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フットボールと政治の国の男の物語「夜の少年」

僕にはかなり衝撃だった。
この重苦しい読後感は記憶にないぐらいだ。

フランスのメス(Metz)、ドイツ国境に近い地方都市に住む男「わたし」の話。
鉄道会社に勤務する男は、妻を癌で亡くし二人の息子を育てていた。
心優しい長男のフスは、妻の闘病中に次男がまだ幼かったこともあり、男にとっても次男にとってもかけがえのない愛すべき存在。
ところがそのフスが変わってしまった、そして…。
という物語だ。

読み終わって息苦しいほどだったのは、家族の物語、息子と父の物語としての感動じゃなくて、「わたし」の心情があまりにもつらく、悲しく、そしてリアルだったから。

人生はやり直せない。
過去を良くするための今と未来、というのが僕の信条だけど、やはりどうにもとりかえしのつかないことがある。
物語の中に救いはなかったけど、「わたし」の人生は続く。

ところで、フットボール(サッカー)が、ヨーロッパの映画や小説のプロットのかなり重要な要素として登場することは多い。
フットボール好きでそう呼ばれるようになったフス。彼の週末の試合やFCメスの応援は、家族3人を繋ぎ緩衝材としても存在したはずだ。
また、政治哲学への関心が高いフランス人だから、鉄道会社で組合活動をしている「わたし」が、愛すべき長男が極右グループと行動を共にしていることを知ったときの大変さは相当なものなのだろう。

作家ローラン プティマンジャンは、僕と同じ年齢。メスで育ち、父親が鉄道会社に勤めていたらしい。
FCメスは日本代表の川島永嗣選手が在籍していたことで知られている。


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