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【NYスポーツ日誌】 #2(9/4/2021 テニス 全米オープン)

今回は全米オープンテニスを観戦してきました!

私自身テニスを見るのが初めてで、バイアスなしに興行面・商業面を見ることができたので、非常に新鮮な経験ができました。

アメリカンスポーツではないテニスがどのように運営されているか?非常に興味を持っていたのですが、

端的に言えば、競技特性に応じた会場作りが巧みで、「そりゃカネが落ちるよなぁ」と思える工夫が随所に見ることができました。

その辺りの自分の気付きを書いてみましたので、お時間あれば読んで頂けると嬉しいです!

もしテニス観戦経験のある方で、「テニスはこういう点が面白い」「実はこれってこういう背景がある」等、私がカバーできていない部分でコメントあれば、どしどしお待ちしております!

1. 考え抜かれた会場設計

テニスの会場の会場設計は、私の知る野球・サッカーのそれとは大きく異なっていた点には驚きで、開催形式に応じた会場設計により、利益を極大化する仕組みができあがっていました。

まず、そもそもですが、テニスのチケットは試合区切り(ex. ジョコビッチ vs 錦織)ではなく、時間区切りというのはご存知でしたか?

私のチケットの場合、「9月4日 全米オープン3回戦 男子/女子シングルス 午後7時〜」としか書いていないのです。

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どういうことかというと、テニスはトーナメント制で、一日の枠の中で同じ会場で男子・女子合わせて立て続けに試合を行う都合上、

大まかな試合開始予定時刻はあるものの、前の試合内容によっては後ろの開始時刻にズレ込むことが多々あり、厳密に試合ごとにチケットを区切ることが難しいため、

観客は時間区切りでスタジアムの出入りすることになっています。(怪我等による棄権もあるので、そういうものへの対策という意味もあると思いますが)


こういった仕組みとなっていることから、私の印象ですが、他のスポーツと比較して観客の試合開始時刻への意識が低く、

大体始まりそうな時間の少し前に集まり、少しゆっくりして、自分たちがスタジアムに行きたくなったら行く、といった感じです(そもそも試合を頭から見る人が多くない)。

従い、そんな慣習を踏まえ、スタジアムに入るまでの導線にビジネスの目が向けられており、

せっかく会場内にいるならば、その時間を楽しんでもらえるような時間にすればよいということで、何とも上手な会場設計がされています。


その1:会場はスタジアムではなくテニス村

全米オープンはスタジアムのみならず、会場敷地も一体となって観客を楽しませるような仕組みになっています。

一般的なスポーツでは、観客がチケットを見せ入場するのはスタジアムだと思いますが、

全米オープンでは会場敷地(Billie Jean King Tennis Center)に入る際にチケットを見せ入場します(下図ではEAST GATEやSOUTH GATE、スタジアムに入る際はチケット軽い確認程度)。

ゲートを通れば、試合会場のスタジアムを含めた「テニス村」が観客を待ち受け、

スタジアムのみならず、バー、フードスタンド、グッズショップ、露店、メモリアルスポット等、観客を楽しませる要素が所狭しと並んでいます。

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野球などではスタジアムの中にこれら機能を含めてしまいますが、全米オープンではスタジアムの外に置くことで、

観客がスタジアムに入らずとも、試合だけでなくテニス観戦に来た雰囲気を楽しんでもらえるような設計としています。

実際多くの観客がグッズショップに並んだり、食事をしたりして、各々試合に赴くまでの時間を楽しんでいました。

同行の妻も「テニスのお祭りみたい」と評していましたが、

確かにスタジアムでの試合を盆踊りとすると、盆踊りの輪の中で踊る人もいれば、踊らず露店で飲み食いする人もいる…なるほど、これは祭りですね!

