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家計簿

母づてに、伯母の本を貸される。
伯母は入院している。母が見舞いに行く際に私の本棚から『夏の終り』を貸してあげたのを、伯母がそのお返しに小説を貸してよこしたのである。

『派遣社員あすみの家計簿』なる娯楽小説である。
題名から想像していたより現代的な内容で、「既読」だの「即レス」だのという伯母世代には親しまれない単語が頻出するのにと、感心する。
若く愚かな女が美男子にだまされ、一旦社会の底(底といってもライトな部類ではあるが)に触れることによって賢く強くなっていく話である。
無駄な深さはなく、軽い読み心地で女性の共感を得られるような内容であるが、男にはあまり好かれない本だと思う。終始金の話ばかりしているし、男は常に対象物として描かれる。
パーティは常に仕事ができる女性で、男といえば見た目のいい敵か王子様なのである(美少女戦士の物語類型)。女性が主人公なのであたりまえなのだが、女は仕事や内面性で、男は見た目や金で評価される世界観である。
これを私に薦める伯母……。

もしかして母は伯母に、私がついこのあいだ男と同居して破滅した話や、フリーターであることや、まさか男が好きであることなどを話してやいまいか。
男が好きであることは話してないにしても、突然男と同居しはじめたのを聞いたり女っけがなさすぎるところを見れば、勘のいい人ならすぐ気づく。
たしかにこの本の主人公は私の女バージョンだ。美しい女性であり、男からも声がかかるし、良い親友を大事にするし、真面目に頑張って最後には契約社員となる物語要素をすべて除けば、自業自得の愚かさで経済的に困りゆく序盤の人物描写はほぼ私。事実大変おもしろく読みおえた。

これが伯母からのアドバイスだとすれば気恥ずかしいし、ウケる。
私がいつまでもフリーターでいるのをやめさせるために女性向けの小説で説得するというのは慎重で、本好きの伯母らしいやり口であると感動した。
非正規労働者トニーの家計簿は時給1300円のままだが。

五本指ハムスター✌🏻🐹✌🏻