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考えを本にまとめるって、実はものすごい貴重なスキルなのでは

こちらの本を読んでいて、ふと思ったことを。

数々の媒体を仕掛けてこられた編集者・菅付さんの色褪せない、編集についての講義録です。事例も多く、読みやすい文体もとても好きです。

雑誌の世界ってそうそう、こういう感じだった!という懐かしい気持ちも湧きあがりました。編集者って、体中にセンサーをつけて、あらゆる方向で物事を編み直し、2次元に落とし込んでいく。もうちょっと古い言い方なのかもだけど、”カリスマ”と呼ばれてしまう人たちでしたよね。


ですが昨日ちょうど、書店へ寄ったのですが、雑誌のコーナーには相変わらずの点数が確認できるものの、「ちょっと買っとこ」みたいなテンションにはなりませんでした。

オンライン上で、読み放題なプランもあるからかな、今、紙としてある雑誌の魅力って、なんだろうな、と思います。

今なら、推しが表紙だったら買うとか?ですよねきっと。

この本にも触れられていますが、メディアはそれぞれに特徴や役割が異なり、その一つが、「フロー」的なのか「ストック」的なのか、という点です。

つまり、ウェブ上のマガジンやSNS、このnoteもそう、大量の、しかも即効性のある伝搬を行うのがフロー的なメディアですね。逆に紙ものは、アーカイブや記録、資料性のような役割を担うストック性の高いメディアです。

私が出版の世界に入った頃は、紙ものがもうデジタルに取って代わられる〜!と叫んでいただけ(でもないか)の時代で、まだまだ、紙の雑誌や本は元気で、どこか「権威的」なものがあって、そこから新しいカルチャーが生まれたり、といったことが多少なりとも起こっていたと思います。

今は、どうかなあ。

新しい著者やカルチャーって、今はTikTokを筆頭とするSNSからがほとんどでは。かつての雑誌はもう、SNSに飲み込まれているのかもしれないと思ったりしますね。

オンライン上の読み放題マガジンに上がっている各雑誌の表紙を流し読みして感じるのは、デジタルに乗っかることを前提として作られた雑誌においては、

カルチャーを牽引することよりも、どこかフロー的な情報、編集の仕方のほうが、よっぽど重要になってきている、ということかもしれないです。

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ちょっと前置きが長くなったのですが、まあそんなことをこの本を読みながら考えていたとき、ふと自分の仕事を振り返って感じたことがありまして。

それはつまり、すでに雑誌がフロー的なメディアとなっているんだとしたら、

本や雑誌を作る、といったような、「考えや思いをまとめて物質として形にする」という作業においての企画・編集力っていうのは

非常に貴重な能力になりつつあるなあ!

ということでした。

紙がもったいないという時代性も加味すると、今後、紙を使って本とか雑誌にすることに、かつて以上の(?あるいはかつてとは異なる?)価値が必要です。

その価値は、もっと身近で、足元にあるようなものかもしれません。

今まではマスに向けて放つための物質だったものが、今後はより、小規模で個人的なものになっていくのかもしれん、ですね。

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本づくりで言うと、本ってまさに、情報をストックするメディアです。

しかしながら、私たちは日々、いや分ごと、秒ごとに変化していく生き物です。刻一刻と変化する自分が、本づくりに取り組もうとしたら、ある一定期間、立ち止まらねばならないわけです。

流れ続ける「考え」を停止させて、じっくりそこに留まり、あるいは切り捨てながら、まとめていく勇気が必要です。

「立ち止まる」「切り取る」「閉じ込める」「(書くのはここまでと)決める」という、どこか”停滞”させるエネルギーでしか、本は作れない。

それって、流れる情報やメディアに慣れている人たちからすると、なかなかむずいことなんじゃないかと思ったのでした。

特に、そうした情報の方が取り扱いやすい若い人たちにとったら、本を書くといっても何をまとめればいいの?え、もう考え変わったけど???みたいな感じになるんじゃなかろうか???

本づくりそのものも、すごく変化していることはもちろん踏まえた上で、

ぐっとしゃがみ込んで、そこに留まるようなエネルギーで根気強く向き合っていくことが求められる本づくりって、

高齢社会まっしぐらの未来、めっちゃ希少価値の高い能力になっていくのでは、と思ったのでした。

エネルギーとしての差異はないのでしょう。

雑誌が元気だった頃、ゼロいちの創作をしていくぞ!というような創造性とはベクトルが違うだけの話で。身近なところで小さく深く、発揮されていくのではなかろうか、という忘備録です。

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