするために、こういう無意味なりテイクをする人は昔からいるんだ。こういうのは実は筋力がまったく身についていないのをごまかすため……と見ていい。

 それからね……実はイラストレーターやアニメーターといった人達は、相手が絵のことをなにもわかっていないと見ると「舐める」ってことをするんだよ。「あ、こいつ何もわかってないな」って手抜きするんだよね。
 逆に相手がすごく絵のことをしっかり理解している……とわかるとちゃんとした絵を描いてくる。イラストレーターやアニメーターは意外と相手を見ているんだよ。
 イラストレーターやアニメーターは実力主義で生きているから、自分より絵の上手い人の話は素直に聞く。体育会系より体育会的意識を持つ。プロのイラストレーターの大半は「精神論」が大好き。相手が「わかってるな」と判断したときにはちゃんと敬意を示してくれる。
 今の世の中、色んな媒体でいろんなイラストを見かけることがあるけど……申し訳ないけどこの絵、イラストレーターが依頼人を舐めて描いてるな……ってのが一目でわかっちゃうものって結構ある(単に実力がないだけかもしれんけど)。
 金だけ積めば楽にいい絵が手に入るわけじゃない。そこそこの筋力しかない人は、そこそこの絵しか手に入らない。そういうのを見抜くための筋力は身につけておいたほうがいい。

 で、その逆に、絵が描けなくても絵に関するしっかりとした筋力が身についていれば、描き手の実力を本人が思っている以上に引き出すことができる。アニメの業界には高畑勲監督や押井守監督のように、自身では絵を描かないアニメ監督がいるが、こういう人の元で作品が作られると、アニメーター達がその他の作品以上に実力を発揮してくる。絵の上手いアニメーターが監督になれば、絵画的な特性に特化した作品が生まれるだろう……と思われそうだけど、実はそうではない。逆に自分が「自分の実力はここまで」と決めつけちゃっている場合があるので、それが制約になっていまいちなクオリティの作品になる事例もある。

 何にしても、自分がある程度筋力を身につけておいたほうがいい。今の世の中、生き抜くためにいろんな筋力は必要だし。筋力が身についていれば、依頼するときにも的確な指示ができるようになる。「お金出して描いてもらえばいいじゃない」感覚でいると、筋力がつくことは永久にない。
 筋力を身につけるのに一番手っ取り早い方法は、自分がある程度以上絵が描けること。これを越える方法はほとんどない。

 そうそう、ネットで面白い記事を見付けたので紹介しておこう。

 もしもプロのカメラマンがAI生成をやってみたら、どんなものができるか……という実験的な連載である。
 できたものがこちら↓

 その辺のAI生成美女と明らかにクオリティが違うでしょ。なんでこんなふうに作れるのか、というとグラビアカメラマンとしてやってきた「筋力」があるから。「プロンプトさえわかっていれば誰でも作れる」ではなく、「いい画」を作り出すためには、いい画がどういうものかわかっていなければならない。つまり筋力が付いていれば、クオリティの高いものを作れる。筋力が付いてないと、良い悪いの区別ができなくなる。「AIさえあれば、誰でもなんでもできる!」ではなく、良いものを作り出すためには筋力は絶対に必要なのだ。

 それからね、「お金を出して描いてもらえばいいじゃない」……というのはお金のあるうちならいいけど、そのお金はいつまでもあるものじゃないよ、と言っておきたい。よほどの富豪ならいいんだけどね。だいたいの人はそうじゃないでしょう。
 日本人って「貴族感覚」の人が多い。お金を出せば何でも手に入ると思っている。その感覚でいると、筋力はひたすら落ちていく。価値のわからないものを何でも手に入れたがるようになっていく。
 それに、今の私たちって、もう言うほど貴族でも何でもないでしょ。日本なんてずいぶん落ちぶれた国になったんだから。貴族感覚は捨てて、筋力は鍛えたほうがいいです。


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