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#22 テレビは遺族取材をどう考えているのか

北海道知床沖観光船沈没事故では26名の方々が亡くなった、もしくは行方不明のままになっています。これまでにたくさん報道されてきたので、多くの情報に接してこられたかと思います。

沈みゆく船の中から奥さんに電話をかけて「今までありがとう」と伝えてきた男性の話ですとか、やはり胸が苦しくなるようなそういった話がたくさん伝えられてきています。

私たちメディアは遺族取材をどう考えているのか。僕個人の考えを記したいと思います。

20代のときから星の数ほど取材をしてきました。リポーターをしていたということもあり、全国各地、北海道から沖縄までそうした事件や事故があると取材に行きました。必然的に付いて回ってくるのが、遺族取材。

大きな思いとしてあるのは、遺族の声を通じて、その事件の凄惨さですとか、残された人たちの無念さであるとか、そういったものをきちんと伝え、類似の事件が二度と起こらないようにしたい。再発防止という思いが一番大きな根底にあります。

なぜこんな事件が起きてしまったのか、なんでこの事故が起きてしまったのか、そしてそれに巻き込まれた人たちはどういう思いで今過ごしているのか。こうした出来事がきっかけで新しいルールや法律ができることもあります。

もちろん、話したくないという方々もいらっしゃいます。そういうときは無理にお願いすることはありません。

取材に出かけますよね。ご自宅は判明します。ピンポンしていきます。何かこういうこと言うと、すごく矛盾してるように聞こえるかもしれませんが、お願いだから家に居ないで欲しい、そう思ってチャイムを鳴らすことも多々ありました。

自分のお子さんを亡くした親御さんに話を聞きに行っく、どんな顔していけばいいんだろうかとか、こんな20代の若造が来て、なんかもう余計腹立たしく感じないんだろうか、とか心の中にいろんな葛藤を抱えながら取材をしていました。

気持ちを切り替えたきっかけ

ではどうやってその気持ちを切り替えたのか。

取材の原動力としていたのは、今でこそ大きな事件事故が発生して、関係者、ご遺族の方々をメディアがバーっと取り囲んでグチャグチャになるというようなことはもう、ほぼなくなってるんですけれども、それはやっぱり各社みんなで話し合って、そこは適切に配慮してやりましょう、とか一社のみ代表として話を聞く、とかそういったルールが現場で成立することもあります。昔、20代のときはメディアスクラム状態に陥ることが本当によくあって、やっぱりそれが発生しちゃうとですね、現場にいる者としてもやっぱりマイクを出さざるを得ない。

本社的には「なんで取れなかったんだ!」ってことにもなりますし、ご遺族のなかには、ぜひ声を聞いてほしいという方々もいらっしゃることはいらっしゃるんですね。

だから聞いてみなきゃわからないっていうところもあるんですが、一方でその現場にいる者として「そんな不謹慎な質問あるか」と感じる同業者もいます。「そんな馬鹿な質問をするのか」と心底おもってしまうようなリポーターもいるんです。

だから、僕はその時思ったのは、自分がチャイムを鳴らして聞きにいく以上、ひょっとしたら傲慢な考えかもしれないけれども、最も遺族の方々、関係者の方々に寄り添う。心から寄り添って、一番気持ちをきちんと汲み取ってあげることができるリポーターになろうと。

だから他の人には行かせない。僕が必ず、一番もっとも寄り添ってみせる。
そういう思いで話を聞きに行っていました。

でもやっぱりね、つらいですよ。話を聞いていて、一緒に泣いてしまったこと、涙してしまったことは多々あります。

発生直後はリアリティがない

大きな事件や事故の場合、発生直後だとリアリティがなくて、淡々と答えてしまうことがあるんですね。それは後からオンエアを見てみると、なんでこんなに冷たいだろうか、冷静なのか、というふうに受け止められがちなんですが、自分自身の経験を振り返ってみても本当に発生直後って、リアリティがないんですよね。

祖父が亡くなったとき家族旅行で熱海に行ってたんですけれども、僕の親が、僕にすぐには伝えなかったんですね。本当に突然なくなってしまって、それを伝えたところで僕はなにもできないし、せっかく楽しい家族旅行に行ってるのにそこに水を差すようなことは、おじいちゃんも望んでないだろうという思いから言わなかったのです。旅行の最終日、1泊2日なんですけれども、帰ってくる日のその帰りの電車の中で、その一報を聞きました。「実は黙ってたんだけれども」と。

大好きでした。今でもね、1週間に1回夢に出てきたりするんですけども。
そりゃショックですよ。ショックだけど、その時ね。「そっか死んじゃったか」という思いだけでした。

品川駅に着いて、家族でご飯を食べてるときに、もう涙が止まらなくなったんですね。嗚咽です。お店のなかだったんですけど。

そのときに、自分の身をもってわかったわけですが、発生直後だとやっぱりリアリティがないから感情が追いつかない。しばらく時間が経ってくると、段々とその重みがわかってくる。

そういった経験もありますので、発生直後のご遺族や家族の方々って、答えてくださるというパターンがすごく多いんですけれども、感情が追いつかないこともある。その辺の難しさもあるなという気はしています。

知っていただきたいのは、私達としては大きな事件や事故に対して、二度と起きて欲しくない、それを防ぐためにはどうしたらいいのか、遺族の人たちの声、思いを伝えることによって法律やルール、そういったものが変わっていくことを強く望んでいます。

そしてもちろん、声を聞いてほしい、これを伝えてくださいとおっしゃる方々もいます。そういう人たちがいることも事実ですので、そういう人たちの声も必ず伝えていきたい。

ただ、僕自身の経験で言えば、非常につらい、当時の取材を思い出しても涙してしまうような、インタビューもたくさんありました。なので、さまざまな葛藤を抱きながら取材を続けています。そういった思いを知っていただけたらな、と思います。

知床沖観光船沈没事故で行方不明になってる方々の、早期発見を祈っております。

(voicy 2022年4月29日配信)

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