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【読書感想】むらさきのスカートの女

今回は、今村夏子さんの「むらさきのスカートの女」を読みました。とても不思議な話でしたが、実は奥深く、人間の複雑な心情が描かれていると思った作品です。

あらすじ

近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で働きだすように誘導し……。


感想


この本の感想を一言で言うなら、「え、どゆこと?」です。笑
ストーリー自体は面白く、とても読みやすいです。ただ、結末が、かなり謎です。「むらさきのスカートの女」はどこに行ったのかがよくわからないし、そもそも「むらさきのスカートの女」と周囲から呼ばれていたのかなと感じるようになりました。

語り手は、「むらさきのスカートの女」に対する執着がすごくて、完全にストーカーなんですよねw
作中に「むらさきのスカートの女」と友達になりたい、なんて書いてるけど、本当なんだろうか、と思うくらい。語り手から、「むらさきのスカートの女」に全く話し掛けないんですよ。

語り手は、「むらさきのスカートの女」に差し入れをあげたりするんですが、語り手が仕事中でも、彼女のことをストーキングしているし、「もはや語り手は何がしたいの?」って思っちゃうんです。そして、「むらさきのスカートの女」ではなくて、語り手の方が「異常」だということに途中から気付きましたw

ちなみに、以下は私の考察です。

①「むらさきのスカートの女」は、語り手が勝手に名付けた女性である
読んでいる途中で、「むらさきのスカートの女」は、街の人から、本当に「むらさきのスカートの女」と呼ばれているのか?という疑問が湧いてきます。
実は、語り手だけがそう呼んでいて、彼女に執着してるんじゃないかと思いました。では、なぜ「むらさきのスカートの女」に執着する必要があったのでしょうか。。。

②語り手は「むらさきのスカートの女」に、猛烈に嫉妬している

そもそも、語り手は、「むらさきのスカートの女」と本当に友達になりたかったのでしょうか。語り手の本当の目的は何だったのでしょうか。
私が思うに、語り手は「むらさきのスカートの女」を、この世から抹消したかったのではないかと思っています。
なぜならば、語り手は「むらさきのスカートの女」を自分と同じような影の薄い人間だと思っていたから。そんな「むらさきのスカートの女」が仕事ぶりを評価されたり順風満帆に過ごしていくことが気に食わなくなったのではないでしょうか。
というわけで本作では、「女の嫉妬」が、非常にうまく表現されていると思いました。

③語り手は、周囲に自分の存在について気付いてほしい&承認欲求が強い
物語は、全て、語り手目線で描かれています。つまり、語り手が、周囲から「どう思われているか」は描かれていないんですよね。
本作を読んでいると、変わり者(むしろ異常者)はのは、「むらさきのスカートの女」ではなく語り手だなと思いました。そして、語り手は、「むらさきの女」になりたかったのではないでしょうか。
自分と似たような存在であったと思ったのに、気付いたら、どんどん先を行ってしまう「むらさきのスカートの女」に対して羨ましく思うようになる。そして「私も、彼女みたいに、周りから認められたい」と思うようになっていったのではないでしょうか。


承認欲求は、人間皆持っています。「私を見て!」「私ここにいるよ!」と、わざわさ声に出して自分の存在をアピールする人は少ないでしょうが、本作のように、「本当は自分の存在を認めてほしいけど、それを表に出せない」という人は多いはず。
確かに、自分が持っている承認欲求を、周囲に見せるって、勇気が必要ですよね。そんな承認欲求との闘いをしている人間が、本作では、かなり描かれているように思いました。


まとめ


とても、不思議なストーリーでした。今村夏子さんの作品は、初めて読みましたが、今村夏子ワールドってこんな感じなのかなと思いましたね。
かなり独特の世界観だと思います。読者に、結末を委ねるスタイルの方なのかな?

しかし、ストーリーは面白かったので、また別の作品も読んでみたいと思います。ちなみに、「むらさきのスカートの女」は芥川賞を受賞されたということなので、前々からとても気になっていたんですよね。
本作に書いてあるのですが、今村さんご自身は、清掃員のお仕事を休んでいいと言われた次の日に小説を書き始めたそうです。
すごい発想力というか、行動力ですよね。そんな今村さんの世界観が、気になるので、また別の作品も読破してみたいと思います。

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