<写真撮影時、既に試合は始まっていました>

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その2:Food Village

メイン会場であるArthur Asheスタジアム前にFood Villageと呼ばれるゆっくり食事ができる場所があるのですが、これがキラーコンテンツだと感じました。

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一般的な野球のスタジアムでは、スタジアム内に売店があり、買ったドリンクやフードを席に持ち帰って食べるか、コンコースで食べるか、のどちらかとなりますが(VIP席やラウンジを除き)、

全米オープンでは、写真のように誰でも利用できるフードコートのようなエリアがあり、スタジアムを眺めなら、何とも良い雰囲気で、ゆっくりお酒を飲んだり食事をすることできます。

上述の通り、スタジアムに行きたくなったら赴くスタイルなので、

家族や友人と試合前に一杯引っ掛けて、気分が盛り上がり次第、試合に赴くにはもってこいの仕組みで、

実際に試合が予定時刻きっちりに始まっていましたが、Food Villageにはたくさんの人が残っていました(これからスタジアムで見る試合を備え付けのテレビで見てるほど笑)。

そこでは、かなり良いお値段のドリンクと食事を注文しまくっていることもあり、試合が始まる前から相当な金額が全米オープン側に落ちていることになります。

かくいう我々夫婦も、試合のチケットは一番安いもの(約40ドル/人)を購入しましたが、Food Villageでまったりし過ぎて、

7時開始のところ、8時前くらいまでいてしまい(周りも全然動かなかったこともあり)、結局ビール(一杯14ドル!)、ポテト(10ドル!)、ワカモレ(17ドル!)を注文し、

後にスタジアム内で買ったドリンクを合わせると、一人頭チケット代と同じくらい食事とドリンクを購入したこととなり、まんまと全米オープンの策略に乗っかってしまったことになります。

<こんな所で飲んだら美味しいに決まってますね…>

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あと、これは考えすぎかもしれませんが、スタジアム外でまったりした観客が気分良いまま観戦するため、そのような観客が集うことで必然的にスタジアムの雰囲気も上がることとなります。

つまり、これって最終的にはメインコンテンツである試合を盛り上げるための伏線になっているのではないかと。

どこまで計算されているかは定かではありませんが、もしこれを狙って設計しているのだとしたら、

たかだかフードスペースを置いただけとはいえ、恐ろしいほどまでに考え抜かれた戦略だと言えます。


2. 名物ドリンク戦略

スポーツ観戦になくてはならないのがドリンクで、前回ブログのヤンキースタジアムでの「ビールが高い、でも買ってしまう!」話がありましたが、

それはどちらかというと、物理的に高いビールを買わざるを得ない状況を作った結果だと思いますが、今回の買ってしまう!は、「ここでしか飲めない、だから買ってしまう!」です。

つまり、「名物ドリンク」を駆使したドリンク販売です。


ことの発端は、試合前にFood Villageで食事をしている際、「ウォッカ」と書かれた露店に長蛇の列ができており、

それを見て「テニス人はビールではなく、ウォッカを試合前に引っ掛けるのが慣習なのか?」と、少し鼻で笑っていたのですが、

露店で買い終えた観客が皆手にしていたのは、そんなウォッカのショットのようなパンチのあるものではなく、こちらのドリンク↓

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名前は「Honey Deuce」というウォッカベースのカクテルです。

遡ること2006年、Grey Gooseというフランスのウォッカメーカーが、全米オープンにスポンサーするにあたり、全米オープン用に何かドリンクを作れないか策を練り、

詳細は割愛しますが(詳細が気になる方は下記URLご参照)、誰でも親しめる、夏のニューヨークの気候に合う、テニス観戦にマッチする(黄緑色の球体はメロンで、テニスボールを模しています)、ドリンクとしてこのHoney Dueceが誕生しました。

2015年〜2019年で累計100万杯を売り上げるモンスタードリンクで、私の目測ベース約7〜8割ほどの観客が手にしており、「全米オープンといえば」を表す風物詩ドリンクとなっています。

ウォッカベースながら、レモネードとラズベリーリキュールが入っているため、お酒が強すぎず、でも甘すぎず、なカクテルで、老若男女楽しめるお酒です。

気になるお値段ですが・・・

一杯20ドル(約2,200円)!!

