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じゃない方ゲー人による、平成ゲーム業界回顧録 #09

アシスタントの仕事が始まると、僕は他の現場を経験した訳でもないペーペーだったので、簡単なページを回してもらいつつ、空き時間はパースの取り方や掛け網などの効果といった、技術的なテクニックを教わりながら練習に励むことになった。

先生の職場では、そうした技術的な修練や、プロを目指す他のアシスタントとの交流も楽しかったが、何よりも先生の話が面白かった。

先生は自宅にも作業場があり、週末に自宅でネームを仕上げると仕事場に訪れて、原稿用紙に下書きを描いて、メインキャラのペン入れを済ますとチーフに原稿を回して指示を出し、後は原稿の仕上がりのチェックとリテイクを繰り返していくといった流れだった。

仕事場の先生のデスクは別部屋だったので、一緒に作業を行うようなことは少なかったのだが、自分の作業が終わるとちょくちょくアシスタントの作業部屋に顔を出して雑談を始めることが多く、いろいろと興味深い話を伺うことができた。

特に印象に残っているのは、ストーリー作りの考え方についての話で、先生曰く”物語は数式で表せる”とのことで、なんでも物語に必要なキャラクター、テーマ、設定その他の要素を変数に置き換えて、表現したい話の方程式に当てはめれば骨組みが出来上がるといった内容だった。

ただ、あんまり数式通りに物語を進めると予定調和になって面白くなくなるので、それを如何に意図的に崩していくかが鍵なんだ、みたいなことも言い出して、おそらく漫画の作劇のメソッドとしても良く言われる”帰納法”と”演繹法”を組み合わせて考えろということなのだと思うが、数学的素養のない自分には思いもつかない発想で、先生の才能の一端を垣間見たようだった。

ちなみに、この時は知らなかったのだが、(ファンには有名な話のようだが)先生は数学の教員経験もあるとのことで、だからこその座学のような雑談で、また数式で物を考える思考回路なんだと腑に落ちた。

他にも、意外とお調子者の一面もあり、先生の自宅に引越しの手伝いに行った際、井の頭公園を見下ろすように飾られていたゴジラのフィギアを見つけ、そのディティールの細かさに感心してまじまじと見つめていたら、「俺ね、ゴジラの監督やってみたいんだよね~」みたいなことを言いだして、「俺にやらせてくれれば、もっと面白いの撮れると思うんだよ。だから、こうやって毎日目に付くところに飾って、気持ち高めるようにしてるんだ。」と結んでいた。

普通の人が同じことを言っても与太話にしかならないが、先生の場合、実際に大学で仲間と映画を撮っていた経験があり、自身の漫画のカット割りや構図、カメラワークといった要素にも多分に映像的なセンスが見受けられていたため、仲間内のネタ話にとどまらないリアリティがあった。

僕は、自分の夢や目標を口外して自分に発破をかけるような、”有言実行”タイプではなかったので、先生のそのエネルギッシュな感性にいつも圧倒され、感心することしきりだった。

#創作大賞2023

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