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言葉の砂漠、文字の海

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言葉や文字にまつわる書き物をまとめました。
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#漢字

悲恋の文字がたり

悲恋の文字がたり

 人間と同じように、文字にも相性がある。
 同じ要素を持つ文字同士は相憐れんで寄りあい、仲間となり友人となり、恋人となり一族となる。熟語を形成する文字ともなればその惹きあう激しさは人知を超えるに違いなく、文字の世界では日々数々の事件が起こっているはずである。

 例えばこういう話は考えられないか。

 手元の書物に悲恋という文字が貼り付いていたとする。悲と恋はそれぞれ独立した固有の人格を持っている

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漢字について考えたこと(「悲恋の文字がたり」あとがき)

漢字について考えたこと(「悲恋の文字がたり」あとがき)

 以下は、上掲の記事を書くにあたってこんなことを考えましたという楽屋裏をつらつら語るような内容です。
 作家が自分の書いたものをくどくどと解説するのは、自分が作品内で表現する力がないことを告白しているに等しく、場合によってはかなりみっともない行為になりえます。画家が自分の絵の見どころを語ったり、音楽家がここを聴いて欲しいと主張したり、芸人が自分のネタの笑いどころを解説しはじめるようになっては興ざめ

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漢語の魔力

漢語の魔力

 漢語が好きである。ただし好きだからといって深い知識があるわけではない。ただ音の響きと硬質な見た目が好きなのである。

 趣味と仕事で、ともに昔の書き物を見ることが多いのだけれども、明治以来の戦前期については当然として、第二次世界大戦が終わってからでも、1950年代前半あたりに活躍していた日本の官僚や知識人は、大正期から昭和初期の教養で育った世代であり、漢籍と欧米語の素養を両方兼ね備えている傑物が

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