と、銀座のバー並に高いのですが(提供側は儲け過ぎて笑いが止まらなくなっていると思います)、

カップがしっかりとしたプラスチックでできていて、カップには歴代の全米オープン優勝者が記載されている等、各大会オリジナルのものになっており、

お土産として持ち帰ることができるため、コレクター心もくすぐるアイテムに仕上がっています。


値段設定や購入環境を上手く操ることで、ドリンクやフードからのコンセッション収益を大きくすることは野球でも感じましたが、

ここでしか買えないオンリーワン商品、年に一回しか開催されない全米オープンでしか買えない商品、というとてつもなく限定力の強いアイテムを作り出すことで、

コンセッション戦略を加速させる施策にはもう脱帽でしかありませんでした。

<こんなツワモノもいました>

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3. スタジアムの雰囲気を作るキャパシティ・形状

私が今回観戦したのはメインスタジアムであるArthur Asheスタジアム(約2.4万人収容)ですが、非常にスタジアムの雰囲気が醸成されやすいスタジアムだなと感じました。

その証拠に、私が観戦したShelby Rogers(世界ランキング78位) vs Ashleigh Barty(同1位)の試合は、Rogersの大逆転勝利というジャイアントキリングでしたが、

Rogersがアメリカの選手ともあり、その時のスタジアムの雰囲気は、声援が会場内にこもり、360度から声援が飛んでくるような、とんでもないものでした。

全英オープンのセンターコート、全仏オープンのセンターコート、全豪オープンのロッド・レーバー・アリーナ、どれもキャパシティは約1.5万人なので、

Arthur Asheスタジアムは、テニスのスタジアムにしては、巨大であることは間違いないのですが、

過去私が観戦経験のあるスタジアムは、どれも段違いに巨大なものばかりだったので(ヤンキースタジアム、カンプノウ、サンシーロ、日産スタジアム等)、

決して良い比較対象ではありませんが、ただどのスタジアムも、大きすぎて観客が作り出す一体感が生まれるかというと、必ずしもそうではなく、

どうしても観客のエネルギーが分散してしまうのかなと思います(もちろん競技によってスタジアムの作りや応援方法も異なりますが)。


全くもって持論ですが、やはりスタジアムの一体感というのは、適度なキャパシティ x スタジアムの形状だと考えており、

大きすぎてもダメ、オープン過ぎてもダメ、ということで、

Arthur Asheスタジアムのように、程よく大きく、傾斜の強いすり鉢状のスタジアムは、ファンの応援を十二分に活かすスタジアムなのではないかと考えています。

傾斜が強いと、上の席からもちゃんとプレイが見え、試合に参加しやすいというのも一体感醸成の鍵かと思い、

今回の私の席は一番安いチケット故、一番上の方でしたが、十分ワンプレーごとに一喜一憂できるほどのものでした。

また、類似例として、NBAのNew York Knicksの本拠地で、世界で一番有名なアリーナでもあるMadison Square Gardenのキャパシティは約2.1万人程で、

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これもやはり程よいキャパシティで、(そもそもアリーナということもありますが)形状がオープン過ぎないという点では、Arthur Asheスタジアムと共通しており、

Knicksの熱狂的な応援が実現しているのも、ご理解頂けるのではないかと思います。

ただ、この辺は、まだまだ感覚知で話してしまっているので、しっかりと秋学期のFacilities & Events Managementで勉強してみます。

スタジアムの形状には以前からすごい興味を持っていて、スタジアムの形状の変化により、どのような効果(音響、視野、気温等)が生じるか、調べてみたいと思っています。

ちなみに、私がスタジアムとして一番良い形をしているのではないかと直感的に感じているのは、伊東市にある大室山火口跡で、

旅行で行った際、美しい風景もさることながら、なぜか直感的に「ここをスタジアムにしたい」と思ってしまい、その意味を探してみたいと思います笑

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4. 最後に

実は学校のウェルカムイベントで先週ニューヨーク・メッツの試合に行く予定だったのですが、

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、その日のニューヨークは不運にも豪雨に見舞われ、泣く泣く延期となってしまいました…

これから授業が始まり、どれほどスポーツ観戦に行けるか不明ですが、こちらではカレッジフットボールが始まり、

そろそろNFLやNBAの冬のスポーツも動き出すので、時間を見つけて精力的にスポーツの現場に身を投じて行きたいと思います!

またお時間あれば、お読み頂けると幸いです!

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