「お母さんを辞めたい」とググッてしまったら。
幼稚園が嫌いだった息子が、小学生になって。オルタナティブスクールに通うことになった。
毎日楽しそうに学校に通う息子を見ていると「ここに通っていれば、息子は大丈夫だ。」という根拠のない安心感に包まれる。
「息子に合っているだろう学校を選ぶ」という大仕事を終えて、ホッとしていたのはほんのつかの間。
幼稚園のときは預かり保育があったので、6時頃に迎えに行っていたけれど、今は4時に迎えに行っている。お迎えが2時間早いだけで、妙に時間が足りない。車の混み具合にもよるけれど、なんだかんだ往復1時間くらいかかる。朝と夕方に1時間ずつ、絶対に外せないタスクが固定されているということが、私の体を緊張させる。
「もう少し学校に慣れてきたら、帰りだけでもバスで帰ってきてもらおうかな。でもまだ文字がほとんど読めないし、時計も全く読めてない。そもそも時間の感覚がないんじゃないか・・・同じ方向の子はいなさそうだし、何かあったときに不安だよなぁ。文字と時計がある程度読めるようになってから1人でバスに乗る練習しようかね。それまでがんばれ、私!」
そんなふうにゴールを決めて、自分を励ましていたのだけれど。
そんなある日、学校での懇談があって「学習障害の可能性があるので、1度検査をしてみた方がいいかも。」と言われた。
学習障害。ディスレクシア。
気楽な気持ちで懇談に行ったので、スタッフさんから予想外の言葉が飛び出して、動揺した。
「学習障害」については、ふわっと知っているくらいだったので、図書館で本を3冊借りてきて読んでみる。私の中では何かを知りたいとき、それについての専門書を3冊読めば、おおよその全体像が見えてくるような感覚がある。
自分の名前を、なかなか書けるようにならない。いっしょに練習しようとしても、すぐに疲れてしまう。「鏡文字」になってしまう。
でもまだ1年生だから。
そう気楽に考えていたけれど。
本を3冊読んでみて、その可能性もあるだろうなぁと思わざるをえなかった。
とりあえず市役所に行って、何度か面談を経て、今度検査をしてもらうことになっている。
そんな中、息子がゾウムシをどうしても飼いたいと言い出した。息子が捕まえてきたのは、オジロアシナガゾウムシという種類で、主に「クズという植物のツル」で生活しているそう。クズを虫かごに入れてあげる必要があるので、2日に1回、学校帰りにクズの葉っぱを取りに行く。またタスクが増えてしまった。
家に帰ると2人きり。がっつりリモート勤務だった父ちゃんが、最近出社することが多くなってしまった。私の姿が見えなくなると、息子はダダダッと大きな音を立てて走ってくる。トイレにもついてくる。リビングで1人になるのが怖いらしい。トイレくらい1人でさせておくれ、お風呂も私が洗ってから入ってきておくれ、とイライラする。
そんなこんなで。
時間的にも気持ち的にも、
息子でいっぱいになっているここ数ヶ月。
お家サロンをはじめたのはいいものの「まずはチラシを配るぞ〜!」と意気込んでいた気持ちはどこへやら、発注した大量のチラシが配られずに部屋に置かれている。
やりたいことが山ほどあるのに。
勉強したいことが山ほどあるのに。
なんだか集中できない。
あーあ。お母さんなんて辞めちゃいたい。
そんな心の声がはっきりと聞こえてきて、
ハッと我に返った。
いくら疲れているからって、さすがにそれは思っちゃダメだろう。でも「思っちゃダメ」というのはなかなかむずかしい。「言っちゃダメ」なら、自分の意思で口を閉じておくことはできるけど、湧いてくる気持ちを閉じるためにはどこにフタをすればいいんだろう。
でも、湧いてきてしまったどうしようもない気持ちに、罪悪感を感じずにはいられない。
息子のことはもちろん大好きだけど、どうして子育てってこんなに大変なんだろう。一難去ればまた一難、次から次へと向き合うことがやってくる。
私の忍耐が足りないのだろうか。
私はわがままなんだろうか。
こんな気持ちが湧いてくるのは、
私だけなんだろうか?
ふとそんな疑問が湧いてくる。
何か疑問を感じたとき、私はすぐにGoogleさんを開いてググッてしまう。お母さん6年生にして、はじめて「お母さんを辞めたい」という強烈な検索ワードでググッてしまった。
お母さんはそんな簡単に辞められるものではないし、そもそも辞めるつもりなんてないけれど、なんとなくググッてしまったのだ。
「ママやめたい人が7割」
1番最初に私の目に飛び込んできたのは、その言葉だった。7割は多すぎやしないか?と思いつつも、ホッとしてる自分に気づく。
いろんな記事を読んでいるうちに、「お母さんを辞めたい」という気持ちが湧いてくることなんて、当たり前のことなのかもしれないなぁと思えてきた。
だって、どんなブラック企業よりも激務だ。
大切な人を相手にすることだから、気持ちが大きく動く。正解のない答えを求めて、アレヤコレヤと考えてしまう。
そして、仕事はやめようと思えばやめられるけれど、子育ては辞めることなんてできない。逃げられない。終わりはあるはずだけれどなかなか見えない。向き合うしかない。
お母さんのしんどさは、そういうところにあるような気がする。
心の中でひっそりと「お母さんを辞めたい」と思うことくらい、きっと大丈夫。子供本人に言ってしまったわけじゃない。本当に辞めるわけでもない。
「お母さんを辞めたいと思うくらい、今しんどいんだよね」って、ただ自分で自分の気持ちを抱きしめてあげられたらいいなと思った。
自分のスマホでひっそりと「お母さんを辞めたい」とググッてしまったら、自分と同じ気持ちをひっそりと持っている人たちがたくさんいるんだということがわかってホッとした。
私みたいに、だれにも言えない本音を抱える人たちが、毎日毎日Googleさんにそっと胸の内を打ち明ける。
Googleさんは、同じ気持ちを持つ人たちをつなげてくれる。そして、「あなただけじゃないよ、大丈夫。」と励ましてくれる。
私もnoteを通して、インターネットの上に、そっと自分の気持ちを置かせてもらって。
話したことも会ったこともない、名前も知らない誰かがひっそりと、何気なくそれを読んでくれてホッとしてくれたのなら。
そんなことを想像しながら、このnoteを書いていると、妙に筆が進む。
そんなこんなで、なんだか気がすんで、
また息子との日々を楽しもうと思った。
「母ちゃん、アイス食べたい!」
息子の声が耳に入り、スマホをパタンと閉じて、机の上に置いた。
「新しいアイス買っといたよ。いっしょに食べよ。」
冷凍庫からアイスを2つ出してきて、ソファに並んで座って、一緒に食べる。
そのとき、ハッと大事なことを忘れていたことに気づいて、食べていたアイスを急いでお皿に置いた。
もう1度スマホを開いて、Googleさんを開く。
そして「お母さんを辞めたい」という検索ワードを削除した。
自分のスマホなんて自分しか見ないのに、なんで削除しなきゃいけないと思ったんだろう。万が一、息子がスマホを見てしまっても、息子はまだ文字が読めないのに。
「母ちゃん、急にどしたん?」
「ん?なんでもないよ。」
隣に座る息子のキョトンとした顔がかわいい。まだまだ高い声も、まだまだふっくらしたホッペも愛おしい。
私は、息子が大好きだ。
「お母さんを辞めたい」と検索したのは、
私とGoogleさんだけの秘密としよう。
長い長いお母さん生活。
そんなときだってある。
大丈夫だ。
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