「人間の性 三島由紀夫の言葉」

三島由紀夫の名言集なのだが、三島らしく、安易に納得・共感・感動するようなものは、ただの一つもない。

名言というよりも、小説やエッセイ、雑誌の記事などで書かれ、もしくは語ったものであり、ある意味では、ひねくれた、斜に構えた見方で、人物や物事、様子、現象等を分析するかのごとく綴っているから、至って痛快である。

「どうしてこう朝から晩まで、人間は、人間に関心を払い続けるか呆れるばかり。朝の新聞、隅から隅まで人間のことばかり。それからテレビ、次から次へと人間ばかり現れる。たまに動物が登場しても、口当たりよく擬人化されている。そして人間の話ときたら、人間の事ばかり…」

…というように、人間に呆れながらも、大きな関心を持って人間を見つめた三島だけど、考えてみれば、その人間の人間性も、他の、この世界に存在するすべてのことが『矛盾』したものであるといえ、『矛盾』があるばかりに、人間は今以上の高さの極みまで成長できないのではないだろうか。

矛盾だらけだった三島由紀夫は、だからこそ時代を超えて魅力的に写るのだ。きっと。矛盾が大きい人間ほど面白いものはないからね。

「老人と若者の違いは簡単なことで、老人はこの世の中が変わることを知っているから、強いて変えようともしないし、若者はこの世の中が変わらないと思いつめてるから、性急に変えようと努力する。そして結局、世の中は多少とも変わるのだが、それは実のところ、老人が考えるように自然に変わったものでもなければ、若者の考えるように革新の力によって変わったのでもない。両者の力がほどほどに働いて、希望は裏切られ、目的はそらされ、老人にとっても若者にとっても、100%満足という結果には決してならずに、変わるのである」。

ラストに、「私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら日本はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう。それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである」。

俺も、口をきいてもらえないなぁ(笑)。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。