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日替わり

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日記。
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2022年3月の記事一覧

火弁

桜は今。

車から降りると境内では
小さな電灯のあかりで
うっすらと明らかになったこずえの
ほんの一部分の垂れかた。
こぼれそう。
若者の宴を聞く。
ああ、もういるね。

我々はというと真夜中に花見会を開くつもりはなかった。たださくら、なぜかもう見られない予感があった。ひとはいつどうなるかわからない。

一歩一歩のくらさと明るさの交互、厳とした黒い空から落ちてくる花が、いまここで停滞した時間につか

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ももたる

桃太郎トマト。
私はずっと貧乏です。

魚。
魚の脂は肉のとは違って優秀だと聞く。
でも値が張るので食べない。

ここは島国なのになぜ魚が高いのか。
海をばしゃばしゃ泳いでいる。
牛や豚よりうんと増えそう。
餌も少なくてよさそう。
なのになぜ高いの。
もっと社会科の勉強をしておくのだった。

なすやきゅうり。
ほとんどが水なのですって。それで買うのをためらうようになった。
あなたたちのことは見限っ

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恋と鏡

好きと思うとすべて好き。
恋は盲目とか人がよくいう。

たとえばフレンチブルドッグに恋をしたとしよう。かわいいね。
いや、フレンチブルドッグはほとんどの人がすでに恋に落ちている状態だから、一旦その恋をやめてもらってもいいですか。説明のために。一旦、先入観なしにフレンチブルドッグを見て。

顔しわくちゃ。
背低い。
それだったらブルドッグのほうがいい。
ぷるぷるしててなんか不安。
ずっと鼻がぶひぶひ

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小スキピオ・大好きピョ♡

よくは知らないんだけれども(知れ)、高校世界史のローマの単元のなかで

小スキピオ・大スキピオ

という偉人が登場する。

偉人がそんなかわいいことある?
まず「スキピオ」の時点でかわいい。
スキは意味としてかわいい。
ピは音がかわいいな。
そしてオも「お♡」というかんじでかわいいだろ。

しかもそれが大小ある。
ただでさえかわいいスキピオに大きいスキピオと小さいスキピオがある。

しかも大スキピ

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テプラ

計算口の見張りをした。
槍を持って立った。
「そのあいだ暇だとおもうので」家鴨課長は翼のポケットから小型の刻字機を取り出す。「これで文字を打ってちょうだい」

まえに、偉い人が視察に来た。接客に笑顔が足りなかったのだという。だから会計の鳥さんみんなが笑顔を忘れないように、注意書きをする。

盗賊がいないか見張りながら、刻字機にたくさん並んだ突起を指で押した。ぽちぽち。
♡笑顔で♡
♡笑顔かわいい♡

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だれかと

誰かと笑いあっているときだけが正常な自分で、あとの自分はすべて異常。人とのつながりだけが私を人間にしてくれている。これからだんだんひとりになっていくとき、ちゃんと正気を保っていられるか不安。

老いた人が若い人と友達になりたい気持ちがわかりはじめている。老いるということは分かれ道のたびに仲間と別れ、どんどん一人になっていくということで、私の場合どんどん正気ではなくなっていく。
若い正気な人を見ると

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家計簿

家計簿

母づてに、伯母の本を貸される。
伯母は入院している。母が見舞いに行く際に私の本棚から『夏の終り』を貸してあげたのを、伯母がそのお返しに小説を貸してよこしたのである。

『派遣社員あすみの家計簿』なる娯楽小説である。
題名から想像していたより現代的な内容で、「既読」だの「即レス」だのという伯母世代には親しまれない単語が頻出するのにと、感心する。
若く愚かな女が美男子にだまされ、一旦社会の底(底といっ

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ガラムマサラ師匠

ネパール人らしき人がスパイス売り場にやってきて言った。
「ガラムマサラどこですか」
面白くなってきたじゃねえか。

スパイスの小瓶がたくさん並んでいる棚の前まで来てガラムマサラを探しているということは、日本語で書かれた「ガラムマサラ」が読めないのだ。しかし日本語は上手である。特にガラムマサラの発音などは日本語のガラムマサラなので、私も一度でそれだとわかった。
あと、あなたがたがガラムマサラを探して

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皮膚疾患とはそんなもの

一か月ほどまえ全身が痒くなり、皮膚科に行った。医者に見せればきっと原因がわかるだろうと安心していたのは、過去三回の経験からである。

はじめて皮膚科にかかることになったのは夏、中学の帰り道。体育着の短パンから出た太ももが妙にかゆかった。蚊に刺されたかなあと思いながらぼりぼりかきつつ歩いて家についたら、右太もも全体が削ぐ前のケバブみたいにぶくぶくに腫れていた。
さすがにキショすぎて親もドン引いていた

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ジンの味

友人が「ジンを飲んでいる」というからジンってどんな味とたずねた。ジンはジンの味といわれた。

最近話題の日本のジン「翠」のジンソーダが缶で出た。コンビニで見つけたので、ジンの味を知るために買った。

ごくり、ふむふむ。おいしいかもしれない。しかしどんな味なのかはちっともわからないぞ。
なるほどこれがジンの味か。
と悟るに至らず。
いろんな味がした。
しかもそれぞれ既に知っているような、
あなたまえ

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だれも知っている空の黒さ

さようならをしたあと、気持ち悪くなった。行儀よくありたい、なんでも良い、なんでもおいしいと言いたいしそういう人でありたい自分と、居心地の悪さ、他者から見た自分の気持ちの悪さ、のりの悪さ、そういったもののあいだで吐き気を催していたのは、空きっ腹に酒を入れたのがよくなかったのだろうと考えれば次第に落ち着いてきた。

以前、バイト先の近くの韓国料理屋に行ったとき、店主から冗談で
「おいしくなさそうに食べ

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スポーツ

直翅出身の両親から生まれた僕は当然直翅族の体で生まれた。親も兄もある程度飛ぶことができたけれど、ぼくはできなかったから、ムシであることのいいところはゼロ。

そのせいか小さい頃からスポーツが大嫌いだった。保育園にいるころから、園庭で男の子たちがサッカーをしているのや、ドッジボールをして遊ぼうと保育士から誘われるのがいやだった。勝負をしたくない、見たくもない。勝ち負けを決めたくない。だってムシのぼく

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大塚愛「プラネタリウム」考

序 急にわかる現象

ある日突然心に響いてくる現象、ありますよね。

店内で一昔前の曲が流れているのを聞いたりなどして、それまで別段興味のなかった曲が突然「わかる」現象です。
そのときの自身の状況が曲とマッチしているからという単純な場合もありますが、そうでないこともよくあります。わけもなく響いてくる瞬間があるのです。

今回、大塚愛の「プラネタリウム」が突然わかりました。

数日前「クラゲ、流れ星

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向き合う

待ってばかりいて一日が終わる。部屋が四角いのでミルフィーユチョコレートも四角い。歯並びがよかったなら死ななくて済んだのに。外はずっと水の音。